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3 ひと時の休息

 クローヴィルとアンリエッタは特別室に入り昼食を食べ、それからいつものように寛いだ。

 ソファーに座ったアンリエッタの膝に頭を乗せて横になるクローヴィル。

 長い脚がソファーのひじ掛けから出ているという行儀の悪い恰好だけど、誰も何も言わなかった。

 そう、この部屋にはクローヴィルの侍従とアンリエッタの侍女、並びに護衛の者が二人いる。

 彼らは物言わぬ像と化して壁の前に立っていた。


「ごめん、アンリエッタ。傷ついてないかい」

「わたくしは大丈夫ですわ。それよりもよろしかったのですか。卒業までまだまだありますけれど」


 クローヴィルの髪を手で梳くように撫でながらアンリエッタは言った。

 クローヴィルも自身の顔に掛かりそうなアンリエッタの髪先を弄ぶように触りながら答えた。


「ああ。予定より早いけど立場を弁えない者どもが多すぎたから。兄上たちのほうがキレて、昨日粛清すると言い出したんだ」

「まあ~」


 アンリエッタは目を丸くした。

 王家の兄弟仲は良く、王妃と寵妃との仲もとても良好だ。

 それを知っているアンリエッタは、兄殿下方のほうが堪えられなかったことに驚きはしなかった。


「本当は今日のこの時間に、近いうちに対処すると伝えるつもりだったんだ」

「そうでしたのね」


 顔を見合わせた二人は深々とため息を吐きだした。


「だけどなー、なんでああいうことを公衆の面前で言うかな」

「本当ですわね。ヴィルのことですから学園から許可をもらって、どこぞの空き教室に呼び出して申し伝えるつもりでいたのでしょう」

「ああ。それなのに……本当に、バカなのか? 死にたいのか? いや、バカだったし、自死願望があったのだろう。そうでなければ王族の婚約に物申さないだろう」


 クローヴィルはもう一度ため息を吐いた。


「ヴィル、彼らには自死願望は無かったと思いますわ。あの言葉は本気で思っていたのでしょう」

「ハッ! はた迷惑も甚だしい!」


 しばらく部屋の中に沈黙がおりた。お互いの髪を弄びながら二人は黙り込んでいた。

 ふと、アンリエッタは視線を侍女へと向けた

 侍女は心得たようにお茶の支度をして、カップをテーブルへと置いた。

 お茶の匂いに体を起こし、クローヴィルはソファーに座り直した。


「うん、美味しい」


 紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着けたクローヴィルは顔をほころばせた。

 その様子にアンリエッタも微笑んで、侍女へとお礼の視線を向けた。

 察した侍女は目礼を返した。


「ところで、あの女たちの言葉、聞いていてどう思った?」

「彼らの言葉ですか?」


 心得た侍従が懐から録音の魔道具を取り出して先ほどの会話を再生した。


『クローヴィル様、可哀そう。今、私が助けてあげますからね!』


 ヘレナの言葉を再生して止めた。


「何を言い出すのだろうと唖然としてしまいましたわ」

「私もだよ」


『そうだ。大体伯爵令嬢の分際で、クローヴィル殿下のお時間を独占するとはけしからん!』


「お前こそ何様だ!」

「同意見ですわ」


『クローヴィル様と他の方々との交流の時間を奪っているのだと、自覚しろ!』


「他の人と交流できなかったのはやつらのせいなのに」

「自覚するのはご自分でしたわね」


『婚約者だからって、束縛してんじゃねえぞ!』


「普通婚約者を優先するよな」

「あの方、婚約者がいらっしゃらなかったと思いますわ」

「伯爵家の嫡男だったか」

「ええ。身の程知らずにも公爵家や侯爵家に婚約の打診をしていたようですわ」

「やれやれ。自己を客観視できない馬鹿者か」


『そうだよ。クローヴィル殿下は僕らといればいいんだよ!』


「あいつらといて、何か特があるのか?」

「どうでしょうか。こちらが疲れるだけ損だと思いますわ」

「だよな」


 立ち上がったクローヴィルはアンリエッタへと手を差し出した。

 その手に掴まってアンリエッタも立ち上がった。

 アンリエッタは手を離す前に軽く力を込めた。

 合図に気づいたクローヴィルが優しい眼差しで見つめた。


「ああ、心配いらないよ。私に擦り寄ってきたのではない、真っ当な側近候補は五人ほどいるから」

「そうでしたか。わたくしのほうも友人兼側使え候補の方が四人ほどいますわ」

「それは重畳」


 満足気に笑いあうクローヴィルとアンリエッタ。


「だけど少し残念かな」

「何がですの」

「まだ一年目なのに決まってしまったじゃないか」

「それですけど、来年、再来年の方々にも優秀な方々はいらっしゃるとおもいますの」

「ああ、そうだったな。今の学園生からはこれでいいとして、来年以降の楽しみはまだあるのだな」

「そうですわ」


 二人は顔を見合わせて笑ったのだった。



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