【間話】興味を惹くモノ①
今回から３つの間話では少し、物語の深いところに繋がるお話を書いています。
僕は鳴宮天麻。雷を司る陰陽家、鳴宮の次男だ。
次男坊だから家を継ぐ心配は無い。だから興味の赴くままに研究をしている。
主に虚と開花武器の研究。
一応陰陽師の家系だからね、義理はないけどこういう系の勉強をしていたんだ。そしたら案外面白くてね。
そうそう、この前、高等部の入学式の日に虚人が出たとか。しかも話すことが出来る、知能を持つ個体。僕はこの話を聞いてとても興奮したね！ まさか深度４の「妖怪」が出現したなんて！ この個体はどうなったのかと問い合せたんだけど、もう討伐された後だって……正直ショックだったよ。その個体を研究することが出来ていたら、どんなに虚の研究が進んだことか。
でもね、よくよく話を聞いていたら、もっと面白いことが分かったんだ。
その妖怪はある生徒を見て「いた」と話したとか。
その生徒の名前は朧月志乃。
そのまま彼女目掛けて飛びかかり、窓を突き破って３階から１階まで落下。その途中で彼女は妖怪を蹴り飛ばし、綺麗に地面に着地してから、ものすごい速さで校舎裏に向かって走り出したとの事だった。そして、教師陣が校舎裏に向かった時には倒れている朧月志乃と彼女を抱き抱える兄達がいたと言う。
兄の片割れ、蒼真という男が、
「虚人は妹が倒しました。でも、誰にも言わないでください。お願いします」
と懇願したそうだ。まあ、僕のお手伝いさんがその中に居たから僕に話が伝わったんだけどね。
僕は朧月志乃について興味を持った。だから徹底的に調べた。
家族構成は５人。両親に年子の双子の兄がいる。
国への届出によると、鬼の一家という事だった。
鬼という種族には系譜がある。赤鬼・青鬼・黄鬼・緑鬼などといった「色鬼」、酒呑童子・茨木童子などの「童子」系、天邪鬼、夜叉、羅刹などがある。しかし、朧月家は何の系譜の鬼なのかが全く分からなかった。
しかも両親がなんの仕事をしているかも分からない。種族も鬼、とだけ記入されていた。祖父母もいない。いるのは母親の妹弟だけだった。
これ以上は調べられないとお手伝いさんに言われた。ここまで調べられたことを褒めておかないと。ご褒美もあげなくちゃね！
僕は朧月志乃に、いや、この朧月という一家に興味を惹かれてしまった。徹底的に調べなければ気が済まない。
今日、高等部に呼ばれて、授業をしに行ったんだ！ なんでも、虚が侵入するという大失態をやらかしてしまったもんだから、これを機に生徒たちへの再教育をお願いしたいとかなんとか。頼まれたなら仕方がない。僕が丁寧に教えてあげないと！
１つ目の授業クラスはB組だった。確か朧月志乃がこのクラスだ。籠屋の次男坊、龍司の妹もこのクラスだと言っていたな。僕は内心ウキウキで教室に入った。籠屋日南はすぐに分かった。霊力が少し漏れていたからね。
でも朧月志乃が誰なのかは全然分からなかった。
このクラスにいるのは知っているのに、誰か分からないまま授業をするのはとてもモヤモヤした気持ちだったよ。しかも途中、自分には力なんてないのに家の権力で今までブイブイ言わせて来たんだろうなぁっていうクソガキに絡まれるしで、僕の完璧な笑みは一瞬崩れかけたよ。
でもクソガキが開花武器を持っていたことにはとっても驚いた。「鷹落」……開花武器はその人の性質そのものだ。絵柄と名前だけで僕はなんとなくこの子の今までの人生、というものを察してしまった。でもこの子が開花武器出してくれたおかげで、日南ちゃんにも強要することができた。
僕は籠屋の次男、そして日南ちゃんの２番目の兄――龍司ととっても仲がいいので、日南ちゃんのことはよく聞いていたけど、実際に会うのは初めてだった。
僕はこの時まで日南ちゃんのことを勘違いしていたね！ 閉鎖的で有名な籠屋家の最悪な運命を背負った、かわいそうな子……そんなふうに思ってたから、もっと深淵の御令嬢みたいな感じだと思ってたんだけどぉ……初っ端から殺意増し増し、クソガキと喧嘩はするわで……しかも殺気放ってるから誰も止められないし、猫矢先生も止めないし……
僕が困り果てていると、喧嘩を止めにくる猛者が現れた。濡羽色の黒髪が綺麗な眼鏡をかけた女の子。彼女が一声あげると、あんなに殺気立っていた日南ちゃんは瞬時におとなしくなったのだ。そして、日南ちゃんの呟きのおかげで、誰が朧月志乃なのか分かった。仲裁した彼女だ。
ぱっと見、どこにでもいるような普通の子で、ましてや虚に目をつけられるような感じの子ではなかった。
でも、面白いことは起こった。日南ちゃんが開花武器を出現させた時、朧月志乃は開花武器と会話していたのだ。
そんなことができるのは今は存在しない「天津鬼」や神に何かしらの縁がある者だけ。
どうしよう、どうしよう！ まさか鬼の一族、としか記載がないのは「天津鬼」の末裔だから？ もしそうなら早く保護しなければ！ どうしようどうしよう！
そこからの僕の心情は終始こんな感じだった。だから、クール系キャラで頑張ってたのに最後にボロが出ちゃったワケ。
結局、猫矢先生に引きずられる羽目になった。
僕は猫矢先生に引きずられている時、先生に聞いたんだ。
「朧月志乃さんって、一体何なんですかね？」
猫矢先生は少し黙って、悪い顔をして言った。
「興味を持つのはいいことですけど、好奇心は猫をも殺す、ですよ」
次の教室まで引き摺られて、猫矢先生は去っていった。その後ちゃんと授業をした僕はすごいと思うよ。
僕は大学練に戻る途中で生徒に呼び止められた。何でも中庭で喧嘩してる奴がいるから、どうにかしてほしいとか。僕は急いで向かったけど着いた頃にはもう喧嘩は収まっていて、誰もいなかった。無駄足だったなぁと思いながら立ち去ろうとした時に、中庭の中央にあるテーブルに誰かが座っているのが見えた。朧月さんとピンクの髪の子だった。
彼女は眼鏡を外していて、素顔を晒していた。
とっても綺麗だった。美しいっていうのも当てはまる言葉だろうけど、僕は綺麗だと思った。
別人なんかじゃない。あの子は朧月志乃だ。オレンジ色の夕日を浴びてオレンジ色のコントラストが掛かる濡羽色の黒い髪。瞳はアメジストのような透き通った紫。まつ毛は長く、目を伏せればまつ毛の陰が頬に落ちる。
僕はこんな美しい人を初めて見た。とても感動したよ。そして朧月志乃を調べ尽くそうと決心した。
独白だとしても、侮るなかれ。
読んでくれて、ありがとうございます！
