【第26話】驚愕のビデオレター
「ふふっ……さっきと違ってとても分かりやすいな。作った人の真意が見えるよ……」
東雲はそういうと、赤髪の男性の方を含みのある表情でチラリと見た。男性はあからさまに目を逸らし、気まずそうな顔をしている。
「現在の焔朝の業務として、人外の重要人物・陰陽家・華族の警備、人外と協力して行う虚一斉除去の儀、日本の東西南北中央、五神信仰の力を使った日本皇国全土を守る強力な結界の作成、人間と人外が出席する行事の運営、人外関係の事件に関しての警察と共同作業、ああそうだ、最近で大事だったのは鳴宮家襲撃事件だな……私は別の任務で行けなかったんだが、聞いた話によると白ずくめの女が巨大な赤い釜を振り回して我々の攻撃を全て吹き飛ばしたとか……我々もまだまだ精進しなければな。ああ、ちなみに日本皇国全土を守る結界は『五神大結界』と言って、世界から羨ましがられるほどの強度なんだ」
東雲は快活な笑顔を見せた。一瞬不穏な話が横切ったが、東雲の中で話が終わってしまったのか、それ以上の言及はなく、志乃は困惑した。
「え……1番気になる話をされたんだけど、一瞬で終わっちゃったし、次の話題に行っちゃったから、聞くに聞けない……」
「うーん、志乃ならいっか。また夜にでも話してあげる。事の顛末知ってるし」
志乃は日南の思ってもいなかった回答を聞いて、驚きが隠せないでいた。まさに開いた口が塞がらなかった。その様子を見て日南はクスッと笑い、志乃の頬を突く。
「うちの1番上の兄、清司兄さんね、知ってるでしょ? 焔朝で働いてるから、内情とか教えてくれるんだよね。ほら私一応陰陽一族の出だからね。とりあえず話は夜ね」
(やっぱり日南ちゃんってすごい! だけど、話しても大丈夫な内容なのかな……?)
志乃はその言葉にただうんうんと頷くことしかできなかった。
そんなことを話している間も講義は進んでおり、何やら他の陰陽師が仰々しい箱を持ってきていた。
「一通り話したところで、とある方からビデオレターを預かっている。まあ……うん、驚きすぎてぎっくり腰にならないように……ハハッ」
東雲は先ほどのイキイキした表情とは一変、諦めを感じさせる表情で乾いた笑い声を響かせた。その仰々しい箱から取り出されたのはなんと、CDただ1枚。しかし、その箱の模様を見た日南の表情が固まった。あたりを見渡すと、陰陽家・華族の生徒が軒並み日南と同じ表情になっている。志乃には何故にそんなに驚いているのか分からなかったが、CDをセットして、流れてきた映像に映っていた人物に、確かに東雲が言っていたようにぎっくり腰になるのではと思うくらい腰を抜かした。驚きすぎて横転、というやつでもある。
「「「「て、天皇陛下ァ!」」」」
このように思わず叫んでしまう生徒やら教師やらが現れるくらい、驚愕の人物――そう、咲羽天皇本人が人が良さそうな綺麗な笑顔で手を振っていた。
のちに日南たちが箱を見て驚いたのは、箱に描かれていた、桜の花びらが20枚重なった紋――通称「桜の御紋」、正式名称「皇華八重桜」を見たからだったそうな。
咲羽はホワイトブロンドの柔らかな髪に桃色の瞳という、少し人外めいた見た目をしている。その理由は簡単。先祖が神の子であり、彼自身その先祖返りだからである。先祖返りは優秀であり、長い治世をもたらすという迷信めいた理由で、彼の父親である前天皇、現上皇があっさりと退いてしまい、彼は当時23歳という若さで天皇に即位したのだ。現在は「永和」から新しい年号「天詠」に移り変わり、2年が経過している。
そんな25歳という若さで日本皇国の政治にも最高相談役として活躍し、結界維持などの国事行為をそつなくこなしている彼は、確かに先祖返りは優秀という言葉を自身で表しているのだ。
動画の中の咲羽が少し垂れ目がちな目を柔らかく細めて、心地の良い低さの声が会場に響いた。
『おそらく、今会場は驚きのあまりみんな声が出ないでいるんだろうね? それにしても焔朝の皆には申し訳ないことをしたね。私のわがままに付き合わせてしまって本当に申し訳ない』
その言葉に焔朝の陰陽師たちはリアルタイムではないと分かっていても深々と頭を下げた。腹上からしか画面には映っていなかったが、そこに見える明るい茶の木枠に若草色の布地が張られた誰が見ても上等だと思える椅子に腰掛けている咲羽の姿は、そこに在るだけで空間そのものが凛とした気配に満たされる。実際にはその場にはいないし、リアルタイムでもないのだが、画面越しからでもその空気感が志乃にはひしひしと伝わった。
『私がこのビデオレターを用意した理由は私の後輩である君たち天明学園の未来ある生徒たちにどうしても伝えたいことがあったからなんだ。まず、この強化合宿はあんな事件があった矢先、今年は無しになる予定だったところを私が無理を言って強行してもらったんだ。それに関しても、天明学園の恩師たちよ、本当に苦労をかけたね。私が強化合宿を開いて欲しかったのには訳がある。それはこの学園にいる内は己を磨いて強くなってほしいと考えたからだ。それには先輩でもある私が言うのだけれど、強化合宿が必要不可欠なほど自分を磨いてくれた経験があるからだ。そんな強化合宿を毎年開催しておいて、今年だけ開催しないのは、今年の1年生である君たちが不公平だ。君たちの成長の養分を私は奪いたくなかった。だから開催してもらったんだ』
咲羽は画面の向こう側にいるのに、全てを見透かされているような気分になる。人外としての本能なのかなんなのかは分からないが、全身の毛が少し逆立つような感覚を覚えた志乃とは裏腹に、画面の奥の咲羽はまるで父親が遠くで遊んでいる子供を優しく見守るような瞳で語りかける。




