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【間話】初めての友達②

「おーい、志乃ちゃーん! どこぉ〜!」

「あ、ここだよぉ〜!」


 ハリのある女性の声が聞こえ、お姫様はその声に対し、合図を送る。

 その女性もその場にいる全員が目で追ってしまうくらい、美しい女性だった。長い黒髪をポニーテールにして、白いコートの下には赤いニットが見える。そしてやっぱり極めつけは目だった。赤い、どこまでも赤い瞳。図鑑で見たルビーみたいに綺麗だと思った。


「ありゃ、どしたの? なんか揉め事?」


 刺々しい空気感には全く似合わない、雲の様に軽い一言。それがダメだったのだろうか。男の子の親はもっと激情しだした。私たち一家はもうどうすることもできないくらいだった。しかし綺麗なお姉さんは諸共せずに一瞥した。


「あのさぁ……なんでそんなに怒ってるか、あんまり把握できてないんだけど……」


 その時の空気感は今でもはっきり覚えている。見ていた人がうっとりしてしまうくらい綺麗な動作で男の子の親の頬を撫で、ぐんと近寄った。そして――


「大人として、その言動はみっともないなぁ……ねぇ?」


 綺麗な顔でお手本のような綺麗な笑顔を作った。とても綺麗だった。だけど、そこはかとなく恐ろしくも感じた。その時の私は綺麗なのに、怖い! と恐怖していたっけ。

 まぁそんな綺麗で怖い笑顔を間近で見た男の子の親は、一瞬で顔を真っ青に染めて、男の子を連れて一目散に逃げていった。


「ふーん、威勢は良かったのになぁ……言うほどにも無いねぇ。で、志乃ちゃん、結局どう言うこと?」

「あの……僕が説明してもよろしいでしょうか……?」


 綺麗なお姉さんは笑顔でお姫様に説明を求めていたが、父が手を挙げて説明に応じた。


 


***

「うんうん、なるほどねぇ……いやぁそう言うことだろうとは思ってたけど、入園式早々からめんどくさいのに絡まれてお互い大変ですね」

「いやはや、その通りで……えっと、今更なんですが、この子のお姉さんか何かで?」


 納得顔のお姉さんだったが、次の父の質問に腹を抱えて笑い出した。


「んはははははは! んふっ、んん……いやぁ、そんなに若く見えちゃいますかねぇ?」

「え、あ、はい……」

「んふふ……ありがとうございます、でもお姉さんじゃありませんよ。お母さんです」


 その言葉に私たち全員は目玉が飛び出すかと思うくらいに驚いた。当の本人は赤い目を細めて笑っている。


「あ、ああ、すみません! てっきり歳の離れた姉妹なのかと……! 「もしかして人外?」あ、こら黙ってなさい!」


 父の謝罪に割り込む形で龍司兄さんが質問する。父はまたまた慌てふためいた。


「お、きみわかってるじゃーん! そ! お姉さんは人外! その様子だと、そこの女の子が今日から入園なんですよね? これも何かの縁ですね、私は朧月美麗と申します。ほら、志乃ちゃんも自己紹介!」

「朧月志乃ですっ!」


 お姫様――もとい朧月志乃ちゃんは紫の瞳を目一杯輝かせながら、私に向かって挨拶してきた。私も慌てて自己紹介をした。


「こ、籠屋日南……ですっ! さっきは助けてくれてありがとう!」


 私が下の方を向きながら自己紹介をしていると、志乃ちゃんは私の顔を覗き込んでいた。


「……綺麗な黄緑色! あ、あれだ! ペリドットみたい!」


 志乃ちゃんの方がよっぽど綺麗な目なのに。私はその時そう思ったと同時に、今まで感じたことのない高揚感に見舞われた。ドキドキして落ち着かなかった。

 私がドキドキしている間、何やら大人たちはコソコソと何かを話し合っていた様だったが、私には関係がなかった。


「あ、もう行かないと!」


 志乃ちゃんが走り出そうとして、ぴたりと止まった。そして――


「日南ちゃん! 一緒に行こう?」


 そう言って私の手を引いてくれた。



***

 私はこの出会いを一生忘れないだろう。志乃という存在が私の人生に彩りを加えてくれる一筆目だったのだ。志乃に出会えたから今の私がある。そう言っても過言ではないと私は思っている。


 だからこそ、志乃が何かで悩んでいたのなら、私は力になりたい。何かに悩まされているのなら、それを排除できるようになりたい。

 あんたが私の人生を照らしてくれたように、今度は私があんたの光になりたい。


 開花していない、なんていうのは私にとっては些細な問題だ。だって開花していようがしていなかろうが志乃は志乃だから。

 私はあんたの正体をなんとなく掴んでいるような気がしている。志乃の夢の中で見た光景と歴史の一致……まだ憶測でしかないけれど。

 せめて、この限りなく少ない私の残された時間の中で、できるだけ志乃に恩返しがしたい。本家の様子を見ると、思っていたよりも私が自由にできる時間は少なくなるだろうが、せめて、せめて、最後の自由まであんたと一緒にいたい。


 あんたは私の初めての友達で、大親友なんだから。

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