【第29話】知らないことが多すぎる
「エクソシストは聖なる光って呼ばれる存在に仕えて、聖なる光ただ1柱から祝福をもらって力を行使する聖職者のことだ。陰陽師みたいにいろんな霊的存在から力を借りるってやつは海外では殆どいないなぁ。ま、日本とは違って海外は一神教が多いから、当然っちゃ当然のことだよな〜」
間延びした口調の赤橙を見た東雲が「もうちょいしっかりしてくれ」と苦言を呈していたが、志乃はそれどころではなかった。
(聖なる光……エクソシスト……うーん、知らないことが多すぎる……)
自分の無知さに頭が痛くなるばかりの志乃であったが、心の中のモヤモヤ感は奥底にしまい、話に集中しようと頑張る。隣でまるで渋柿を食べたかのような顔をしていた志乃を見て萌黄を日南は小さく笑っていたとかなかったとか。
「んで、そのエクソシストたちが所属するのが『ヴァチカン』って訳だ。ほら聞いたことあるだろ? 虚とか穢れたものに効果があるもう1つの霊的薬剤――『聖水』を制作している組織だよ。世界で1番信仰されている宗教の総本山だな」
(頭が、頭がパンクしそうだよ……! うーん、勉強はできてるから地頭はいいはずなんだけどなぁ……どうしたもんかなぁ)
またもや1人でうんうん唸っている志乃を見て萌黄と日南は静かに、そっと笑いを堪えるのであった。
「話は戻って、ここで本題の『精霊』についてだ。精霊は大きく『陰』と『陽』に分類されて、『木・火・土・金・水』そして『無』に属する。例えばだけど、『木霊』って言うあの有名なアニメにも登場した精霊、あれは『陰属木種』って言う分類だ。『陰』は存在を固定する……例えば拘束術だったり結界術だったり、そう言うことが得意で、『陽』は存在を滅する……まぁ攻撃術だな、それに特化している。ここまででなんか質問ある奴いるか〜?」
「有名なアニメって……あれか『こだまの冒険』か! 懐かし〜!」
「絶対に見たことあるんだけど、どんなだったかな……」
日南が小さく声を上げて興奮しているようだった。見たことはあるにはあるが、あんまり覚えていない志乃は日南に内容を尋ねる。
「あれじゃん、こだまの子供が自分の視野を広げるためにいろんな森を旅する話だよ! 一緒に見たじゃん!」
「んん? あー! あれかぁ! 出てくる森がどれも変なのばっかで、これって本当に子供向け? って思ったやつだ!」
「そうそう、特に『移動する森』回は感動もので……」
「日南ちゃん? 一応授業中ですよ? 静かに、ね?」
途中で萌黄が珍しく志乃以外でヒートアップしていた日南を諫め、その表情に志乃も日南も凍りついてしまった。何がとは言わないが、恐ろしいものだったと残しておこう。
そんな茶番劇をしている間にも質問は次々に飛び交っており、「やっぱり生まれつきとかって大事ですか」や「修行したら誰でも精霊と話せるんですか」や「今回の強化合宿となんか関係あるんすか」などなど、思ってた以上に質問が来たせいか、赤橙はその勢いに慄いていた。
「これが、若さ……!」
「何アホなこと言ってるんだ。お前まだ20代だろう」
「……渾身のボケに真剣に突っ込まないでくださいよ。そこは流すところっす」
「んん〜こりゃ失礼?」
「…………よーし、みんなの疑問に答えていくぜ!」
志乃は東雲はすごい美人ですごいかっこいい女性というイメージを持っていたが、この会話劇でそうでもないことが分かってしまった。
「あの人実際すごい人だけど、なんか抜けてるんだよね」
隣で日南が萌黄に怒られないようにポソポソと呟いていたので、志乃も「そうだね」と小さく返しておいた。
「まず、例外はあるけど階級が高い人ほど強い。強いってことはそれだけ精霊なんかの霊的存在と親和性が高いということだ。その中でも霊色分類の中の紫は特に親和性が高い人たちのことを指す。普通、陰陽師に力を貸してくれる霊的存在は3体程度、それに対し紫の奴らは20を優に超えてくる。本物の霊媒体質なんてそれに神が加わるもんだから、精霊百体以上分だ。そういう紫の奴らは生まれつき好かれやすいっていうのがあるが、通常なら修行すればどうにかなる」
(ん? そういえば昔変な音聞いたことあったけど、なんだったんだろう……なんで今思い出したのかな……)
志乃は精霊の話を聞いている時、ふと、昔のことを思い出したのだった。
公園で1人で遊んでいる時に聞こえた鈴のような音。もしかすると、あれが精霊の声だったのかもしれないと志乃は思った。しかし、その思考が深みに嵌まる寸前に柏手のような乾いた音で現実に戻ってきてしまった。
その柏手は赤橙が手を叩いたものであった。
「そして、今回の強化合宿。君ら1年生は天皇陛下のお言葉の通り、心身共に鍛え上げて虚に対抗できるような生徒になることが目標だ。その項目の中に精霊との交流を深め、親和性を高めるというものがある。そう、君たちは今回の合宿で大きくレベルアップするんだ!」
赤橙が述べた内容に眠たそうだった者も、つまらなそうだった者も大声を出して歓声を上げる。志乃もそれにつられて「おお〜!」と歓声を上げていた。あの冷静沈着な萌黄も小さくガッツポーズをしている。その様子を見て、日南は苦笑いだ。赤橙は「そこで!」とまだまだあるぞと言いたげに声を上げる。
「そこで、君たちには明日から綾月公園でスタンプラリーをしてもらう! しかーし、ただのスタンプラリーではない! 我々焔朝が企画・監修するお題完了型スタンプラリーだっ!」
赤橙はマイクを片手に持ち、まるでライブでテンションマックスで話す歌手のように生徒に語りかける。
「スタンプは全部で10個! いろんなお題をクリアしたらスタンプが貰えて、全部集めたら、なななんと!」
生徒はごくりと唾を飲み込む。
「あの安倍晴明でさえ舌鼓を打ち、歴代有名人でさえ食べることが叶わなかったとも言われ、予約も5年後までいっぱいの老舗和菓子店『あずきや』のおはぎ、贈呈だぜっ!」




