競争社会
競争社会
人生とは常に激しい競争社会、この競争社会に
勝った者こそが「幸せ」となれる。
いい大学を出て一流企業に就職をする。皆が幸
せになれる事なんて出来ない、不幸になる者がい
るからこそ幸せになれる。底辺社会があってこそ
の上層社会である。ここにそんな思想を持った一
人の若い男がいた。
「人生は勝ち組と負け組しかいない」
その若い男がいつも口にしていた言葉だ。
若い男は一流大学を卒業して念願の一流企業に
就職する事が出来た。職場の上司の娘と結婚して
出世街道にのり順調な「勝ち組」の人生を送って
いた。
(これぞ勝ち組の人生だ)
若い男はそう思った。
時を同じくして「もうひとりの若い男」がいる。
さっきの男とは対照的で高校を卒業して小さな
運送会社に勤めている。お世辞にも上層社会と
は言えないが、彼もまた職場で知り合った事務
の女性と結婚して幸せな日々を過ごしていた。
彼は「勝ち組、負け組」などあまり気に
しないマイペースな若者だった。勝ち組の男か
ら見たら負け組かも知れない。
人生とは不思議なもの・・・
ある日この二人の若者は出会う事になる。
一流企業に勤めていた勝ち組の男は不景気の
煽り会社をリストラされる事になった。転職先
は決まる事無く収入は完全に途絶えた。妻は、
そんな夫に愛想を尽かして離婚届けを置き、家
を出て行ってしまった。
そんな時でも仕事を探さなければいけない状
況に陥っていた。ある日職安の帰り道に「元勝
ち組」の男は近くの公園に立ち寄ってベンチで
休んでいた。すると若い男が声をかけてきた。
「隣でご飯食べてもいいですか?」
運送会社に勤める負け組の男だった。
元勝ち組の男は 軽く肯いた。
負け組の男はベンチに座ると愛妻弁当を広げ
美味しそうに食べ始めた。それを見ていた元勝ち
組の男は腹を減らし弁当を見つめていた。
「良かったら食べますか ?美味しいですよ」
負け組の男はおにぎりをひとつ差し出した。
元勝ち組の男はそれを受け取ると、美味しそう
に食べた。負け組の男が言った。
「僕は今配達の途中でここで休んでるんです。失
礼ですが貴方は失業中ですか? いやこの公園っ
て職安通いの人が多くいるので聞いてみただけで
すが」
元勝ち組の男は言った
「ええ」
負け組の男がやっぱりって表情で話しはじめた
「よかったら、うちの運送会社で働いてみません
か?事務とドライバーで最近一人づつ欠員が出て
しまったんですよ。もしその気があれば面接の段
取りしますよ。ただすごい給料は安いですけどね」
次の日、その小さな運送会社の面接を受ける元
勝ち組の姿があった。そして事務職で見事採用さ
れた。高卒の初任給程度だが、公園で声をかけて
くれた 「負け組の男」の優しさに涙した・・・
きっと人生には勝ち組とか負け組なんてない。
たしかに事実、何でも激しい競争はあるが、決し
て「自分だけ良ければ良い」とか「人を蹴落とす」
為のものではなく純粋に夢を叶える為の競争社会
なのだと。他人の優しさを知った時、元勝ち組の
男は「己の愚かさ」を知った。だが同時に人に
「優しく」出来る心を持つ事ができた。
今は負け組の男も勝ち組の男もどちらも幸せに満
ちた人生を送ってる
貴方の幸せって?