【第13話】人外の種類と系譜
「お前らが気になって来た所で、今日の配布資料だ。心して見ろよ? 先生、2週間かけて作ったんだから」
猫矢がウキウキの声色で冊子を配っていく。冊子の表紙には「人外の種類と系譜」と書かれていた。クラスメイトたちは資料を受け取るとすぐにパラパラと目を通し、班のメンバーと人外の種類を話題に盛り上がっていた。志乃も例外ではなく、受け取った瞬間すぐに表紙をめくって目を通した。
鬼とは力の大妖。身体能力や五感に長けており、肉弾戦において敵う者はいないとも言われるほどである。
・「童子系」は鬼の中でも最強種。頭脳、身体能力どれをとってもカリスマ性があるのでヒエラルキーのトップにいる事が多い。
・「羅刹」は人間が人外に転化した存在。食人性や暴力性を有しているため危険。
・「夜叉」は神に近い存在。妖術の上位互換、神通力を使うことができる。
・「天邪鬼」は音を操る鬼。先祖が巨人だったことから、天邪鬼は総じて背が高い。
・「牛鬼」は毒を制する者。毒の扱いに長けている。牛のような大きな角を持っていることが多い。
・「金平鹿」は海を操る者。海に関するものなら操ることができる。
・「百目鬼」は目に秀でた者。見ることにおいて、彼らよりも秀でた者はいない。
・「小鬼」は大人でも子供のように背丈が低く、いたずら好きな性格をしている。
・「色鬼」は赤・青・黄・緑の4系統あり、それぞれ使う妖術の種類が違う。
(へぇ……鬼ってこんなに種類あるんだ……鬼なのに知らなかった……ん?)
志乃が感心していると、鬼のことが書かれたページの端っこに注意書きのようなものがあった。
*「色鬼」にはもう2系統存在するが、それは別ページで解説する。
(き、気になる……! でも楽しみは最後…………!)
鬼としての本能がそうさせるのか、はたまた志乃が好奇心旺盛な女の子だからだろうか、その注意書きが気になって仕方がなかったが、とりあえず全てのページに目を通してみることにした。
「天狗」は上から「大天狗」「小天狗」「烏天狗」と分類されている。
「天狗」には関東と関西に大きく2つの派閥があり、関東が「飯綱山」、関西が「鞍馬山」だそうで、仲がすこぶる悪いらしい。
神と称される天狗も存在し、「八天狗」と呼ばれる。
「愛宕山太郎坊」「比良山次郎坊」「飯綱三郎」「鞍馬山僧正坊」「大山伯耆坊」「彦山豊前坊」「大峰山前鬼坊」「白峰相模坊」の8人存在する。
「妖狐」にも系譜とランク付けがあり、ランクは上から「天狐」「空狐」「気狐」「仙狐」「野狐」とされている。
・1000年以上生き、千里眼で全てを見通すと言われ神と称される「天狐」
・1000年近く生き、神通力を使うことができる「空狐」
・500歳から1000年未満の年齢で修行の身である「気孤」
・500歳未満で修行中の身である「仙狐」
・「仙狐」になるための試験に合格するために勉強中の身である「野狐」
その他にも「金狐」「銀狐」「黒狐」「赤狐」「白狐」の系譜があり、「金狐」「赤狐」は太陽、「銀狐」「白狐」は月、「黒狐」は星を象徴する。この5系統の中にも様々な色が存在する。
その後にも「座敷童」「海坊主」「猫又」「狗神」「ぬらりひょん」「鵺」「がしゃどくろ」「河童」「付喪神」と続いていき、海外の人外のページに差し掛かる前に先ほどの注意事項のページがあった。
(『天津鬼』と『禍津鬼』について……? 色鬼の話じゃなかったっけ?)
志乃が疑問を抱くのも無理はない。題名には色鬼とは全く無関係そうな鬼の名前が出てきたからだ。しかし読み進めていくと、色鬼の話だったことがわかる。
「天津鬼」は元はと言えば天上の神、天津神の元にいた神の神使である。髪も角も瞳も、全て真っ白な存在だとも言われている。そのため「白鬼」とも呼ばれ、一応の分類を「色鬼」として仮定しているが、その力は神に等しいものである。その血肉は全ての病や怪我を癒やし、歌声は全ての虚を祓うとまで言われている。現在存在は確認されておらず、もし確認された場合はすぐに保護する手筈になっている。
「禍津鬼」とは「天津鬼」の正反対の存在。伝承によれば髪も目も肌も全てが黒く、その存在意義は厄災を振り撒くことと言われている。全身が黒いことから「黒鬼」とも呼ばれている。
(『天津鬼』『禍津鬼』……どこかで聞いたことあるような……でもどこだっけ……うっ)
「い、うっ!」
声に出してしまうくらいの鈍痛が頭に響いた。思い出そうとすると、頭が割れるようなそんな痛みを一瞬感じたのだ。まるで志乃に思い出すなと言っているかのような頭痛だった。
「志乃ちゃん? 大丈夫?」
志乃の声に萌黄が気付き、萌黄は心配そうに志乃を見る。志乃は一瞬の痛みに少し驚きながらも、萌黄に心配をかけまいとして元気に返事をする。
「……うん、大丈夫。一瞬すごい頭痛がしただけだから」
「志乃ちゃんが大丈夫って言うならいいんだけど……しんどくなったら保健室行くんだよ?」
「ふふ、萌黄ちゃんは心配性なんだから……!」
クラスメイトたちは一通り目を通したのだろうか、周りの人たちとワイワイと賑やかに話をしている。志乃の班は相変わらずピリついた空気だったが。意外だったのはあれだけ人外が嫌いだとか興味ないだとかと抜かしていた来栖が少し不満そうではあるが、パラパラと冊子をめくっていたことだ。
「ふふ、来栖くんって、もしかしてツンデレタイプなのかも。ちょっと意外……!」
によついた笑顔の萌黄がコソコソと志乃に話しかける。その声が聞こえないほど、来栖は集中して冊子を読んでいた。
それとは打って変わって、アリスの冊子は一度も開いた様子がなさそうなくらい綺麗だった。今もアリスは冊子の表紙をじっと見つめているだけである。
――キーンコーンカーンコーン
志乃が不思議に思っていると、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
「おまいらー、休憩だ休憩! 次の人外学はそこに載ってるやつ1個ずつ説明するから、よろしくぅー!」
そう言って猫矢は颯爽と教室から出ていった。
グループワークのための固めていた机を下の場所に戻す。志乃も例外なく、机を持ち上げている時だった。
「人外なんて、どれも同じよ……あの方以外、全部醜い化け物なんだから」
「えっ……」
あのアリスが誰にも聞こえないようなそれくらい小さな声でいつものアリスならありえないような事を言ったのだ。おそらく志乃にしか聞こえておらず、机を元の位置に戻し終わったアリスはすぐさま教室から出ていった。
志乃が呆然としていると、日南が疲弊した顔で近寄ってきた。
「うーん、やっぱ志乃がいないと力が出ないわ……ってどうしたの、ぼーっとしちゃってさ」
「……うーん、まあなんでもないかな?」
「何故に疑問形?」
日南は疑いの眼差しで志乃を見つめていたが、志乃はその視線よりもアリスのことが気になって仕方がなかった。




