魂の輝き
初動は早いです。
他の作品も投稿頻度を早めたいですね。
ちゃんと書き切れとは思いますが、書きたい衝動は抑えられません。
きっとこれが悪いんだろうなぁ。
「以上があなたが亡くなってからの顛末ですね」
「・・・。」
死んだはずの私の目の前には、円卓を囲む多種多様な姿のナニカがいた。
なぜなら、正確には姿が認識できるのは私に事の顛末を説明してくれたキラキラと輝く小さな光を纏い、純白の衣装に身を包んだ若くて美しい女性のみ。
他は、それぞれの席で明滅する光の塊であり、大きさが異なると分かるくらいで、その輪郭すらハッキリとしていない。
その数は全部で8つ。女性を含めると9人?なのだろうか?
何故かは分からないが、それらが私を見ているのだけは認識できた。
「加藤誠弥さん。私達はあなたの言葉で例えるなら『神』と呼ばれるものです」
「正確には違うが説明が難しい。そういう存在だと思ってほしい」
女性とその背後の1体?神というからには1柱?が話しかけてきた。
「先程の説明通り貴方は亡くなりました。その魂は本来ならば貴方の世界の中で輪廻を繰り返すのですが、こちらの事情で貴方の世界の神的な存在と取引をして此処へ連れてきました」
まるで、よくある異世界モノと呼ばれる展開じゃないか。
そう思った私に、
「そうだな。話が早くて助かる。その認識で問題はない」
私の思考を読んだのか、また他の神的な1柱が話しかけてきた。
「その通り。ここでは其方の思考が筒抜けとなる。だが気を悪くしないでほしい。ここはそういう場所なのだ」
「いえ、別に気を悪くするということはないです。なんとなくですが納得している部分もあります」
とはいえ、あまり変なことは考えないようにしよう。
そんな小さな決意をした私に神的な女性。面倒なので『女神様』は凛とした表情で私に話しかけてきた。
「早速ですが本題に入らせてもらいます。私達が貴方をこちらの世界に読んだ理由ですが、貴方にはこちらの世界の神になってほしいのです」
「はい?」
「それは肯定という意味ではないですよね」
女神様は苦笑いを浮かべている。
私はどういう表情をしていたのだろうか?きっと間抜けな顔をしていたに違いない。
生前は特筆するような何かを成し遂げた事なく、偉人となるような功績を挙げた訳でもない。
平々凡々な一般市民だ。
それが神?なんの冗談だというのか。
「気持ちは分かります。ですが、今は何かを成したということがそれほど重要という訳ではないのです」
女神様は我が子を諭すような口調で説明を続けようとする。そこへまた別の1柱が割り込んできた。
「ワシ等が求めるのは魂の純度だ。其方の世界にも宝石と呼ばれるものがあるじゃろう?同じ種類の宝石であってもそこには差がある。何故なら宝石の中身には多少なりにも不純物が混じっておる。それが少なければ少ないほど宝石は純度を増し、純度が高ければ高い程より輝く。そういうモノだと思ってほしい」
「魂の純度・・・」
「そうです。加藤誠弥さん。貴方は稀にみる程に高純度で強い輝きを放つ魂を持つ者なのです」
「ですが・・・」
「人は生きていく上で少なからず負の行動をします。憎悪、羨望、怠惰、嘘、欺瞞、そして時には殺意なども・・・」
殺意。
その言葉に私は、自身に向けられたソレを思い出して言葉が出なくなる。
「負の行動は少しずつ不純物として魂に蓄積し、決して消えることはありません。ですが、人が生きていく上でそれは当たり前の事なのです。
先程の宝石に例えるならば、当たり前に生きていればその魂の価値はその辺に転がる石と変わりません。
少し良い行いを心掛けていけば硝子のような価値が生まれ、より負の行動を少なくしていくことで宝石の様になり、その価値も上がっていきます。そういった者は年に何人かはいます」
女神の説明にちょっとした疑問が浮かんだ。
それなら負の行動を起こすのが少ない小さな子供とかなら?さらに言えば生まれたばかりの赤ん坊ならその魂の純度はどうなるのだろう。
その問いに対する答えはすぐに出た。
「生まれたばかりの赤子のように無垢なものが亡くなっても魂の純度が高くなる訳ではありません。
宝石と同じなのです。生まれたばかりの赤子はいわば原石。内側に不純物は無くとも、外側が不純物で覆われた状態なのです。
原石は磨かなければ高純度とはいえ輝きは生まれません。
尊重する相手と高めあうように競い合う。苦難を乗り越える。窮地を脱する。他人を慮る。
色々とありますが、自らを磨く努力とでも言いますか。要は研磨がなければ、どれ程高純度な魂であっても輝くことはないのです。
多少の個人差はありますが、貴方の世界では概ね20年は必要です。
尚且つ、その純度を保ったまま長い人生を歩むほどに魂は輝きを増します。
時に、貴方の世界では聖人などと呼称される者達がいますよね。
彼等は多くの魂の中でも、抜きん出るほどに高純度で強い輝きを放つ魂の持ち主です。
ですが、貴方の世界では有史以来そのような者は数える程しか現れていませんよね?
つまり、今の世界において高純度で強い輝きを放つ魂というのはそれ程に生まれ難いということなのです」
「そう言う事で、ワシ等も気長に待つつもりであったのだが、そこに其方が生まれたのだ。これまで宝石のような魂は数多くおったが、その中でも其方の魂は群を抜いておる。本来ならば其方は其方の世界で神的な存在に昇華してもおかしくはなかった。交渉相手も其方を渡すことに難色を示しておったしな」
「じゃが、其方の世界はそういった存在が飽和気味であったので何とかなったのじゃ」
するとまた1柱、新たな神的な存在が話に入ってきた。
「そうだな。お前さんの世界は生まれた当初に高純度な魂が数多く生まれ、その殆どが昇華した。
お前さんの世界じゃ数え切れぬほど、神と名の付くものあちこちにいるだろう?
それが羨ましく思ったこともあったが、その事でお前さんをこちらに呼べる事になったというのなら、それは僥倖ということだ」
確かに。私のいた日本だけでも八百万の神が存在しているというからな。
「ですが、これから貴方を送る世界に『神』というものは存在していません。
いえ、正確には神という概念はあって、住人達も神とは何なのか知ってはいるのですが、信仰の対象までには至っていない。という状態です」
「お主に分かりやすく例えるとだな。奇跡を起こす存在というより、なんとなくスゴイ事ができた過去の人を総じて、ひとくくりに神と呼んでいるとでも言うか・・・」
「お前さんがいた世界だと、若者が〇〇ってマジ神!とか言うだろ?アレに近い」
妙に生しい例えに誠弥は笑っていいものか迷う。
「貴方の世界よりも宝石の様な魂が生まれる確率の高い世界ではあります。昇華してもおかしくはない程に輝く魂が生まれたこともあります。
ですが、逞しいと言ってしまえばそれまでなのですが、困難に陥った時に目に見えぬ何かに縋るという選択が何故か生まれないのですよ。
新たな神が生まれやすい環境をと、私達が少々前向きな考えになるように世界を作ってしまったのが原因だと思うのですが」
世界を作った?
「そうです。私達が作った世界です。
ですが、他にも多くの世界を作ったにも関わらず、どの世界にも『神』に至る存在が生まれなかったのです。
先程から何度も言っている通り、高純度の魂が昇華してその世界の『神』という存在になるのですが、その際に必要なものがもう1つあるのです。
私達は何かを成したということがそれ程重要ではないと言いました。『今は』と前置きして」
今は必要ではないが、これから必要となる。ということか。
「はい。強い輝きを放つ高純度の魂に、その世界の人々からの誠意を纏わせることで魂の昇華へと至るのです。
1人2人の敬意を受けるのは難しくありません。しかし、世界の人々から敬意を集めるのは並大抵のことではありません。
何か世界にとって大きなことを成し遂げなければ」
だから『今は』だったのか。
「これから貴方には送られた世界で英雄となってもらう必要があります。
人々の脅威となる存在を討ち果たしてもいい。
少しずつでも多くの人に救いの手を差し伸べるでもいい。
多くの人が感謝するような物を生み出してもいい。
大国を治め、多くの人に永き平和を享受させてもいい。
貴方が思うまま、その名の通り『あまねく者に対し誠実であれ』その心持ちで生きていく限り、成果は後から勝手についてくるでしょう」
女神様はそう言ってほほ笑んだ。
「ですが私は・・・」
普通のどこにでもいるような人間だ。
「大丈夫。私たちが少しだけ力を与えます」
女神様は掌を上に向けて私に差し出した。
そこには輝く光の玉?のようなモノがあった。
「これは能力の種。貴方が望む力を与えてくれます。
どんな力かはまだ決まっていません。貴方がこの先で何かを乗り越えようとした時、そのままではどうにもならないと感じた場合に力を与えてくれるでしょう」
そう言い終えた後、光の玉はフワフワと飛んできて私の体に入り込んだ。
すると、他の神的な存在からも光の玉が飛び出して、同じように私の体に取り込まれた。
「餞別じゃ」
私から見れば輪郭も分からない光の塊であったが、なんだか笑顔を向けてくれた気がした。
「そうそう。ひとつ言い忘れていましたが、貴方の死に関することです」
女神様が少し緊張した面持ちで話しかけてきた。
異世界モノのテンプレであれば私の死はイレギュラーで死ぬべき運命ではなかったとかかな?
「いいえ。貴方の死は運命でした」
そうですか。
「予定外だったのは貴方の最期の願い。というか想い?
死を前にしてなお他人を慮る心根がより魂の輝きを増幅させたのですが・・・」
何故だろう。女神様が言い淀んでいる。
「貴方に分かりやすく説明するために俗な言い方をしますと、貴方に与えた能力の種9つだけでは特典が足りないと言いますが・・・」
なるほど。分かりやすい。
「これまで何人もの魂を送ってきましたが初めての事です」
女神様は分かりやすく困惑されいていた。
「そうですね。何か貴方の望みは何かないです?私達に可能であれば叶えてあげられます」
そう言われて私は考えてみた。
望みか・・・。思えば私は何かに強く執着することもなかったし、日々誠実にという両親の願いに沿った生き方をしてきたけれど、我を出すことは少なかったように思う。
急に望みと言われても思い浮かぶのは、やはり家族のことだ。
突然、家族が亡くなる。それも殺害という方法で。ショックは大きいだろう。
私の家族は両親と私と弟と妹の5人家族。
私と弟妹はすでに自立して親元を離れている。両親は今も実家で暮らしている。
両親もいい歳だ。願わくば、家族には私の死を悼んだまま余生を過ごすようなことにはなってほしくない。
「分かりました。家族の安寧ですね。承りましたよ。
ですが、願いとしてはまだ足りないですね。他には?」
まだ足りないか。
そう思っていた私の脳裏にふと浮かんだのは事件で亡くなった彼女の顔だった。
まだ18歳という若さで未来を奪われた女性。
女神様から聞いた話では、男が彼女を殺した理由は部屋を譲れという要求を断られたからという、想像通りの理不尽なものだった。
神的な存在は亡くなった人の魂は輪廻転生を繰り返すと言っていた。
ならば、次の生では平穏で幸せな生を過ごしてほしいと思う。
「貴方という人は・・・」
女神様は呆れたのかな?困った子を見るような目で私を見ている。
「いいでしょう。貴方の思い浮かべた女性の輪廻先での平穏と幸せな生。了承しました。
でもまだ足りませんよ」
まだか、結構あるんだな。というかもう考えるのが大変になってきた。
「でしたら、残りは彼女と同じように若くして生を全うできずに亡くなってしまった者達の中から、足りるようになるまでの人数でいいですので次の生を平穏で幸せな生を全う出来るようにしてください」
その答えに、女神さまは今度はとても嬉しそうに微笑んだ。
「了承しました。ですがそれだと人数が多すぎてあちらの世界への干渉が強すぎですね。
ですので、新しい生はこちらの世界で過ごすようにしましょう。そしてそれぞれに能力の種を1つ付けて。
それならば何とかなりそうです」
「はい。ありがとうございます」
私の希望以上の答えに私は深々と頭を下げた。
「では貴方にも新しい生を」
そう言った女神様を前に私は一つだけ言っておきたい望みを思い出した。
「すみません。新しい生でも私の今の名前、『誠弥』という名前にすることはできませんか?
両親からもらったこの名前には強い思い入れがありまして・・・」
さすがに図々しかっただろうか。
しかし、女神様は静かに頷いてくれた。
「それくらいらな大丈夫ですよ。といいますが、こちらもそのつもりでしたからね。
それ位、魂と名前の結びつきというのは大事なのですよ」
なるほど、古来より名は『真名』という程に簡単に他人には明かさない大事なものであったな。
「それともう一つ貴方に言っておくことがあります。
それは前世の記憶に関することです。
新しい生となった時、貴方の前世の記憶は1部を除いて無くなります。
残るのは生まれ変わったという認識。それとぼんやりとですが貴方の前世での行い。今の貴方を形成するのに必要だった経験といったところでしょうか。
私達とのこのやり取りも忘れます」
女神様は少し悲しそうな顔をした。
「分かりました。まだ記憶が残っている身としては怖い部分もありますが・・・」
そこで一つ疑問が浮かぶ。
「そう言えば、新しい生で私の魂に不純物が混ざってしまったらどうなるんですか?高純度の魂で無くなってしまうのでは?」
「いいえ。生まれ変わった貴方の魂は今の魂をそのまま受け継ぎます。
一度完成した魂。そこに不純物が紛れ込むことはありません。
貴方が貴方である限り、むしろ新たな生での過ごし方によっては輝きを増すことでしょう」
貴方が貴方である限り・・・か。
「心配することは無いと思いますよ。貴方が貴方でなくなるというのは魂の形から変わってしまう事を意味します。貴方程の魂が簡単に形を変える事なはいと断言してもいいです」
力強く頷く女神様の姿に私はすごく安心した。
だからだろうか?私の体が光を放ち、その輪郭が神的な存在達と同じように朧気になってきた。
「さぁ加藤誠弥さん。
いえ、セイヤさん。新しい旅路を楽しんでください。
英雄とならなければいけない新たな生ではそれだけはないかもしれませんが、それでも貴方の生がより良いものになりますように」
私が別れ際に見た女神様の姿は胸元で掌を組み、真摯に祈る姿だった。
「行ったか・・・」
セイヤが消えた後に残された1柱が静かに言った。
それに続いて他の者達も声を上げ始める。
「もはや我等ができることは何もない」
「そうじゃな。これまで幾度となく送り込んだ魂達は誰も『神』には至らなかった」
「私達の世界だからそうなのか、私達がいるからそうなのか」
「分からん。もしも、あの魂を持つ彼ですら『神』に至らなければそういうことなのだろう」
その声には多少の諦めが含まれていた。
「世界の管理者たる我等でも祈ることしかできないというのは歯痒いな」
1柱の呟きに、その場にいた皆が頷いたように光が揺れた。
天鬼ぷるるさんにハマる今日この頃。