表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて神になる君の物語  作者: やがて神になる君の物語
1/3

あまねく者に対して誠実であれ

まぁ、よくある異世界転生ものですよ。

よくあるよくある。うん。

 私の名前は『加藤誠弥(かとうせいや)』。今年で45歳になる。

 名前の由来は両親が好きだったという漫画の主人公から読み方だけとったそうだ。

 最初はそのままの文字を使う予定だったが、せめて名前の意味くらいは自分たちで決めて贈りたいという理由から、『あまねく者に対して誠実であれ』という意味の『誠弥』という字が当てられた。

 この話をすると大抵の人は『加藤さんの性格そのままの名前ですよね』と言われた。

 『あまねく者に対して誠実であれ』という両親の願いは成就されたと言っていいだろう。

 とはいえ、まだ人生半ば。この先も両親からもらった名に恥じない生き方をしていきたい。

 そう思っていた矢先、私の人生は唐突に終わる。


 不動産を扱う会社で営業をしていた私が担当していた物件の1つ。

 築20年という少々古めのアパートの1室にて殺人事件が起こった。

 被害者は今年から近くの大学に通うために部屋を借りた18歳の

女性で、大学に通わせてくれるために苦労した両親を少しでも楽にしてあげたいと、セキュリティが多少低くても家賃の安い部屋を希望していた優しい娘だった。

 アパートを管理していた会社に一報が入り担当である私が現場に向かうと、身元確認のためにということで警察の人に亡くなった彼女の写真を見せられた。

 契約の際に知った彼女の名前と実家の連絡先を教え、私は現場を後にした。 

 見せられた写真に写った彼女の首には、紐のようなもので絞められたのだろうか?

 その首には擦過痕が生々しく残っていたのを思い出して眉をひそめた。

 私は独身であったが、もし結婚していたら娘でもおかしくはない年齢の女性。

 そんな気持ちもあってか親身になっていただけに、彼女の死には私も少なからずのショックを感じていたらしい。

 出社して1時間も経たない中での出来事にもかかわらず、私は立っているのがやっとな程に疲れ果てていた。

 犯人はまだ逃走中。

 引っ越してきたばかりの女性に縁者は少なく、通り魔的な犯行であれば容疑者を絞り込むのは難しいと刑事らしき人が漏らしていたのが帰り際に聞こえた。


 憂鬱な気分で会社に戻った私は、警察から伝えてよいと言われた部分を上司に報告して早退を申し出た。正直、仕事をする気分にはなれなかったからだ。

 上司は察してくれて手続きは後でいいからと帰宅を促してくれた。本当に良い上司に恵まれて私は運がいいと多少気分が上向いたはずだ。

 廊下に出た私の耳に『事故物件増えちゃいましたねぇ』という若手の声さえ聞こえなければ・・・。

 すぐに戻って殴ってやりたかったが、亡くなったのは私の身内でもなんでもない。1ヶ月に初めて会って部屋を貸しただけの客にすぎない。

 そう言い聞かせて会社を出た。


 真っすぐ家に帰る。そのはずだったが、何故か私は事件のあったアパートに足を向けた。

 遠目にではあるが現場にはまだ警察関係者が出入りしているのが伺えた。事件を知った報道関係者らしき者が写真を撮っていたり、刑事らしき人を囲んで取材しているのが見えた。

 昼にはニュースとなって流れるだろう。

 ここにいたところで何もできない私は来た道を戻ることにする。

 その時に振り向いた私の視界に一人の男がいた。

 年齢は30代位で、髪もボサボサで無精ひげを伸ばしたままのその顔に私は見覚えがあった。

 彼女と同じ部屋を希望していた男だった。

 わずかな差で彼女が契約するに至ったのだが、男は諦めきれなかったのか部屋を譲ってくれるように彼女に迫っていた。

 本来、顧客同士が出会うことなどない。

 私はその時に気が付くべきだったのだ。男は彼女につきまとっていたという事に。

 そこまで男が必死だった理由は分からないが、きっと今回の事件はソレが発端だったのだと私は瞬間的に悟った。

 

 男は私に気づいた様子もなく、事件の起きたアパートを見ていた。

 自分が希望した部屋で事件が起きたから見に来ただけかもしれない。

 恐れだろうか?それとも後悔だろうか?男がその横顔に渋面を浮かべた瞬間、何の根拠も証拠もないのに『彼女を殺したのはコイツだ』

 

 私はそう確信した。

 

 私は静かに、そして気づかれないように男に近づき声をかけた。


「先日お会いした方ですよね?」


 突然声をかけられた男は驚いて私に振り向いた。その距離は2メートルもない。その驚き方から本当に周りが見えていなかったのだろう。

 逃げたら追いかけよう。そう思っていた私であったが、男の行動は私の思いもよらぬものであった。こちらに向かってきたのだ。

 突然の行動に動きの止まった私に男はぶつかってきた。

 瞬間。私の腹部に痛みが走った。その原因に視線を落とすと、男は包丁で私を刺していた。

 警察がいる現場の近くだから凶器を持っているはずがない。そんな思い込みもあったのかもしれない。

 直感による私の行動は、思わぬ形で私自身へと牙をむくことになった。

 それでも!


『コイツを逃がしてはいけない!』


 そう決断した私は抜けていく力を振り絞って男にしがみついた。

 そして近くにる人達に聞こえるように『人殺しだぁ!!』と叫んだ。

 私の声が聞こえたのだろう。現場の人垣が一斉にこちらに振り向き、警官数名と刑事らしき人がこちらへと駆け出した。

 男は私から逃れようとしたのか包丁で何度も私の腹部を刺した。

 

 薄れゆく意識の中で、男が警察に確保されたのを見届けながら私の意識は失われていった。

 最後に私の脳裏に浮かんだのは、部屋の契約が決まった時に彼女が言った『ありがとうございます』という言葉と嬉しそうな笑顔だった。


 うら若き女性が殺害される痛ましい事件と、その現場近くで起きた殺人事件。そして、その両方の犯人が逮捕されたというニュースは少し世間を賑わして忘れ去られていった。

まぁ、これは忘れないために書きました。

書きたいものを書くと筆が早いですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ