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やがて神になる君の物語  作者: やがて神になる君の物語
3/3

嫡男誕生

出産は鼻からスイカを出すようなものだとか何とか・・・。

スイカゲーム面白いですよね。


スイカ2個目が作れません。

 セイヤが新たな生を受ける世界は地球で言えば中世のヨーロッパ。いわゆる剣と魔法の世界としてよく出てくる世界観そのものであった。

 前世の記憶があれば、剣も魔法もあるファンタジー系のゲームの世界に入り込んだような気持ちになるのかもしれないが、当のセイヤの中にはもう前世の記憶は残っていない。

 彼はこれよりこの世界『ハイデリルフィリア』の住人となる。



 

 星空に浮かぶ赤と青の月。古くから読まれている物語に登場する姉妹の名がつけられた2つの月から放たれた光が混じりあって世界に降り注ぐ夏の夜。

 その日、新たな命が誕生した。


 紫色となった光を窓際で一身に浴びる青年は腕組みしながら瞼を閉じ、指先はトントンと自身の腕を叩きながら、右へ左へと忙しなく動き回っている。

 その背後では似たような制服に身を包んだ者達が直立不動の姿勢で何かを待っている。

 その足元。柔らかな絨毯越しに微かに聞こえるのは若い女性の叫び声と、何かを指示をする年配女性の声。そして、動き回る大勢の足音が振動と共に伝わってきていた。

 瞬間。静寂が訪れ、産声が聞こえた。

 即座に歓声にかき消されてしまったが、確かに聞こえた。部屋で落ち着かない様子でウロウロしていた青年はピタリと足を止めてすぐに来るであろう使いを待つ。


「ご主人様。お生まれになりました!」


 若いメイドが息を切らせながら部屋に入ってくる。

 中にいた数名の男性。その中でもとりわけ豪華な衣装に身を包んだ20代位の青年がメイドの報告に喜色を浮かべる。


「して性別は!」


 喜色を浮かべた青年の隣。執事と思われる男性がメイドに確認をとる。


「はい!元気な男の子でございます!」


 これが今の地球であれば少し問題のある問いであろうが、ここは初子が男児であるのは喜ばしいという世界である。

 ましてやその家柄が高貴であればあるほどに。


「母子共に健やかでございます。ですが、奥様はご主人様をお迎えするために身支度をを整えておりますので・・・」


 メイドの言葉は少し待ってほしいという意図であったが、青年は聞き終える前に部屋を出てしまった。

 突然駆け出した主に虚を突かれたのか、メイドと配下の2人は慌てて後を追う。

 母子のいる部屋は1階層下の大き目の一室。先程青年がいた部屋の真下に位置する。

 屋敷に常駐する治癒術師に与えた部屋と繋がっており、普段は救護室として開放している部屋である。

 治癒術師の勧めもあって普段から清潔に保たれていた部屋なので、夫人の陣痛が始まった際に寝室からこの部屋に移された。

 青年は妻に寄り添うことを希望したのだが、助産経験のある治癒術師の・・・。


「邪魔!」


 という一言で部屋を追い出された。

 雇い主である高位貴族に対しての言葉とはとても思えないのだが、彼女を咎める事はできない。

 初産の女性。しかも当主夫人となれば、万が一の事など何があろうと決して許されない。

 万全を期しても不幸はやってくる。助産師として彼女もまた相応の覚悟を持って、この戦場に身を置く故の暴言でもあった。

 青年も理解の上で不問とし、大人しく自室で待つことを選んだのだ。

 だが、我慢の限界を超えたていた青年は階段を飛ぶように駆け下り、それでも優雅に早足で廊下を歩いてゆく。

 母子のいる部屋の扉の前で呼吸を整えてノックする。

 一拍の間が空いた後でゆっくりと扉が開き、少し開いたところで中からメイドの一人が確認のために外を覗くように顔を出した。

 主と仰ぐものを視界にとらえたことでメイドは慌てて扉を開けた。

 あまりにも勢いよく開けすぎて周りの者が驚いた程だ。

 部屋のベッドで赤子を抱き、柔らかな表情で見つめていたのはまだ十代と言っても通ずる位にうら若き女性であった。彼女は赤子から目を離さずにいたが、扉の開く音を聞いて待ち人が訪れた事を知る。

 青年はメイドに促されてベッドの脇にある椅子に腰かけると、女性の手の中で眠る我が子を確認して涙を浮かべる。


「セリーナ。初めての出産は大変であったろう。そしてありがとう。母子共に健やかで安心した」

「ありがとうございます。あなた。この子が貴方の子です。抱いてやってください」


 そう言って、すわっていない首を支えながら差し出された赤子を、青年は緊張した面持ちで受け取り自身の胸に抱いた。

 赤子の持つ高い体温が胸に染みていくように感じる中、青年は血を分けた我が子の寝顔を黙って見つめていた。

 どれくらいの時間そうしていたのか分からないが、長く感じただけで実際はそうでもなかったのかもしれない。

 頬を伝う涙が赤子の頬に落ちたのを見て青年は自分が泣いているのだと知った。


「あらあら。いくら嬉しくても当主が人前で涙を見せるものではないわ」


 諭すように言ってはいるが、ベッドに横たわるセリーナは満面の笑みである。

 青年は赤子をセリーナに渡し、空いた手で頬の涙をぬぐう。


「セリーナ。この子の名前は以前話した通りでいいかい?」

「ええ。あなたと私の名前から1文字ずつ。そしてこの国の古き言葉で『良き絆を得る者』という意味を持つ『セイヤ』」

「そうだ。この子はセイヤ。セイヤ・エクトリフ・フォン・アルテリア。

 この私『イージス・エクトリフ・フォン・アルテリア』の嫡男であり、アルテリア王国エクトリフ公爵家の跡継ぎとなる子だ」


 アルテリア王国。ハイデリルフィリアの南に位置する大陸の1つである『アーデルファクト大陸』の東部地域に広がる大国の1つである。

 エクトリフ公爵家はアルトリア王国現国王の生家であり、現国王はエクトリフ公爵家現当主の兄でもある。

 将来的にセイヤは次世代の国王となってもおかしくはない。それほどの地位を生まれながらにして有しているわけだ。

 今世のセイヤの記憶からは消えてしまっているが、これもまた女神様達がセイヤに贈った特典の1つだったのかもしれない。


「ご主人様。奥様はまだ出産を終えて間が開いておりませぬ。セイヤ様も今はお休みになられておりますが、早々にお腹をすかせて泣き始めるかと」


 セリーナの世話係の1人でメイドを束ねる地位にいる女性からそう言われては、当主であるイージスも退出せざるをえない。


「セリーナ、ゆっくりと休みなさい」


 そう言付してイージスは部屋を出た。

 エクトリフ公爵家に嫡男誕生。

 近年高位貴族の出産は女児が続いていたこともあり、久々の男児。しかも嫡男。

 その一報は熱をもって即座に王城へと伝えられた。

 エクトリフ公爵家の元当主であり現国王の『ディートリヒ・K・アルテリア』。

 20歳という若さでアルテリア王国国王となった彼はイージスの実の兄である。

 彼が即位してから、正妃である『フレデリカ・エクトリフ・フォン・アルテリア』との間に1男を、側妃である『ヴァネッサ・エクトリフ・フォン・アルテリア』との間に2女をもうけている父親でもある。

 嫡男である『グラム・エクトリフ・フォン・アルテリア』王子は正式に王太子として世間にお披露目済。

 だが、王妃をはじめとする近親の者は頭を抱えていた。

 王位継承権で言えば4位に位置するセイヤの誕生による後継者争い・・・などではない。

 今年で齢35となる現国王ディートリヒは10歳離れた弟を溺愛していた。

 1歳下で隣国『オルデラ帝国』に正妃として嫁いだ妹『アネット・エクトリフ・ファン・オルデラ』もまた同様である。

 特にディートリヒはイージスの妻であるセリーナが懐妊したと聞いた時に自身の妻が懐妊した時や出産した時以上に喜んでしまった。

 その日。王妃達から夜通し叱責された過去を持つディートリヒと、他国に嫁いだはずなのにセリーナ懐妊が王室に報告された3日後に単身で王国にやってきた皇后アネット。

 そんな彼らがこの2人が伯父バカと伯母バカとなってしまわないか?いや、なるだろう。というのが周囲の認識となっている。

 実の子3人は2人の妃と王の側近によって監視が行き届いている事もあり、何とか抑制されてはいる。

 しかし・・・現王国の弟が当主で、最高位である公爵家とはいえ、エクトリフ公爵家は王国貴族の1つに過ぎない。

 しかも、エクトリフ公爵家はアルテリア王国に属する貴族の総括役を任されている。つまり国王は雇い主でもある。

 つまり、立場的に兄弟というだけでは王の行動を止めることができないのだ。

 日々抑制された愛情が甥の身に降り注がんとしている。その事を察した王妃達は頭を抱えているのだ。


「イージスもついに父となったか!早速エクトリフ家へ向かうぞ!」


 弟の初子。しかも嫡男誕生の報にディートリヒは分かりやすく浮かれていた。

 しかし、最側近である宰相から待ったがかかる。


「王よ。すでに夜も更けております。出産は何度目であろうと楽なことではなく、特に初産は身体の負担が大きいと聞きます。エクトリフ夫人も今は御身体を休めておりましょう。行くなとは申しません。行くのならせめて3日はお待ちください」

「確かに。しかし、明日でなく3日後というのは遅くはないか?それくらいは私の日程を調整すれば可能であろう?」


 アルテリア王国で最も威厳があるはずの男性。しかし、そこにいるのは遊びに行くのが我慢できない子供のようだ。

 宰相は諭すように声を抑えて大事な事を伝える。


「おそらく、3日後にはオルデラ帝国皇后オアネット様がこちら御越しになるかと・・・」


 そんなバカな。とは誰も口に出来なかった。実の兄ですら否定できない行動力。

 皇后アネット。またの名を『神出鬼没』

 皇后でありながら戦場にも顔を出して周囲を驚かせた彼女である。

 再び王国に現れたとしてもおかしくはない。むしろ、前例があるだけに宰相の言葉が予言にすら感じる。


「分かった。訪問は3日後とする。それまでに祝いの品を用意せねばな。そうだ。生まれた子の名はなんと?」


 アルテリア王国国王ディートリヒ。

 オルデラ帝国皇后アネット。

 両者が伴ってエクトリフ公爵家を訪れるのは予定通り3日後であった。


さて、主人公が再び誕生。

すまんが作者として君には試練を与えなければならない!

それ以上に作者に試練が訪れているんですけどねっ!

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