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【間話】なーこ先生の憧れ

 猫矢が志乃を呼び出した理由は母、美麗の話をするためだった。いや、違う。美麗の話を聞くためであった。

 猫矢は美麗のファンのようなものであった。美麗のことを本気で尊敬しているのだ。なので今日、志乃が美麗の話を引用してクラスでも隠れ問題児として猫矢が設定している水無瀬アリスに説教をしたことに、さすが朧月! と思っていたのだ。


 志乃は昔から家族の自慢話が多く、自分が褒められることよりも家族が褒められることに対しての方が喜んでいた。

 確かに朧月兄たちは優秀だった。兄の話はよく聞くので把握していたが、美麗と優華の話は半信半疑だった。

 聞く所によると、仕事で家を開けることが多いが、志乃たちが休みの時、体調を崩した時は必ず家にいて面倒を見てくれる。護身術を教えてくれるし、しかも強すぎて一発も当てられない、瞬殺される。様々な名言を持っている……などなど。明らかに普通の親ではない感じがして猫矢はこう思った。


(そんな規格外な親、存在するかよ……)


 簡単な話、志乃の自慢話は信じていなかった。だから中学校の授業参観で朧月夫婦が来た時はその場にいた誰よりも驚いた。




***

 その日は授業参観で、中学3年生の体育の時間を担当していた。私は1年の時から朧月のことは知っていたが、担任になったことはなかった。3年でやっと担任になったのだ。

 私の専門は護身術から普通の体育まで、なんでもやる体育教師だ。朧月はずば抜けて体育の成績が良かったのと、朧月から話しかけてくることがきっかけで、良く個人的に相談などに乗ったりしていた。

 親が学校に来校するイベント事はたくさんあったが、朧月の親にはあったことがなかった。だからたまに会話の中に出てくる両親の話が規格外すぎて冗談だと本気で思っていた。


 

 生徒は早めにグラウンドに集合させ、親たちの到着を待つ。

 ゾロゾロと見たことがある人、いちゃもんをつけてきた人、全く見たことがない人と親たちがグラウンドに集まる。私は気になりすぎてつい朧月に声をかけてしまった。


「朧月、今日はお前のお母さんとか来るんか?」

「その筈なんですけどぉ……うーん居ないなぁ」


 朧月はキョロキョロと辺りを見渡して母親を探しているが、確かにこの美貌の親とまでわかるような麗人はいなかった。

 朧月兄妹の認識阻害眼鏡のことは教師陣は新人以外みんな把握している。私は素顔を見せてもらったので、朧月の美しさは理解している。確かに認識阻害眼鏡かけるわ……という感じ。

 生徒たちは親が来たことで浮き足だってソワソワしている。しかし私も生徒に指導できないほどにはドキドキしていた。


 結局、体育が始まる時間までに朧月の両親は来なかった。

 それに対して本人は、

「まぁ、急遽仕事の予定が入ったんじゃないですかね……」

 なんて納得する始末。


 その時点で私は朧月には悪いと思ったが、あんまりいい親とは思えなかった。だってそうだろう。約束を破る親はなかなかにヤバい奴が多い。

 気を取り直して授業を開始する。その日は今まで習った体術で実践をしてもらうことになっていた。生徒は実践と聞いて胸が高鳴り興奮してドキドキ。親は怪我をしないか心配でドキドキ。私は朧月の親がこれから来ないかなとドキドキ。


 この体術はまず最初に親御さんの中からお手本として組み手をしてもらうことになっていた。しかし、ここで問題が起きた。

 とある素行の悪い生徒の親が本気になりすぎて、相手を吹っ飛ばしたのだ。

 これには私もあんぐり。というか手加減という言葉を知らんのか! と思った。しかもその親はまだ戦い足りない様子で今にも暴れ出しそうだった。ガタイもよく、2メートル近い身長にもりもりの筋肉がついた、巨人である。


 しかし、我々が手を焼いていた時、上空から声が聞こえた。


「すみませーん! 遅れましたぁ!」


 トンっという華麗な着地音を響かせ、その人たちは舞い降りてきた。

 長く美しい黒髪をポニーテールにして赤い紐で括っている女性とこれまた長い黒髪を下の方でまとめている男性だった。どちらも赤い瞳が美しい、まさに麗人。他の人たちも顔を赤に染めるほど美しい人たちだった。

 我々は不審者だと思って警戒したが、それは彼女の手に持っていた許可証で授業参観に来た親御さんだと分かった。そして朧月の両親ということも分かった。


「あ、お母さん、お父さん! んふふ! やっぱり来てくれた!」

「いやー、時間間違えちゃって……」

「お前がギリギリまで服で悩んでいるから遅れたんだろうが」

「む! だけどそんな冷たい所も含めて好き!」


 こんなイチャイチャを公衆の面前でやるのはどうかとも思ったが、私もやりかねないので何も言わないことにした。

 これには暴れていた親も少し面食らっている様子で、しかしすぐに「まだやり足りない」と言い出した。それに対して到着すぐの朧月の母親が「相手探してるの?」なんて聞き出した。これには我々教師陣は困惑と焦りをあらわにした。そりゃそうだ。こちらは落ち着かせたいと思っているのに、火に油を注ぐようなことを朧月母は言っているのだ。私はすぐに止めたが彼女は聞かなかった。


「よし、やろっか?」


 我々はもうどうとでもなれという気持ちと、怪我をした時の問題など色々なことに頭を悩まされていたが、それを知ってのことか無意識か、彼女は上着を脱ぎながら巨体の男に話しかける。


「君が負けても、自分が悪いんだから訴訟とか起こしたり、何かをふっかけるような真似はしないでね」


 それに巨体の親は話半分に頷く。戦いたくてウズウズしている感じだった。そして、誰も予想していない事態に陥った。

 朧月の母親が巨体の男を片手でひと投げしたのだ。投げられた男も見ていた私たちもあんぐり。男はすぐに抗議し始め、「これは体術の授業だから今のは無効」と言い出した。これには母親も納得したようで「じゃあ今度はちゃんと相手してあげるね」と言った。


 それでも男の数多のパンチを左手で防ぎ、右手を後ろに隠して相手をする。いや、相手をしているというより戯れている猫に構ってあげているという感覚だった。男はさすがに疲れてきたのか、パンチの数が少なくなる。そして彼女は男の後ろに瞬時にまわり、トンッと首を叩いた。男は白目を剥いて崩れ落ちる。

 誰もがその洗練された動きに目が離せなかった。先程の組み手もまるでワルツを踊るような軽やかな動きで我々を魅了した彼女に、私はただ憧れを感じた。それは他の教員も同じだったようで、その授業が終わった後の飲み会で1番の盛り上がりを見せた話題が私の授業だった。




***

 猫矢は今では美麗の物理的な強さ、美しさは勿論、その生き方、全てに憧れを抱いている。なぜだか担任だからか、今後も志乃のことをよろしくと、志乃が知らない家庭の事情まで教えてもらっていた。それを聞いた時、猫矢は腰を抜かした。

 そんなこんな色々あって、定期的に美麗の話を志乃から聞いている。ちゃんとお菓子などを用意してきちんとお茶会の様式を取っている。

 今日も志乃の両親、兄の話を聞いて、和んでいた。志乃が持ってきたお菓子のタッパーを忘れていたので、教室に届けようと急いでいた。その道のりにアリスがいたが、「気をつけて帰れよ」とだけ言って急いだ。

 

「朧月ー忘れ物してるぞ……朧月!?」


 頭を抑えて倒れる志乃を見つけてしまったのだ。

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