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【第22話】大暴れの2人

その言葉に生徒たちはなんだなんだとソワソワし始める。8人の教員は折りたたみ式の錫杖を組み立て、地面に打ち付けた。シャン、と1度金属音がし、その後はリズミカルに地面に打ちつけ、もう片方の手は人差し指と中指を立てた形の印を結ぶ。そして、一斉に口を開き始めた。


「オン バザラギニ ハラチハタヤ ソワカ。オン バザラギニ ハラチハタヤ ソワカ。オン バザラギニ ハラチハタヤ ソワカ」


 何やら真言を唱えているらしく、深い音がグラウンドを支配する。


――シャン、シャン、シャン、シャン


 金属音が鳴り響く。


 すると、錫杖を打ち付けているあたりの地面から光の線が現れ、隣の人、隣の人、と線を繋げていく。最終的には複雑な模様がある大きな円になった。円ができたことを確認した8人の教員は、円から2メートルほど離れ、錫杖を前に構えた。

 その様子を見た猫矢は1つ「うん」と頷き、生徒の方を見遣る。


「お前ら、珍しいもの見れて良かっただろ。あれは被甲護身の法を使った簡易結界だ。次の奴らは、まぁ派手だからな! 結界を設けさせてもらった」


 その言葉に生徒はざわめく。そして志乃もざわめいていた。


「え、そんなに派手に動くんだぁ! えーすごいなぁ!」

「あんた、志乃、これ絶対私たちのこと……」


 目を輝かせている志乃を見て、日南はゲンナリした顔になる。そんな事はお構いなしに、猫矢は興奮気味に次の選手を呼ぶ。


「次は、お待ちかねダァ! みんな目をカッ開いて見ろ! 瞬き現金だァ! 朧月、籠屋!」

「やっぱりか……」

「やったぁー!」


 日南は始まってすらないのに、少し疲れ気味の顔。志乃は今から遊園地にでも行くかのように、目を輝かせていた。

 志乃は自分の木刀を持ち、日南は武器の中から薙刀を選び、感覚を掴むためか素振りをした。


「それにしても、簡易とはいえど、結構大きな結界だよねぇ、なーこ先生」


 日南は思い出したかのように猫矢に話し掛ける。猫矢は話しかけられると思っていなかったのか、少し驚いた顔をしてから「そうだろ?」と言った。


「去年は、お前らが戦った後の処理が大変だったんだ。だから今回は結界を使うという意見に全会一致で同意されたんだよ。あんまり結界維持役の先生方困らすなよ? 全力じゃなくてちょっと力を抜いてくれ、頼むぞー」

「「善処しますー」」


 志乃と日南は明後日の方向を見ながら、思ってもいない言葉を猫矢に返し、結界の中に入る。

 お互い向き合う形で、位置につき、今まで疲れた顔を見せていた日南も楽しそうな笑みになっていた。猫矢は声を張り上げ、開戦の合図を出す。


「はじめっ!」


 その言葉と同時に2人一斉に動きだした。


「身体強化術式、急急如律令(アクティベート)!」


 日南は動きだしたと同時に自身に身体の機能を大幅にアップさせる術式である身体強化術式を展開し、その術式が全身に白い光の線となって張り巡らされた。それに気を取られることなく、志乃目掛けて速度を上げる。志乃はその様子にただ嬉しそうに微笑み、自分よりも速いスピードで迫ってくる日南を迎え撃つ。


――ガァンッ!


 重たい音が辺りに響き、衝撃で粉塵が舞う。日南は真剣な表情なのに対し、志乃はまだ余裕のある表情で日南の攻撃を受け止めていた。


「日南ちゃんてば、まだ行けるよね? これからが本番なんだよ!」

「……志乃は去年よりも余裕じゃんねぇ。その笑みは勝ってからにしといた方がいいよ?」


 志乃は力任せに日南の薙刀を突き飛ばすと、まるで流れる水のように滑らかな動きで、迷いなく日南の首を狙う。日南はそれを薙刀で受け流そうとするが、志乃の軽やかな、しかしズッシリとした重さの剣捌きに抗えず、後ろに吹き飛ぶようにして後退した。


「次は、私から行くね!」


 志乃は風のように、空気のように、まるで人々を楽しませるための舞を彷彿とさせる剣舞で、少し疲弊した日南に1つ、また1つと技を打ち込んでいく。

 日南も負けじとその攻撃を押し返していた。2人の攻防は結界内の中央から右へ左へ移動しながら続く。日南は痺れを切らしたのか、志乃に対して煽りの言葉を投げかけた。


「志乃ー? あんたもまだまだじゃない? さっきから攻撃が単調だよぉ?」

「……ふふ、それは日南ちゃんがなかなか隙を見せてくれないからかなっ!」

「っつ、ぐ……!」


 志乃は持ち前の怪力で野球のスイングのように木刀を振り回し、日南にありったけの攻撃を仕掛けた。それに耐えられるはずもなく、日南は結界の膜にぶち当たる。そして志乃もそんなよろめく日南を逃すはずもなく、ドンっと地面を蹴って日南の目の前にまで移動し、木刀を振り上げた。しかし、それを待っていたかのように日南は笑みを見せた。


「この時を待ってましたぁ! 我を守護せし結界よ、籠屋の名において、其の御力を示し賜え!」

「あ、ちょ、それはずるい!」

「開け、籠り日の箱ぉ!」


 志乃の焦りも他所にして、日南は開花武器である籠り日の箱を発動させた。すると、箱から目に痛みを感じるほどの眩い光が結界内に解き放たれ、志乃は少しあたりが見えなくなった。その隙に日南が志乃に槍で攻撃を入れた。


「ぐっ……」

「籠り、籠りて、日を過ごす。されど心は籠もらせず。その心の輝きは光の矢となる。……これで、私の勝ちね!」


 日南が詠唱のような文言を口にすると、眩い光が消え、代わりに光の矢が無数に現れた。これには猫矢も「おい、籠屋ァ! それはダメだっつーの!」と焦っている。

 日南が手を振ると、一斉に矢が志乃に向かって解き放たれる。その様子に見ていた生徒達も焦っていた。しかし、矢が当たる寸前、志乃が綺麗な笑顔を見せる。


「なーんて! 日南ちゃんの行動はわかってました!」


 そう言うと、矢を木刀で全て叩き落とし、手薄になっている日南に近づいた。これには日南も驚いていたが、籠り日の箱から光剣を取り出し、志乃の一撃を防いだ。はずだった。


__バキンッ!


 光剣はあっさりと折れ、志乃の一撃が腹に入る、と思った手前でピタと動きを止めた。


「ふふん、今回は私の勝ちだねぇ……?」

「…………はぁ、参りましたぁ」


 志乃は中学の時行ったお手本では日南に戦い方で負けていた。なので、今回勝てたことが心の底から嬉しくて、にやけ顔が止まらないのであった。日南はそのにやけ顔を見て、フ、と笑った後、地面に倒れ込んで降参ポーズをとった。

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