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再会

前回の告白を読み返すと、冒頭の彼女は精一杯の強がりをしていたようです。

それを即座に見抜いてコントに落とし込んだ「僕」はなんなんだ。

「やあ!」

玄関の扉を開けると、

茶髪とまではいかないけれど、明るい色に染めた(抜いた?)長い髪をポニーテールに結い上げて、ブラウンのスーツを着た女性が立っていた。しゅたっと右手を額に当てて敬礼してる。


「……。」

玄関を閉めた。


「ちょっとちょっと。久しぶりに逢えたのに、それはないでしょ!」

すかさず扉を開けて飛び込んできたのは、あぁまぁ多分、あの人なんだろう。


「こんにちは、佳奈さん。」

様子を見に来た玉が、何事もなかった様に頭を下げる。

「こんにちは玉ちゃん。アニキ。」

あれから北春日部で別れて大体4日くらい経ったかな。我が家を訪れた人は、ちゃんとおとなびた北春日部在住のJK、の4年後の自称OLさんだった。


「……僕は、住所まで教えた覚えはないんだけど?」

「これ見て。玉ちゃんから来たメールに添付されてる写真。」

青木さんが僕に押し付けてきたスマホには、

台地から南の低地を見下ろす風景と、このアパートの全景がそれぞれ写っていた。 

んんと。僅かだけど総武線が写ってるぞ。

…土地勘が有れば、この2枚で場所を特定できるな。

うちは表札もちゃんと掛けてるし。

“殿と玉の愛の巣です“って表題がついてる。

文の内容はともかく、ここまでスマホを使いこなしている1,000年前の鎌倉人も珍しい。

僕はそっちに驚愕だよ。 

あとで個人情報保護についても教えないと。



★ ★ ★


「アニキ達んちって最初は松戸だと思ったのよね。ずすう。」


粗茶ですが、と玉が淹れたお茶を啜るOLさん。

いや、まだ若い女性だし、お茶でなくても冷蔵庫にドリンク類は沢山冷えてるよ?


「殿のお茶はとっても美味しいから、先ずお茶でやっつけるのですよ。」

「………。やっつけられたわ。何これ、美味しい!ペットボトルのお茶とは全然違うじゃないの!」

「まぁ、お値段的にちょっとお高いお茶だから。」

「やば、お茶飲むだけにここに通っていい?」

「勿論です。」

「こらこら。」


★ ★ ★


「今の私の職場は青砥なの。アニキ、………う~ん、なんかわざとらしいから辞めやめ。菊地さんでいいや。菊地さんで。コホン、では、菊地!」

ほら来た。

「予想通りだ。」

「何故呼び捨てがわかったし?」

「ノリの良い娘な事は、玉の訳の分からないメールにすぐさま被せてたから知ってた。」

「むむ。」

「天下一の鈍感男に悟られるようじゃ、佳奈さんの修行もまだまだじゃなぁ、です。」

「むむむ。」

「おっほっほ。」

なんだコイツら。


「だからね、家からも伊勢崎線で通えたけど、矢切からなら京成で一本だから、独立してこっちに越してたの。ほら、あの時の、武蔵野線の高架があって、東武野田線から少し離れた千葉県って言ってたのを手掛かりにしてね。で、条件に合う所は南流山から西船橋の間だろうと。そして何箇所か回って絞り込んだのが松戸の自然公園。実際行ってみたけど、いかにもそれっぽいじゃない。あそこ。だったらあの近辺に居るかも知れないから。こっちに越して来たの。街歩いてたら偶然でも逢えるかも知れないし。」 


100点満点。この人、恐ろしい洞察力の持ち主だ。


「で、私はこっちの沿線に引越して、毎日菊地さんや玉ちゃんにメールを送ってたの。たったあれだけの時間。あれだけの経験なんだけどね。私は絶対に忘れちゃいけない経験だってわかってたから。また逢えるって知ってたから。浅葱の家の人間としてね。でもね、いつも宛先不明で繋がらなかった。だから本当にメールが繋がった時は驚いて声あげちゃった。思わず涙ぐんちゃった。」

「玉もね、君のメールを、黙って何度も何度も読み返してたよ。」  

「だって、あの時は玉もどうなるのかわからなかったんです。殿に捨てられたらどうしようって。でも、佳奈さんのメールに玉の名前があった事で、なんか嬉しくなってしまったんです。殿の他に、玉の名前を呼んでくれる人がいるんだって、わぁムギュ。」

「どうしよう、玉ちゃんが愛おしくてたまんないの。」 


じたばた。


「大丈夫?あの時から、玉ちゃんは元気かな?菊地さんに酷い目に遭わされてないかなって、ずっと心配してたの。」

「なんてぇ心配をしてんだよ。」


じたばた。


「だって、玉ちゃん、こんなにちっちゃくて可愛いのに。」


じたばた、じ、た、ばた。


「青木さん?玉を抱きしめるのはいいけど、だんだん抵抗が弱まって来てるよ。」


じ、た、ば、た、…


「わぁごめん。やっと逢えたからテンション上がりすぎたぁ。」

「ぷはぁ、堕とされるかと思いました。」

どうもこの人は、抱きつき癖がある様だ。

思い出してみれば、最初にあった時も、玉に抱きついていたな。

「だって、玉ちゃん健気で良い娘なんだもん。」

うん。それには同意するよ。



★ ★ ★


「許しません。」


2DKの僕の部屋は、家具もあんまり無く(むしろもう玉の荷物の方が多いかも)、居間にしている洋間の隣は和室の寝室になっている訳だけど。

ベッドが一つで枕が二つな状況を見て、青木さんの顔が怒りと羞恥で真っ赤になって叱り出した。


「玉ちゃんの歳を考えてみなさい。手を出していい歳じゃないでしょ!」

「殿が手を出してくれるなら、玉は喜んで受け入れますけどね。」

「黙らっしゃい!助平少女!」

「玉の歳なら、そろそろお嫁入りの歳ですし。」

「うっ。」


まぁね。玉の時代だと、青木さんの歳はもう行き遅れだし。


「行き遅れ言うなぁ。私はまだ22歳だぁ!」

「だから僕は何も言ってない。」


内緒だけど、玉のお母さん(巫女装束に宿っているらしい)は玉が僕のところに嫁入りする事に反対してない。言うならば黙認している状態だろう。(喋らないけど)

でなければ、「人の娘を持って行くなら、ちゃんと働け。」とうるさい事言わないだろうし。

なんだろう。この変な文章は。

でも、嘘は何一つ付いてないんだよね。



「それにね。ほら。」

玉は僕にしがみついて来る。当然、現代では玉は僕に触れない。次元が違う様に、玉の手は僕の着ている服には触れても、僕の身体をすり抜けるだけだ。

「言っただろ。僕と玉に間違えは起きないんだ。物理的にね。」

「一緒に寝てても腕枕一つして貰えないし、ただ殿の匂いに包まれて寝てるだけです。」

「そうだっけか。そうだったね。…不思議ねぇ。私と玉ちゃんは抱き合えるのに。」

「だから、その辺の会話は、私達の間では自然と禁句なのです。」

…最初の頃は、もっと際どい会話もしたけどね。

だからといって、言ってどうなる事でもないし。


「そか。菊地さんも大変だね。こんな可愛い女の子と一緒に暮らしてるのに禁欲生活かぁ。」

「君、昼間っから何を言い出してんの?」

「だから、殿の貞操は佳奈さんに譲るのです。」

「どうしよっかなぁ。」

「お前ら一体なんなんだ。」

なんて一番歳上の僕が照れにゃならんのだ。


コソコソ

「殿って、玉が真っ直ぐに好意をぶつけても全く照れてくんないんです。だから佳奈さんと二人掛りなら勝てそうです。」

コソコソ

「考えてみたら、私と菊地さんってそんなに付き合いある人じゃないのに、こんな逆セクハラみたいな事していいのかな?」

コソコソ

「いーです。」


「いくないぞ。」


★ ★ ★



つまりは、どうしても玉に逢いたくなった青木さんのサプライズとして遊びに来た、という事みたい。

まぁ、大雑把に場所のアタリを付ければ、アパートの外見がわかっているし、Google先生で探せばいいしね。


「………そういうことにしておこうか。」

「佳奈さん。漢字が使えなくなるくらい残念なのはわかるけど、殿ってそういう人だから。先は長いですよ。」

「その先は、何処に続いているのやら。」

「玉達と一緒なら素敵ですねぇ。」

「………全く、この娘は…。ぎゅううう!」

「わぷ!」


オノマトペが好きな姉妹だねぇ。



ついでだから、という事で聖域にご招待。

玉にとっては自分の家(縄張り)を紹介出来て嬉しいのか、青木さんを引っ張ってお社にすっ飛んで行った。ちゃっかり巫女装束を持って来たので、つまりそういう事だろう。

なので僕はお社には近づかない様に、茶店の外回りを歩く。


うん。玉が鎌倉時代初期の時代から採取して来た一輪草は、お社と茶店の間に隙間なく群れ咲いている。

池は、と。

…メダカだけじゃ無いな。タナゴの様な魚も増えているし、黒いトカゲが水面に顔だけ出している。

イモリ、だろうなぁ。

適度に作った凝灰岩の水路の表面には苔が生えて、その苔にたかっているのは、川海老かな。

昨日だか一昨日だかに作った池には、もう生態系が出来上がって来てるし。 


まぁ、それはそれで。

どうせなんでもありな空間だし。


裏に周る。畑はどうなっているかなぁ?

…こうなっていましたか。トマトもキャベツも普通に収穫出来ますな。

 

「ナイフ!」

ってこら、収穫の道具としてナイフを出して見れば

ボンナイフ、黄色いカッターナイフ、肥後守。

まともなナイフが出てこない。

…そう言えば、僕の人生で文房具以外のナイフって使った事無かった。

普通に都会育ちで自然にあまり親しんで来なかった文系男子には、たしかに縁のない道具だよね。

「…包丁…。」

肥後守でも良かったのだけど、使い慣れていない刃物よりは、台所に転がっているいつもの包丁の方が、使い勝手が良さそうだ。

「あ、ハサミ!」

トマトの採取にはハサミの方が良さそう。

真っ赤に熟れて、パンパンに膨らんだ実の根元からパチンと切り取った。

塩が欲しいなぁ。でも先ずは、袖で実を拭いてガブリと一口。


「ああああ、殿ズルいです!玉に内緒で食べる気でしたね!」

「へぇ、美味しそうなトマトですね。」


……巫女が増えた…。


青木佳奈さんは、コンプレックスの塊の人ですが、素直で一生懸命な人なので、無意識のうちに他人を動かす人です。

玉はそんな青木さんが居てくれる事で大きく成長していきます。


ついでに物語も大きく動き始めます。

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