【第18話】朧姫と昔話
「ところで、皆さんは皇鬼様の比翼連理の花嫁が朧姫様だということはご存知ですか?」
古山は楽しそうにニコニコして生徒に言葉を投げかける。生徒たちは「もちろん!」や「知らない」と言った各々様々な返事を返す。
「皇鬼様が唯一心から愛した存在、それが朧姫様なんです。では、知っていた人! 朧姫様がどのような人物だったか答えてください!」
クラスの半分以上の生徒が手を挙げる。萌黄も日南も手を挙げており、その中にはアリスも入っていた。
「うーん、では宮下さん!」
「すべてが真っ白で、それはそれは美しいお姫様だったと言われています!」
「正解です! では次に……水無瀬さん!」
「賢く、聡明で、皇鬼様の側に仕え、心の支えとなった御方です」
アリスは自信満々に答えたが、古山は笑顔で「少し、違いますねぇ」と答えた。それに対してアリスは反論しようとしたが、古山は反論の言葉に被せて正解を答える。
「朧姫様は側仕えのように、一歩下がって皇鬼様について回っていた訳ではありませんよ。皇鬼様と朧姫様は対等なご関係で、共に同じ場所に立って、共に手を取り合って歩んでおられたと言われています」
古山は先程とは打って変わって、大切なものに触るような優しい声音で語る。まるでその様子を見てきたかのように、そっと、そっと、壊れないように語る。
「それと、人間では男尊女卑が多いですが、人外はどちらかというとその反対。女性の方が地位が上だったりします。まぁ上下関係というものは純粋に強さで決まる事が多いので、性別で地位を考えることはほとんどないんですがねぇ……そんな人外の世の中でも、比翼連理の関係というのは、上下というものが存在しません。しかし、『だから、対等だった』とは私は考えていません。お互いを深く思い合っていたからこその対等だったのでしょう」
噛み締めるように語る古山は、まるで、好物を大層味わって食しているかのような様子だった。
ざぁ、と少し空いている窓から風が入り込む。梅雨特有の生ぬるい、だけど、心地良い風が志乃の鼻を掠める。ふと、古山の方を見返すと、古山が志乃の方を見ている気がした。優しい、割れ物を触るような、そんな目付きな気がした。
志乃がぼんやりしているのも束の間、古山はいつの間にかいつも通りのテンションになっており、ペラペラと話し始めていた。
「さて、そんな朧姫様は一体何者だったのでしょうか。その正体はなんと、今では絶滅したとされている『天津鬼』と呼ばれる種族の唯一の生き残りでした。髪も目も角も全てが白銀色だったと言われています。まず、天津鬼という種族は天津神々に使える神使でした。神の眷属という訳です。天津神は高天原にいる神々のことを言います」
志乃は天津鬼と聞いて、猫矢の授業の冊子で見たことを思い出した。
(確か、一応の分類は色鬼だけど、持ってる力は神様と同じくらいなんだっけ……それと自分自身の体がどんな病気でも怪我でも治す薬になるんだったっけ?)
古山は流れるように話を続ける。
「天津鬼の始祖たちは病に苦しむ地上の人間、妖達を見て、心を痛めます。そして、地上に降り立つ許可を神々に求めたのです。神々はその心意気に大層心を打たれ、天津鬼達にある能力を授けます。それが様々な病魔、怪我を治す治癒能力、そして浄化の能力でした。神々は治癒能力を天津鬼達の体液に、浄化能力を声に宿しました。そして天津鬼の始祖たちはある村に降り立ったのです。そして村で人間達からは治癒の神として崇められ、妖達からも特別な力を持った神聖な妖として崇められました。天津鬼達は病魔や怪我を治すと大層喜ぶ人間達がとても好きになりました。人間と対等な関係で日々を暮らしていました。しかし、そんな平穏な日々を壊したのは人間でした」
古山は暗い顔をして、声のトーンを下げる。
「平安初期、その日々は終わりを告げます。都から貴族達が天津鬼達の話を聞き付け、村に訪れたのです。村人達と一緒に仕事をしたり、遊んだりする天津鬼達を見て貴族達は美しい、欲しいと思いました。貴族達は天津鬼達を村から連れ帰ると、タライ回しにして遊びました。時には血を流させ、癒しの力を楽しみ、時には美しい天津鬼達の体を使って遊びました。天津鬼達は治癒能力があると言っても、自分たちの怪我や病魔は治せません。天津鬼達は心身共に弱り果てていき、最後に残ったのは天津鬼達が連れて行かれて時、ちょうど隣の村に足を運んでいた純血の天津鬼の姫君と天津鬼の血を引く青鬼と赤鬼でした。その3人が朧姫様と護衛の蒼と紅です。この事に神々は怒り狂い、都では流行病が猛威を振るい、たくさんの人々が亡くなりました。この厄災を恐れて天皇は朧姫様を保護し、貴族の位に付かせ、天皇の命で保護します。これが朧姫様の、いや、天津鬼の昔話です」
そして、と続ける。
「天津鬼は先ほども言った通り、神の使い。浄化能力を声に宿した彼らが歌えば邪気が薄まり、神気が満ちると言われています。現在では天津鬼は国から保護されることが義務付けられており、また、その家族には援助金が支払われます。今の所、天津鬼の血を引いているのは、朧姫様の実の子供、未桜様と華影様だけなんですけどね。まあ、もし居たら保護する、という感じみたいですよ。ほぼ現在は存在しないと思われているのが現状なんですが、それでも自分が天津鬼だという者は後を絶たないんですよねぇ」
古谷は嘲笑気味に「人間も人外も愚かなものは愚か、という訳ですよ」と言い放った。




