玉の朝
原本にない、玉さん書き足し回です。
ぱち。
今日もしっかり目が覚めました。
殿のお家にお世話になるようになって、玉はぐっすり眠れるようになりました。
もうご飯の心配をしなくても大丈夫。
お母さんとは、殿が絶対に逢わせてくれる。
お母さんの件は玉が信用するしか有りませんが、でも玉は殿を信じています。
勿論、お母さんと逢えないと寂しいですよ。
玉がお慕いしている殿に触ることが出来ませんから、甘えられませんもん。
だから玉は殿のお世話をするんです。
殿に喜んで頂けるように。
寝所の壁には「時計」が掛かっています。
今の時刻が何刻かが一目でわかります、
数字だけが光る「でじたる」だそうです。
暗闇でも光っているので、わざわざ電気をつける必要もありません。
時計は5:14になってます。
冬が来るこの季節だと、まだお日様は昇っていませんね。
でも目が覚めちゃいましたから、横でお休みになっている殿を起こさないように寝台から降ります。
殿が風邪を召さないようにお布団を掛け直して、殿の寝顔をじっくりと鑑賞します。
うふふ。
素敵なお顔ですね。
さてと。
ぱじゃまという寝巻きから、じゃーじという普段着に着替えまして。その上から割烹着を羽織るのが、玉の部屋着です。
ええと、今日は燃えないごみの日ですね。
とは言っても、殿のお部屋はお買い物に行かない限りごみって出ないんですよねぇ。
だってお野菜は泥のついた新鮮な物が冷蔵庫から採れ放題だし、お肉やお魚はたっぱぁやお皿にどん!って乗ってますから。
大体は、ちょっとお買い物した品のびにぃる袋とか、緩衝材のぷちぷちさんくらいしかだけだし。
因みにぷちぷちさんは玉が嵌まってしまい、日がな一日ぷちぷち遊んでます。
それでもごみを溜めるのは、よくありませんね。
あまり早く出しちゃうと良くないって殿に教わったので、お日様が昇ってから出します。
なので今は玄関に放置。
さて。
音量を絞っててれびをつけると、東京の真っ暗な景色に今日の天気が浮かびました。
ふむふむ、午後からにわか雨ですか。
洗濯物は、と。
下着と上着くらいですか。
だったら今日は、ぱんつくらいにして、厚手の上着は明日にしましょう。
天気予報では、明日は晴れるそうですから。
洗濯機を回すのは8時から。
お隣さんの睡眠を邪魔しちゃいけないとは殿の言い付けですけど、多分一番邪魔されたく無いのは殿ですね。
玉は殿の事ならなんでも知ってますよ。
さて、お婆ちゃんが来るのにもまだ時間があります。
お掃除しましょう。お掃除。
もっぷにお湯をつけて、よぉく絞りまして、厨房の板の間と玄関の板の間を吹きました。
足拭きまっとはつっぱり棒で干しましょう。
布巾で厨房の卓膳と居間のがらすてぇぶるを水拭き(お湯拭き)して、居間の絨毯は白いコロコロを転がします。
不思議ですねえ、なんで毎日コロコロしてるのに、紙に付く髪の毛とか埃とか減らないんでしょうか?
あとは殿がお休みになっている寝所だけです。
寝所は畳の部屋て、らぐもあるので、箒と雑巾とコロコロが必要になります。
大変なので、後回し後回し。
さて、お婆ちゃんが来るまでしばらくありますね。
お茶でも淹れて一休みしましょう。
★ ★ ★
6時になりました。
寝所に入って雨戸を開けます。
玉の家にも雨戸はありました。
でも板戸で重いし開ける時にガラガラうるさいし、戸袋の中で更に大きな音がするので、寝坊助玉はびっくりして飛び起きます。
そうするとお母さんがくすくす笑いながら
「朝ですよ。」
って朝一番の挨拶をしてくれるのです。
口の中でぐにゃぐにゃ「おはようございます」って挨拶した玉は、お母さんが作るおみおつけが香ってくるまで二度寝したものです。
殿のお部屋の雨戸には小さな車輪が付いていて軽いですし、寝坊助さんの殿が目を覚ます事はありません。
ただ雨の日は何故か敏感で、玉より先に起きてごみ捨てをしてくれます。
不思議です。
今日は曇りなので当然起きません。
玉は割烹着を脱いで庭に出ます。
毎日抜いても抜いても増える雑草を毟りながら、小さなしゃべるで土を耕します。
「おはよう玉ちゃん。精が出るわね。」
「あ、お婆ちゃん。おはようございます!」
「はい、おはよう。……これ、一輪草ね。春の花だけど…咲いてるわねぇ。」
「おじさんが連れて行ってくれた所で摘んだんですよ。可愛いですよね。」
「…ハウス栽培でもしてるのかな?こんな野草を?まぁいいか。玉ちゃん、このトンネルを張替えましょう。せっかくお花が見えているんだから、もっと透明なビニールを持ってくるわ。」
「え?」
「大丈夫。うちの倉庫にいくらでも肥やしになってるから。ちょっと待っててねぇ。」
「あ、あ、あ。」
来て早々、お婆ちゃんは帰って行っちゃいました。
お婆ちゃんちは農家をされていたとかで、玉に色々な園芸道具を分けてくれるのですが。
なんだか慌ただしい方ですね。
「おはよ、玉ちゃん。」
「あ、菅原さん。おはようございます。」
お着物のお腹を捲ってぽりぽり掻いてるのは、お隣の菅原さんです。
おへそが丸見えですよ。
役場にお勤めになられている方で、玉に話しかけてくれる大切なご近所さんです。
今朝はお庭まで出て来てくれました。
「あぁ、昨日洗濯物を取込み忘れただけだよ。」
なるほど、土間の物干し竿にいくつか干したままです。
あらあら、ぱんつやぶらじゃぁも干しっぱなしじゃないですか。
「夕べ呑んで帰っちゃったのが失敗だったなぁ。また洗い直さないと。…隣の無職はまだ寝てんのか?」
「さっき顔だけ窓から見せてくれましたから、お顔を洗って朝ご飯作ってると思います。」
「アレにちゃんとご飯食べさせてもらってるか?」
「おじさんのご飯は美味しいんですよ。大家さんも時々食べてます。」
「店子の家で朝飯たかる大家ってなんなんだ?」
「そのくらい美味しいんです。」
「そっか。なら、なら良いんだ。」
まったく。
菅原さんは殿に対して厳しくないですか?
………
「この海苔、美味しいわね。」
「うちの実家から取り寄せた九州の海苔ですよ。」
「なんだろう。厚みがあるのにしんなりして、海苔の良い匂いが口の中に広がるの。」
「納豆も美味しいですよ。玉はこの家に来て納豆が大好きになりました。」
「ご飯も美味しいのね。こんな甘いお米長年農業やってたけど食べたことないわぁ。」
「お粗末さまです。」
菅原さんにこの光景を見せてあげたいですねぇ。
お婆ちゃんが玉と一緒に食卓に座ってワクワクしてる光景を。
★ ★ ★
ご飯を終えて食休み。
ご飯が作れない玉は食器を洗って、殿に冷たいお茶を淹れます。と言ってもぺっとぼとるの黒ううろん茶をこっぷに移すだけですけど。
殿の足元で主従とも、ほえほえしてます。
ほえほえ。
「殿。今日の予定はありますか?」
「特にないなぁ。水晶の畑を少し広げますかね。」
「それじゃ、お社に行くの、その時で。」
「御神酒と榊を取り換えなさいね。」
「はぁい。」
という事で、今日も一日が始まりました。
そして今日も何もしない一日になりそうです。
さて次回からやっと物語が動きます。
いや、少しずつ素直さと少女らしさを取り戻していく玉と、いつまで経っても何も変わらない僕ののんびり話は執筆していて楽しかったのですが、とにかく話が進まないw
でもそのチンタラ編が一区切り付く段階で例によって玉さんが
「ここまでの殿との生活をまとめたいです!」
って言い始めやがりまして。
本来なら起きてから寝るまでの丸一日を描写する予定でしたが余計なゲストが乱入してくるので、朝ご飯までで。
そこの玉さん。ぶーぶー言わないの!




