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4 学園の変化

 この日、邸に戻った学園生のうち何人が当主からお小言をもらったのか。

 翌日、学園に着いたクローヴィルとアンリエッタへと話しかけようとする者が多くいた。

 顔を見た途端に謝罪を口にした者、それどころか地面に伏して謝罪する者まで現れた。

 クローヴィルとアンリエッタは増援された護衛に守られて、その者たちと口を利くことは無かった。


 代わりに動いたのは二人が見込んだ側近候補たち。

 取り成すという態で、言葉巧みに二人に今後不用意に近づくことがないようにと、言いおいた。

 彼らの働きに満足した二人は、卒業後侯爵家に陞爵されたディナン家の家臣として迎え入れたのだった。

 その前に、やらかした生徒会役員の代わりに彼らが選ばれていた。


 あの日以降クローヴィルとアンリエッタの学園での様子は少し変わった。

 入学してからアンリエッタはクローヴィルの少し後ろを歩くようにしていたのを、並んで歩くようになった。

 時にはエスコートをするように腕に手を添えて歩くこともあった。

 学園内の状況が良くなると、時々二人は特別室ではなく中庭などで昼食を取ることがあった。

 そんな時はお互いに食べさせあったり、口元の汚れを拭ったりと甘やかな様子を見せていた。

 そんな二人を遠目に見た学園生は、お互いを思い合う様子に感化されて、自分たちも婚約者と過ごすようになった。


 それから今まであまりクラス内で他の者と交流を持たなかった二人だったが、あのことの後交流をするようになった。

 それを見て高位貴族の彼らは、察するものがあったようだ。


 学年があがるたびにバカなことを考える女子が現れたが、兄姉から言い聞かせられた同級生たちから阻止されて滾々と諭され改心したので、二人は悩まされることなく平穏な学園生活を送れた。



 やらかした五人はあの後王宮に一週間留め置かれた。

 もちろん牢の中に。

 ただし入れられたのは貴族用の牢ではないけど、地下牢獄のような劣悪な環境ではない普通の牢だった。


 彼らに下された刑罰は、家族共々のお説教と罰金刑だった。

 書物に影響されただけでどこぞの国と共謀していたわけではないことと、まだ学生であるということが考慮されたのだ。


 家に戻った後、それぞれの家はその者たちを領地に送ろうとしたが、王家はそれを許さなかった。

 幸いにもこのことによって、兄弟姉妹の婚約が解消されることは無かったし、家族が社交の場で肩身の狭い思いをすることもなかった。


 彼らは学園に戻ることが出来たけど身の置き所の無い日々を過ごした。

 男子生徒は生徒会役員から除名された。

 彼らはちゃんと反省し、今までの不真面目な態度を改め、勉学に勤しむようになった。


 学園卒業後、ある者は下っ端文官に、ある者は下っ端兵士に、ある者は辺境の兵士に、ある者は領地の雑務をすることに、ある者は教師になった。

 そして給料から実家へとお金を支払った。

 あの時の罰則金は実家が支払っていた。

 それを分割で支払うのである。

 払い終わるには何十年もかかるだろう。

 それが彼らが自身に科した罰だった。



 ―――――


 おまけ


 ある昼休みのこと。

 クローヴィルとアンリエッタは最近お気に入りの中庭のガゼボで昼食を取ろうとしていた。


「ねえ、アンリエッタ、私たちに足りないものがあると思わないかい」


 クローヴィルは真面目な顔をしてアンリエッタに言った。

 クローヴィルの対面に座ろうとしていたアンリエッタは軽く首を傾げた。


「足りないものですか? わたくしには思いつかないのですが」


 クローヴィルはフッと口元に笑みを浮かべると、アンリエッタの手を掴み引っ張った。

 体勢を崩したアンリエッタはクローヴィルの膝の上に座ってしまった。


「も、申し訳ありません」


 すぐに離れようと立ち上がろうとするアンリエッタの腰をホールドして、動けないようにするクローヴィル。


「殿下、戯れはおやめください」

「うん? 戯れなんかじゃないよ。ねえ、こういう甘やかしが足りないと思ったんだ。アンリエッタはどう思う?」


 掴んだまま手のひらを優しく撫でながら言われて、アンリエッタはどう答えていいのか分からなくなった。


「兄上がね、自分の婚約者は羽のように軽いっていうんだ。どうやって知ったのかと思ったら、膝に座らせたと言ってね。そして手づからお菓子を食べさせたんだってさ。婚約者と仲良くなれるから、是非と勧められたんだよ」


 クローヴィルはニコリと笑った。

 それを至近距離で見たアンリエッタは、顔を赤くして何も言えない。


「ということで、お昼はこうやって食べようね。はい、あーん」


 サンドイッチが口元に寄せられたけど、嬉しそうな声と蕩けるような目で見られたアンリエッタは、恥ずかしさから意識を手放したのだった。


「あっ、やりすぎた」


 クローヴィルはくたりと力が抜けたアンリエッタを抱え、慌てて特別室に運んだのだった。


 不幸にもその様子を目撃した男子。


「アンリエッタ様が真っ赤……えっ、可愛い……」


 同じく目撃した女子たち。


「見まして?」

「ええ、見ましたわ」

「殿下ってば、日々糖度が増していませんこと?」

「ええ、それをうけるアンリエッタ様の反応が可愛らしいですわ」

「うふふ」

「うふふふふ」



本編に反映されなかった裏設定


第三王子クローヴィルは実は王の子供ではない。

国王最愛の寵妃というのも諸外国向けの設定である。


クローヴィルの本当の父親は現国王の弟だった。

寵妃は没落寸前の伯爵令嬢で。

二人は学園で出会い、後継者争いをしたくなかった弟の、野心が無いことの証明になるからと、両親(前国王夫妻)の許可の元婚約、結婚するはずだった。

この時帝国より留学という名目で第二王子が来ていて、そいつの目に伯爵令嬢が留まってしまった。

帝国の第二王子は伯爵令嬢を連れ帰ろうとした。

それを阻止するために、伯爵家は没落、爵位返上のもと平民になり一家は行方知れずなった。

実際はディナン伯爵家に元伯爵夫妻は匿われた。

令嬢(寵妃)は王太子妃の宮殿に。

第二王子が帝国に戻った後、令嬢は他の伯爵家に養子に入り弟王子と結婚し、公爵位をもらって臣籍降下するはずだった。

第二王子が帝国に帰り、弟王子の婚約と臣籍降下を発表した。

結婚式まであと三か月という時に国境で諍いがおこり、弟王子は仲裁に向かうことになった。

諍いは収まったが、そこで弟王子が暗殺されてしまった。

悲しみに暮れる王家。

そこに帝国から弟王子の婚約者に第二王子から求婚の手紙が届いた。

察した王家は令嬢を守るために婚約者の令嬢は亡くなったことにして、別の家(侯爵家)からの王宮入りとし、国王最愛の寵妃とした。

すぐに妊娠を発表、そのまま王宮の奥深くに隠した。


その経緯をクローヴィルは十歳の時に聞かされた。

帝国に復讐を誓ったクローヴィルは、ディナン家を後ろ盾に着々と帝国の力を削いでいる。



ディナン家

元々は帝国に滅ぼされた亡国の王子(側妃の子。滅ぼされる前に隣国の親戚の元に脱出した側妃、そこで妊娠がわかった)が商人となり、王国が未曽有の大災害に遭った時に、王家に尽力したことで爵位を得た。

それから代が進むごとに一つずつ階級を上げて行った。

(名誉凖爵 → 一代男爵 → 男爵 → 子爵 → 伯爵)

アンリエッタの父が現王の弟王子と仲が良く、爵位を継ぐまで側近になる予定だった。

帝国の第二王子が弟王子にしたことの証拠を一度は手に入れたのだが、あちらの優秀な影の者に奪われてしまった。

このことで帝国を敵とみなし、伝手をふるに使い帝国を弱体化させている。

情報戦はディナン家が強いが、実行部隊が少し弱かった(あちらの優秀ではない影となら互角)

その優秀な影も年には勝てず、足元をすくわれて今は草葉の陰である。

アンリエッタも独自の情報網を確立している。



ちなみにこの国の王家は国民に愛されている。

弟王子が亡くなった時には全国民が喪に服した。

だから王家は公式発表していないけど、事の真相は国民も知っている。

密かに帝国民に物品を少し高額で売ったり、書類の審査が他より時間が少しかかるなどの地味な復讐をしていた。



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― 新着の感想 ―
温情とはいえ、主犯の男爵令嬢?の罪まで有耶無耶になったのには、少々疑問が残ります。
帝国の皇帝の二番目の息子、ならば第二皇子になると思います。王国の王の息子が王子。 第二皇子、の方が紛らしさも無くなりますので、差し替えられた方がよろしいかと…
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