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【第20話】合宿が始まる

「到着した瞬間から実技訓練あるの、おかしくない?」

「実技訓練なんて初めてですっ」

「ねー! 何やるか楽しみかも」


 ブツクサと文句を垂れているのが籠屋日南、初めての実技訓練に少し緊張気味なのが花香茉莉、ワクワクした様子なのが宮下萌黄である。


「ふふ、今回もあれ、あるのかなぁ……」


 朧月志乃は去年の実技訓練を思い出して、あることに少し期待していた。



 今は7月中旬。夏も本格的になり、暑さのせいで溶けそうな生徒が多発する、7月。そんな過酷な環境の中、高校1年生毎年恒例の「強化合宿」がやってきた。

 高校1年生は毎年、「綾月公園」という精霊が多く住む公園、別名「精霊の森」に勉強や体術など様々な事を「強化」するために合宿にやって来る。

 精霊という存在は陰陽術の基礎となる術を扱うために力を貸してくれる存在である。精霊が多いほど空気は清浄化され、虚といった邪悪なるものはその領域内には入ってこれない。虚の脅威に邪魔されない場所は数少なく、綾月公園もその数少ない中の1つなのだ。


 現在、徒歩圏内にある綾月公園に到着し、到着早々、すぐに実技訓練を開始するというお達しがあったために、体操服に着替えている真っ最中である。


「ねぇー志乃もそう思わない? 徒歩っつっても歩いて30分かかるんだよ? 休憩入れさせろよー!」

「ところで志乃ちゃんはさっきから何をしているんですか?」


 すでに着替え終わった4人は実技訓練場――グラウンドにて授業が開始するのを待っていた。日南は永遠と文句を言っていたが、志乃は自分で持ってきたであろう木刀を磨いていた。それに対して茉莉が不思議そうな顔で質問する。


「うん? 見ての通り、持ってきた私専用の木刀磨いてる!」

「うーん、そこは誰でもわかるんだよなぁ」


 志乃はキラキラした顔で自分の現状を伝える。文句を垂れていた日南は流石にツッコミを入れてしまった。質問した茉莉があわあわと慌てて言い直す。


「あっ、あっ、私の聞き方が悪かったですっ! どうして木刀をそんな嬉しそうに磨いてるんですか? ですっ」

「あ、それ私も気になってました! なんでそんなに嬉しそうなんです?」


 萌黄も茉莉の質問に便乗し、何故かウキウキ顔の志乃に目を向ける。志乃は「ふっ、日南ちゃんなら分かるはずだよ……フフ」と言って日南をチラチラと伺う。何の事やら全く分かっていなさそうな日南は、少し熟考した後、何か思い出した顔になった。


「もしかしてあれか。実技演習の前に必ずと言っていいほどやる『お手本』と言う名のエキシビジョン! なっつかしぃー! 中3の時に志乃と私でやったねぇ!」


 それに対して、終始どこか緊張気味だった茉莉は「なんですか、それっ!」と言って、緊張よりも期待が高まったようだった。


「萌黄ちゃんも茉莉ちゃんも知らないと思うから、説明するとね。実技演習っていうのは本気の戦闘はなくて、武術の基本的な動きを学ぶ授業なの。でもね、すでに武術を習ったことのある生徒がどれくらいの実力なのか確認するために『お手本』っていうのをみんなの前でやるんだぁ! 目立ちたいって人が大体なんだけど、私は日南ちゃんと合法的に戦いたくてウズウズしてるの!」

「志乃ってば、意外と戦闘狂だから」


 木刀片手に志乃は日南に抱きつき、それを日南が自慢げに受け止める。新たな志乃の一面を知った萌黄と茉莉は、緊張よりも遥かにワクワクが上回っていた。

 そんな4人の話を遮るかのようにして、B組の担任兼体育教師である猫矢菜子が授業開始のホイッスルを鳴らした。


「おーい! クラス順に並べー! 欠席確認すんぞー」


 その言葉に茉莉は残念そうに「また後で!」と言ってC組の方へ去っていった。

 クラスの点呼が終わると、猫矢は「んじゃまぁ始める前に、お手本見せてもらうから、好きなとこに座っていいぞ。あ、でもここからここまでで座ってくれよな」と言い、グラウンドの準備をしている他の先生のもとに駆けて行った。

 足早に茉莉が戻ってきて、萌黄は「お早い再会なんだから」と言い、茉莉と2人で笑い転げていた。志乃はというと、お手本がある事に大歓喜し、日南に落ち着かされていた。


「落ち着けぇー、落ち着けぇー」

「志乃ちゃんどうしたんですか?」

「いや、大歓喜しすぎて今にも暴れそうなんだわ……誰かこの子を落ちつかせて……」


 日南は始まる前から少し疲れ気味、いや、満更でもなさそうに志乃の背中をさする。茉莉は心底羨ましそうな顔で日南を見つめていた。すると、萌黄が口を開く。


「志乃ちゃん……今落ち着かずに、動いちゃったら、日南ちゃんと本気のバトル、できませんよ?」


 その言葉に志乃はハッと気付かされたような顔をして、スクリと起き上がり、日南に寄りかかるのをやめた。


「萌黄ちゃんの言う通りだよ……気づかしてくれてセンキュー!」

「もう、志乃ちゃんたら、お茶目なんだからぁ」


 萌黄が志乃の頬をツンツンつつく。またもやその様子に茉莉は心底羨ましそうな様子でジィと見つめていた。


「んーっ! う、羨ましい……私も志乃ちゃんとあんなことやこんなことがしたいのに……!」

「うーん? ちょっと待って、茉莉。あんなこともこんなこともしてないよっ! あんたどこ見てたの今まで!」


 日南はとうとう本性を表してしまった茉莉を言葉を聞いて、何とも言えない顔でその言葉を訂正した。ちょうどその時、猫矢が駆け足で生徒の前に戻ってきた。


「待たせてごめんなぁ! グラウンドの用意終わったから、今回お手本やって欲しい人発表するぞー」


 志乃は今か今かと自分と日南がペアで呼ばれることを祈る。


「今回は3ペアにやってもらう。じゃ1組目呼ぶから、呼んだらこっちに来い。田中、木村」

「あ、田中じゃん」

「田中、頑張れよ!」


 その言葉にストレートの黒髪、優しい目つきの黒眼のどこからどう見ても平凡な見た目の田中は手を振って反応を示す。日南と志乃は田中のことを小等部から知っているので、どこ吹く風だが、萌黄と茉莉からしたら、志乃が「君」付けせず、呼び捨てにしているのが驚きだったようで、口々にあの人は誰かという話をしてきた。


「え、田中? 田中はねぇ、存在が田中なんだよ。そこにいるだけで何だか安心する、クラスの安定剤? みたいな存在なんだよ。そう言えば初めて会った時から呼び捨てだったなぁ……」


 志乃の言っていることが半分以上理解できなかった2人だったが、そのうち同じクラスになれば分かるようになるだろうと日南は言い放った。

 

 田中と名も知らぬ木村の戦いが今始まる。


「よーい、はじめっ!」


 猫矢の合図と共に、木でできた先が潰されている長い槍を持った田中と木刀を持った木村がお互い目掛けて駆け出す。先に攻撃を仕掛けたのは田中。田中は槍を回しながら走り込み、相手の懐に一撃を入れる。しかし相手もそれだけで終わるはずがなく、懐に入ってきた槍を下に叩き落とす。それを待ってましたと言うかのように、田中はブォンと槍をひと回しし、相手の横腹に一撃を加える。相手はどうにかその攻撃を流そうとするが、バランスを崩してしまい、肩に一撃が当たってしまった。


「はーい、終了ー! 2人ともお疲れさん! 田中は相手のこれからの行動を見越した攻撃ができていて良かったぞ。木村はまず、体幹を鍛えることからだなぁ」


 猫矢は2人にそれぞれ好評を伝えて、田中はフニャりとした顔に、木村はしゅんとした表情で戻ってきた。


「じゃあ次! 来栖と水無瀬! こっから好きな武器選んで持ってけー」


 次に呼ばれたのは来栖旬と水無瀬アリスだった。

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