【間話】やっぱり
私は水無瀬アリス、いえ、本名はアリス・クインズっていうの。水無瀬っていうのは実の父親の旧姓。まあでも実の父親だと思ったこともないけれど。だってあの男、ヘラヘラしていて見ているだけで腹が立つんだもの。そのくせに昔から私のことは叱りつけてばかり。あんな男こっちから願い下げよ。
クインズ家はイギリスでも有名な大貴族で、私は自分の名前に誇りを持っているの。
ただ……「朧姫」になるためには日本人ぽい感じにした方がいいかもっていうアドバイスをもらったから、仕方がなく「水無瀬」の名前を使うことにした。
え、ああ、私が朧姫になりたい理由? 「朧姫」になるんじゃないわ、私は元々「朧姫」なの。だって初めて皇鬼様を見た時、世界がキラキラして、私はこの人のモノなんだって思ったのよ? この人外嫌いの私がこんなにも惹かれてしまう人外の殿方……そんなの比翼連理しかあり得ないでしょう?
私たちは国は違えど、魂が惹かれあってるの。だって私は「朧姫」なんだもの。
だから日本にある天明学園の門戸をくぐって、首席の座まで買い取った。首席という響きの方が「朧の会」の方々の目に留まると思ったから。私が「朧姫」なのに、日本には「朧姫」になりたい女性が五万といるらしい。そのための選考会を取り行っているのが「朧の会」という組織で、私が皇鬼様と再会するのには朧の会を介さないといけないみたいだった。
本当に滑稽よね、私が「朧姫」なのに、みんな自分が「朧姫」かもしれないなんて思っちゃってるなんて。絶対にあり得ないのに!
私みたいに美しくなきゃ絶対に無理なのに。みんな平々凡々、モブと言ったところね。
まぁ話は戻して、家の力で首席になったのだけど、中等部、元々高等部でも首席になる予定だった生徒のことが気になって話しかけに行くことにしたの。
それが朧月志乃。どんなものか見て、私の引き立て役にちょうど良さそうだったら私のお友達にしてあげよう、なんて考えていた。だけど、ただ頭のいいだけの下の下だった。人外、と聞いていたからどんな子が出てくるかと思ったら、この有様。人外なんて人間になれなかった劣等種なのに、美しくもないなんて。
正直落胆した。賢くても、こんな子はそばに置きたくはなかった。
勉強しかしてこなかったから、美容には手が行かなかったのね、と思った。しかも私の嫌味にも全く気づく気配もない。
超がつくほどのバカだと思った。少し期待していた自分がバカみたいだった。
私はこの学園のヒエラルキーのトップに君臨するために、他の生徒との日常も、頑張りたくもない授業も目立とうとした。元々の容姿もあり、すぐにクラスの人気者、学年のマドンナ的存在になった。だけど、それ以上に朧月志乃は私よりも目立っていた。
鳴宮先生の時も、古山先生の時も、あの汚い猫の教師の時も私よりも目立っていた。猫の授業の時なんて、大勢の前で恥をかかされた。極めつけは合宿でのエキシビジョン。私の時よりも、朧月志乃の時の方が明らかに手が混んでいて、目立っていて、みんなが賞賛する。私の方がすごいのに。
でも、今日はいい日だった。朧月志乃はまだ開花していない、半端者だった。人間でもなく、人外でもない。おまけに醜くてパッとしない。私よりもうんと劣っている。それが分かっただけで、私はその日1日、気分が良かった。
「やっぱり、私の方がすごいのね……!」
誰もいない木陰の中で、私は私を肯定した。そして、やっぱりあの子の方が劣っているのだと決定付けた。




