【間話】興味を惹くモノ②
その日の夜だった。
僕の家は鳴宮の本邸だ。本邸は日本家屋で二階建て。僕の部屋は1階だった。
僕は自室でパソコンとにらめっこをしていた。どう叩いても、埃のひとつも落ちない、そんな一家だった。あまりに何も出てこないので、僕はまるで情報操作されてるみたいだと思った。一般家庭がそんなことできる訳ないのに。頭を冷やそうと思い、部屋の障子を開け放つと、暗闇の中に人影が見えた。暗闇の中に2つの赤い光がギラリと揺れる。僕は界雷剣を出して身構えた。
「ふふ、そんなとって食おうっていう訳でもないんだけどなぁ。君、警戒しすぎじゃない?」
ジャリジャリと、庭の土を踏み締めて人影は動く。綺麗な芯の通った声は女のものだった。
人影が月の光によって露わになる。沢山の装飾が着いた白いローブのようなものを羽織り、黒いファーがついたフードを深く被っている。そのせいで顔は見えないのに、フードの中から2つの赤い光だけが見える。
僕は武器を構えているのに、女は一切怯まない。まるでこのような場面に慣れているかのような様子だった。僕は痺れを切らして、先制攻撃を仕掛ける。
僕も一応は陰陽師。腕には自信があった。
「へぇ……いきなり攻撃? 物騒じゃん」
僕は雷の速さで移動して斬りつけた。雷の速さについていける人外は今までにいなかった。だからこれで終わりだと思ったんだ。
「いい腕してるけど、その攻撃はぁ……」
界雷剣がピタリと動かなくなる。
「本当の戦いを知らない雑魚共にしか、通用しないんだよ?」
女は自身の人差し指の爪だけで剣を止めていた。僕はこの事実に、一気に全身の穴という穴から冷や汗を流し恐怖を覚えた。
女はピンと指を弾く。弾いただけだった。なのに、
――ドガァンッ!
僕は自分の部屋の方に突き飛ばされた。パラパラと壁から粉が落ちる。僕は訳が分からなかった。指を弾いただけで、ここまでのことができるものなのだろうか。否、普通はできない。だからこそ、賢い僕はすぐに分かってしまった。こいつは普通ではない、と。
僕が命の危険を感じていると、それはまるで友達に話しかけるかのような軽い感じで僕に話しかけてきた。
「君さぁ、困るんだよねぇ。朧月の家のことを勝手に調べまわってさ。こっちはいい迷惑だよ、調べても何も出てこないのに」
「…………あなたこそ、関係のないことなのでは?」
「関係あるのか、ないのかは、私が決めることだ。君にとやかく言われる筋合いはない」
「……で、僕に何の用なんですか?」
「君、自分の状況も分かってるし、聞き分けもいいし、いいね! そこは褒めてあげよう。何、単純なお願いだよ。今後一切、朧月家に関して嗅ぎ回らないでほしい。ただこれを言いにきただけ」
女はクスクスと微笑みながら、僕のことをその赤い瞳でじっと見つめる。月の光が強まり、影が濃くなる。僕は影に飲まれるかとおもくらい、女に底知れない闇を感じた。
「はは、もう調べませんよ」
僕はこの場面を乗り越えるだけの表面上の言葉を述べた。ここを乗り越えられたならば、僕の勝ち。あれには人を害する敵意はない。まず、人間を害すれば、罰は免れないので、人外はよっぽどのことが無い限り人間を傷つけない。わざわざ僕の家まで来る程には朧月家のことが知られたく無いのだろう。僕は俄然やる気が湧いてきた。
「うんうん、やっぱり聞き分けがいいねぇ。聞き分けのいい子は嫌いじゃ無いよ?」
そういうと、女は後ろを向いた。やっと帰ってくれると安堵した瞬間だった。
女は自分の腕をローブから出し、手刀で自分の腕を斬りつけたのだ。当然の如く血が溢れ出す。
「は、何して…………っ!」
女はぼたぼたとものすごい勢いで流れる血を気にもせず、僕の方を振り返る。すると、女の血がまるで意志を持っているかのように固まりだしたのだ。そしてどんどん形を変えて行き、大きな鎌になった。血で出来た深紅の鎌。まるで死神のような、そんな大鎌。
その大鎌を片手に、女は部屋の中まで侵入してくる。そして、大鎌を僕の首に押し付けた。
「でも……考えてることはバレバレだったね? 君は顔に出やすいみたいだ」
グググと大鎌に重さがかかる。
「……っ! んぐ、ハァッ、は、わかった……もう、し、調べない、せん、さ、くしない、から……その鎌、を、退け、て、くれ…………い、きが……」
僕はやっとのことで言葉を捻り出した。だけど、女は行動しない。本格的に息ができなくなって、意識が遠ざかりかけた時、僕が倒れている廊下の奥から声がした。
この女性は一体……?




