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裏佐倉城にて

佐倉編その2です。

この感覚は僕には直ぐにわかる。いつものアレだ。

でも、久しぶりの様な気もするな。

考えてみたら、青木さんが茶店に閉じ込められていたのを見つけた、あの松戸の自然公園以来か。

日付けから考えると、それほど昔では無いけどなぁ。あれからの毎日が濃過ぎたよ。


ただ、いつもと違う点が一つある。

僕はいつも自らの意思で祠に入っていくのだけど、この様に''多動的''に祠に吸い込まれた事は今まで無かった。

でも、この若干のエレベーターが動き出して、魂が地面に抜けて行く様な感触は間違いなく時間と空間を飛び越える、いつものだ。


「ふいぃぃぃ。何?今の?」


青木さんは顔をブルブル震わせて、精神の安定を図った様だけど、君は犬か?

 

「わざと大袈裟に動くの。目が覚めるから!」

そうですか。

「殿?ここってもしかして……。」

僕に付いて祠に入った経験のある玉は、今の現象に耐性と想像が付いているらしい。

「そうだね。間違いなく祠だ。場所と時間・時代はわからないけど、この様子じゃ現代では無いと思う。」


僕らが今、立っている場所は和室。

見える限り8畳敷の部屋が数部屋、襖で仕切られているけど、その襖は全て開け放たれて、隣の部屋がずっと見えている。

外には廻り廊下が張り巡らされている様子も見える。


畳の上という事で、僕らは靴を脱いだ。

違和感が気持ち悪いから。


「随分と立派なお屋敷ねぇ。天井も高いし、襖絵って言うの?綺麗だし。武家屋敷ってやつなのかなぁ。」


時代劇知識しか無いけど、と先に断って青木さんが知見を述べてくれた。


「あの、水晶玉の中の、浅葱の家みたいですね。」


玉は最近、浅葱の家も掃除をしているので、単純比較が出来る様だ。おまけに、ついさっきまで、博物館で勉強していたからねぇ。


「浅葱の家は、江戸末期の名主の家だから、小さな武家屋敷と言っていいけど、ここは一部屋一部屋が広いなぁ。」

おそらく、必要な時は襖を外して大広間になるのだろう。

ここから見える、一番奥の部屋には台座がある。僕の様な渾名が殿ではなく、本物の殿様が座る上座なんだろうなぁ。



廻り廊下に立ってみる。

外は白砂が敷かれ、端に枯山水を模したであろう松の木と岩を配置した植え込みが見える。


外は夜。

漆喰壁が庭を塞ぎ、若干の閉塞感。

灯りは、薄雲が僅かに月明かりを隠した月光のみ。

だけど、満ちた月は、この閉じた世界を照らすには充分だ。


音はしない。

風が吹けば木立の揺れる音もするんだろうけど、その風も今は無し。

虫も鳴かず、鳥も鳴かず。

さして寒くも無いものの、ただ空気だけは清冽に張り詰めている空間だ。


昔も言ったけれど、祠は人の想いの澱みが溜まった場所。決して安全な空間とは言い切れない。

ケッタイな時間旅行能力の他は、ただの無職な僕には、大して戦う力なんか無いんだよ。

迂闊に変な祠に入って、“中に居たモノ“から慌てて逃げ出したのも一度や二度では無いんだ。


刀?

たしかに僕の右腕には刀が宿っているけど、はっきり言って使い方が分からん。

浅葱の力の野郎が勝手にアレコレしやがるけど、こっちとしたらいい迷惑だ。


「菊地さん。ここ、何処だと思います?なんか誰も居なさそうですけれど。」


そう、この屋敷には人影を感じない。

本物の武家屋敷ならば、例え夜でも人の気配はする筈。


多分、青木さん本人も逃げたくて仕方ないだろうけど、気丈にも玉の手をしっかり握っていてくれている。

もっとも当の玉は、もの珍しいそうに、周りをキョロキョロしてるけど。


さて、僕ですが。実はある程度の予想は立ててありました。なので、2人に解説します。


「先ず第一に、この廻り廊下が障子やガラス戸で囲まれていない。これだけで明治以前だと推測出来る。第二に、あそこを見なさい。」


僕が指差した方向。

そこには、月明かりに照らされた白亜の建物が見えた。唐破風や千鳥破風といった飾りが一切ない“お城“が漆喰壁の上から顔だけ覗いている。

さっき画像検索しておいたデータが、そのままスマホに残っていた。


いわゆる「御三階」と言われる櫓だろう。江戸時代、天守閣の新築は基本的に許されなかった。平和な時代に城を新築することなど、幕府に対して謀叛の儀ありと見做されるからね。(勿論、松前城など国防上の理由から新築を許可されるのは皆無では無い)

御三階は、天守閣の代わりに建築が許された天守閣の簡易版。城に威厳が無ければ、それはそれで、為政者は困るので。


以上の事から、この祠の時代設定は、明治以前江戸時代中期以降と推測出来る。


そして、別の方向を指差す。

そこには金箔を貼っていない金閣寺の様な、四角四角した建物が見える。

「おそらく、静勝軒という建物だろう。昔、太田道灌という武将が徳川家康入府以前の江戸城内に建てた櫓とされているんだ。その櫓は老中の城、すなわち佐倉城に移築されているんだ。さっき、解体途中の古写真があったろ。」

黙って聞いている2人が頷く。


つまり。


「ここは江戸時代の佐倉城の本丸御殿だろう。誰もいない理由はわからない。」


『その理由を教えてやろうか?』

誰もいない筈の城内に、いや、僕の耳だけに随分と聞き覚えのある声が響いた。


★ ★ ★


『こんな所まで来るのか。お主は破天荒じゃのう。』

別に来たくて来たんじゃないですよ。どちらかと言うと巻き込まれた方でして。


はい。我が家でお馴染み、荼枳尼天様です。 

この神様、本当に気軽に顕現するな。


『ここは儂の時空じゃて、お主らが勝手に儂んちに上がり込んでるんじゃよ。』

なんと、それは大変失礼しました。

『良い良い。儂とお主の仲じゃ。いつものあそこで美味しいものを食べさせてくれりゃあ何もない。』



「結局、こうなるか。」

「でも、神様がいらっしゃってホッとしました。祠には良くないモノもいるって聞いてましたから。」

「それは…ぞっとしないね。」

「玉や佳奈さんが閉じ込められただけで済んだのは、運が良かっただけなんだとか。」

「うわぁ。」



それにしても、在りし日の佐倉城が家ですか。また随分と広い家ですね。

『別に掃除の必要もないし、狐が居れば何処でも瞬間移動出来るからのう。』

その御狐様に頭をグイグイ押し付けられているんですが。

はいはい。撫で撫でしますよ。


『そうそう、巫女っ子と浅葱の娘に教えておけ。無闇に出歩くなと。』

玉はいつも僕と一緒ですけど、あのお姉さんの方とは別に生活をしてるんですが。まさか、彼女も束縛しろと?

『何故、お主らがここに呼ばれたと思う。因みに儂は呼んどらん。』

僕自身、僕の力を把握し切れてないんですよ。わかるはずが有りません。

えにしじゃよ。えにしえにしでも因縁の類いのものじゃな。』

聖域の気安そうな神様とは違い、少し真面目な口調になったので、僕も背筋を糺します。


『巫女っ子の生まれ育ちは知らんが、あの子は将門との縁が深すぎる。それに随分と長期に渡って儂を想い、儂に祈りを捧げて来たが、それも過ぎた。それ故に、将門と儂の双方と繋がっておる。ここは儂の家じゃが、同時にこの辺りは、もう少し東の土地は将門とも縁深い場所でもある。将門に捕まったら、あの子はまた囚われるぞ。それも、何の救いもない怨み辛みの場所で。』


………。



『浅葱の娘もそうじゃ。浅葱の血は生物の念が惹かれやすい。念に、ではないぞ。念が、じゃ。あやつ、囚われた事があるのではないか?』

…たしかに。

玉も青木さんも、祠に囚われていたところを僕が助けた様なものだ。


『2人はお主ほど力を持ち合わせていない。お主の見ていないところで、それが起こった時、お主にはあやつらが何処にいるか、わかるまい。』


………。



『そこで、その時の対処法をお主に授けようぞ。』


作者は歴史マニアなので、佐倉城址にも国立民俗博物館にも何度も訪れています。

作品中に舞台にする時はわざわざ取材に行くわけで無し(なろう小説に取材費なんかあるわけありません)、記憶だけで執筆するわけですが、暇と気が向けば車を走らせる事もあります。


この時もたまたま博物館の特別展を見学に行ったのですが、城址を散策するついでにスマホで写真を撮りました。


その中で本丸を写した一枚にですが。

木陰の隙間が、立派な尻尾を見せて耳を立てた横向きの白狐に見える写真が撮れました。

拡大すると何が何だかわからなくなる偶然の造形の様ですが、たまたまこの作品を執筆中に写った白狐の不思議っぽい写真は、何だか嬉しくなりました。

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