2 憧れは憧れに留めておけば良かったのに
懲りないヘレナはあの手この手でクローヴィルとの接点を作ろうとした。
本来は王族及び高位貴族と下位貴族は学ぶ内容が違うので、同じクラスになることはない。
よほど優秀で王侯貴族の側近候補にでもならない限り、子爵家や男爵家の者が同じクラスになることは無いのである。
このことは学園の案内書にも書かれていた。
暗黙の了解として下位貴族が用もないのに高位貴族のクラスに行くことは良しとされていなかった。
それを無視するようにヘレナはクローヴィルのクラスに休み時間のたびに顔を出すようになった。
一応仲良くなったクローヴィルの(自称)側近に会いに来たと言っていたけど。
ヘレナの行為はだんだんと目に余るようになってきた。
学園側も何度も注意しているのだが、ヘレナは注意を受けたその場では殊勝な態度を見せるのだが、そのすぐあとに(自称)側近と共にクローヴィルに侍るのだ。
ヘレナは半年以上経ってもクローヴィルとの仲が進展しないことに焦り出していた。
上手くいかない理由を考えて、アンリエッタが邪魔をしているのだと結論付けた。
理由がわかった(と思った)ヘレナは、ある日の昼休みにやらかしたのである。
その日の昼休みもクローヴィルとアンリエッタは、学園に用意された特別室に向かうところだった。
その前に立ちふさがったのが、ヘレナと自称クローヴィルの側近という男子が四人。
「クローヴィル様、可哀そう。今、私が助けてあげますからね!」
「そうだ。大体伯爵令嬢の分際で、クローヴィル殿下のお時間を独占するとはけしからん!」
「クローヴィル様と他の方々との交流の時間を奪っているのだと、自覚しろ!」
「婚約者だからって、束縛してんじゃねえぞ!」
「そうだよ。クローヴィル殿下は僕らといればいいんだよ!」
彼らの主張? 言い分? に、二人は目を丸くした。
すぐに言葉が出てこないのを、容認と図星を刺されたからだと思った五人はなおも色々言い続けた。
その言葉を聞き流しながら、クローヴィルは近づいて来ようとする護衛達を目線で押しとどめた。
視線をさりげなく動かしてこの場の様子が記録されていることを確認したクローヴィルは、改めて護衛達を動かそうとした時にその言葉が放たれた。
「大した容姿でもないくせにクローヴィル様の隣に居座るなんて、あつかましいにも程があるわ。さっさと婚約破棄されればいいのに!」
「国家反逆罪である! この者らを確保せよ!」
クローヴィルの言葉に学生に扮していた護衛と学園の衛士たちが一斉に五人を取り押さえた。
捕らえられた五人は突然の事態に狼狽えて、クローヴィルへと訴えかけた。
「クローヴィル様、なんでこのような」
「煩い! 先ほどからお前達は何様だ! 王家の婚約に異議を申し立てることが出来るほど、偉い立場にいるのか!」
自称クローヴィルの側近を名乗っていた男子たちはハッとしたあと、顔を蒼褪めさせた。
周りで遠巻きにしていた学生たちも、顔色を悪くしている者が何人かいた。
「えっ、でも、クローヴィル様も不満があるんでしょ。私がアンリエッタのことを言っても、何も言わなかったじゃない」
ヘレナの言葉にクローヴィルは冷たい視線と口調で言った。
「お前は何を勘違いしているのだ。何も言わなかったのは、我らに対する不穏分子を炙り出す為だ」
「不穏分子だなんて。私はただ望まぬ婚約を押し付けられたクローヴィル様を助けてあげたかったんです」
なおもヘレナは言い募った。
「お前はバカなのか。いや、バカだからこのようなことを言ったのだろう。そんなに死にたいのなら、望みどおりにしてやろう」
「死……なんでそんな物騒なことになるのよ!」
クローヴィルの台詞にギョッとした顔でヘレナは叫んだ。
「お前が王命を蔑ろにしろと言っているからだ」
「はえっ? 王命?」
「先ほどから言っているだろう。大体王子である私の婚約がただの政略で済むわけがないだろう。公表された時点で王命によるものだと解らぬか。ああ。解らなかったから、バカな発言を繰り返したのだったな」
今更理解したヘレナの顔も蒼を通り越して白くなっていった。
騒ぎを聞いて集まってきた学生たちも、自分の今までの行いに蒼褪める者が増えて行った。
「わかっているとは思うが、これまでの皆の言動は学園だけでなく王家でも把握している。目に余ったものは当主へと連絡がいっているだろう。ああ、連絡がなかった者も、目こぼししたわけではないからな。今までの己の行動を思い返してみるがいい」
クローヴィルはそう言うとアンリエッタを促して特別室へと向かった。
ヘレナたちはそのまま王宮へと連れて行かれて、尋問後牢と入れられたのだった。