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10 少し昔話 その6 入学前の決め事

「それよりも、この乙女ゲームというのは、なんなんだ」

「なんなんだと言われましても、それこそ恋愛を楽しむ遊戯ですわ」

「遊戯にしたって、不誠実ではないか。一人と付き合うのなら……婚約者がいない相手となら許容できるが、なぜ婚約者がいる相手に擦り寄ったり、複数の者にいい顔をするのだ」

「そういう仕様なのですわ。婚約者は恋愛のスパイスなのです」

「はっ! 不誠実きまわりないな」


 クローヴィルの憤慨している様子に、クスリと笑うアンリエッタ。

 まだ起こるかどうかもわからないことなのに、相当嫌なようだ。


「学園に入学してからの対策はどうしましょうか」

「物語に踊らされて近寄ってくるようなら、片っ端からとっ捕まえさせる」

「それは駄目ですわ。裏取りをしてからにしませんと」

「だが、不快な思いをアンリエッタにさせるわけにいかない」


 きっぱりと言い切ったクローヴィルを、意外そうに見つめるアンリエッタ。


「ヴィルが嫌なのではなく?」

()がアンリエッタに不快な思いをさせるのが嫌なんだ!」

「あら」


 アンリエッタは軽く目を見開いた後、扇を開き赤く染まった顔を隠した。


 それからも二人は学園に入学したらどのように過ごすか話し合った。


 学園側も王家と話し合い、第一王子や第二王子が通った時より多くの護衛を配置することにした。

 数年前から庭師や用務員、調理師などにも、体術に優れたものを配置していた。

 今回は騎士たちの中から童顔の者を選び学園生に紛れ込ませることにした。

 それから王族のための特別室の警備も強化された。


 敵が仕掛けるとしたら、王妃の子供ではない第三王子など格好の的だろう。

 同時に罠を張るのにも丁度いい。

 視線を集めればそれだけ気を張ることになる。

 昼休憩の時間はどんなことをしても二人の時間だと、警備に就く者は死守することを王家に誓ったのだった。


 秋になり来年学園に入学する令息令嬢たちが王都に集まった。

 あちこちで茶会が開かれ、アンリエッタは忙しい日々を過ごした。

 たまに令息も招かれた茶会でクローヴィルと顔を合わすことがあった。

 二人は同じテーブルに並んで座り、それぞれほかの人との社交を楽しんだ。


 ある日の茶会で小さな事件が起こった。

 令息も招いた茶会なので、もちろんクローヴィルも参加した。

 いつものように会場で会った二人は並んで同じテーブルに着こうとした。

 それを主催者の侯爵家の令嬢が邪魔をした。

 クローヴィルを自分の隣に座らせ、そのまた隣にほかの令息を座らせたのだ。

 アンリエッタは仕方がないと、他の伯爵家の者が座っているテーブルに着いた。

 クローヴィルの気を引きたい侯爵令嬢は、アンリエッタのことと匂わせて貶めるようなことを言った。

 そのついでにクローヴィルの手に触れようとした。

 それを勢いよく振り払ったクローヴィルは席を立つと、冷たい目で令嬢を見下ろした。


「お前は何様だ? これが侯爵家の令嬢か? はしたないって言葉を知っているか?」


 令嬢は言われた言葉に顔を赤くした。

 クローヴィルとアンリエッタの婚約は周知の事実である。

 それを知っていながらクローヴィルの隣を望んだのだ。


 クローヴィルは踵を返すと、部屋から出て行った。

 クローヴィルが玄関に辿り着くまでに連絡がいったのか、夫人と侯爵が駆けつけてきた。

 言葉を尽くして引き留めようとしたが、そこで侯爵は失言をした。


「たかが伯爵家より侯爵家のほうが後ろ盾としていいでしょう」


 クローヴィルの護衛についてきていた騎士たちが、瞬時に侯爵を取り押さえた。


「何をする。侯爵のわしにこんなことをしてただで済むと思うなよ!」

「はあ~。令嬢の発言はこの親のせいか。王城に連れて行って陛下の裁量に任せよう」


 クローヴィルの言葉にギョッとした顔をする侯爵。


「な、なんで? 陛下の裁量?」

「解ってないとは本当に(たち)が悪いな。あなたは私の婚約に物申しましたよね」

「誰だってわかることだろう。伯爵家より侯爵家のほうが良いということは」

「あなたは国王が決めた婚約に物申したんです。つまり国家反逆罪になります」

「国家反逆罪? そんなバカな」


 真っ青な顔で震え出す侯爵。

 夫人も青い顔で階段のそばでへたり込んだ。

 後を追ってきた侯爵令嬢や招かれた令息、令嬢、その親たちが廊下からそれを見ていた。

 それをチラリと見てからクローヴィルは騎士に頷いた。

 騎士たちは侯爵を連れて外に出て行った。

 クローヴィルは婦人方の後ろにいるディナン伯爵夫人と、令嬢たちの後ろから見ているアンリエッタに呼びかけた。


「ディナン伯爵夫人、アンリエッタ嬢、申し訳ありませんが王城まで一緒にお願いします」

「わかりましたわ」


 王城に着いて、侯爵は宰相にこっぴどく叱られた。

 王子との婚約を申し込むのなら、ちゃんと筋を通せ、と。

 ちゃんとした申込であれば、一考の余地はあっただろう、と。


 侯爵家の出来事を見ていた高位貴族は悟った。

 第三王子の婚約に物申してはいけないということを。

 なので娘に言い聞かせたのだ。

 王子や婚約者に物申すということがどういうことかを。


 そうして学園が始まってのあれこれを、高位貴族の令息令嬢は静観していたのだった。


補足

学園で高位貴族の令息令嬢が動かなかったのは先にやらかしを見ていたからでした。

王家に意図があり何も言わないのだろうと察し、適度な距離を置いてみていたんです。

もちろん、行き過ぎた行為にはクラスメイトとして物申したりした人もいたけど、基本はいつでも手伝えるもしくは肝心な時に邪魔にならないように気を張ってました。

ちなみにクラスメイトとはクローヴィルもアンリエッタも普通に会話はしていました。

必要以上に親しくしなかっただけで。

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