ソーセージ
初期の玉さんが全て現れた回です。
…玉の野郎が昼間っから長風呂なので、僕は巫女装束に延々とお説教をされましたよ。えぇえぇ。
終いには巫女装束だけが立ち上がって、僕に正座をさせる始末。最後の最後は、巫女装束を着た女性が透けて見えた気がしたし。
「ふーやれやれ。良いお湯でした。」
「……それで玉さんはこれからお昼だというのに、何故パジャマを着て寝る準備なんですかね。」
「………?何故玉はパジャマを着ているんですか?」
「知らんがな。」
「なんかお社をお掃除して適度に疲れて、お風呂入って、気持ちよくなったら、あぁ寝ようっとって決めてました。まだ玉はお昼ごはんを食べてません。大変ですね。」
睡眠欲が食欲を抑え込もうとして失敗した瞬間を見ちゃった。
★ ★ ★
んでっと。
今日のお昼なんだけど、さっき巫女装束が立ち上がって手を振ったり、腰に両手を当てて踏ん反り返ったりする姿(頭の中では玉のお母さんの、働け!働け!ってお説教がリフレインしてたんだけど)を見ながら、なんと無しに考えていた事を実行に移そう。
それはね。だんだんお母さんのお説教が盛り上がっていった時、中身は見えなかったけど、装束が膨らんでいたんだよ。まるで、見えない誰かが着ていた様に。
そのまん丸に広がった袖口を見ていて僕が考えた事は。
その穴から、何かちゅるんって飛び出したら面白そうだな。美味しそうだなぁ。
例えば心太とか。
例えば腸詰ソーセージとか。
~私がお説教してんたから、余計な事考えな…~
あ、玉がお風呂から上がって来た。
パタ。崩れ落ちる巫女衣装。すかさず畳む僕。
「良いお湯でしたぁ~。」
でかした玉。君がお風呂に入っていた時に何があったか、そして何気なナイスプレーは内緒だけど。
という事だった訳ですな。
そういえば、ドイツだかのソーセージの国内製造は、最寄りの鉄道の沿線・実籾が元祖だった筈。
んじゃ、やりますか。ソーセージ作り。
「やりましょう。」
「玉は僕が何を作ろうとしているのか、わかるんですか?」
「わからないけど、殿のする事に間違いはありませんから。美味しいですから。」
「…僕が食べ物を作らないとしたら、どうするんですか?」
「その時は玉がお説教します。殿!正座です。」
親娘に揃って正座させられる日は、色々嫌だなぁ。
★ ★ ★
先ずはネットでレシピを調べないと。
だってソーセージとか、普通買ってくる物じゃん?
肉屋で売ってる“さら“の手作りソーセージを見かけた事あるけど、「今日のおかずはウインナー炒めにしよう。いや、ちょっとお高いソーセージにしようか。塩で茹でて、噛むとパリッと音する奴。あれをレタスで巻いて粒マスタードで食べようっと。」とか、「そもそも、ウインナーとソーセージの違いって何?」ってもんじゃない?ソーセージの立ち位置って。
「ソーセージが総体的な名称で、ウインナーはその中で細い物を指す様ですね。」
…僕が頭でしか考えていない事を、自分のスマホでいち早く調べてくれた巫女さん。
「でもソーセージってなんですか?」
そもそもソーセージを知らなかった1,000年前の巫女さん。
ー腸詰ソーセージー
材料:豚挽肉、羊の腸(こんなの売ってんだ)、主要調味料
1.挽肉に塩胡椒を振り、よく練り、揉み解します
2.肉用の絞り袋を使用して、羊腸に挽肉を入れます
3.羊腸の端を捻り結んで出来上がり
4.茹でます、灰汁を丁寧に取ると雑味が無くなります
5.焼きます、フライパンや鉄板もいいけど、今日は七輪で焼こう(というか、何故かそこに置いてあった。僕は別に欲しいとか思ってないぞう。なのに炭まで完備しているじゃないか)
6.レタスを敷いて、その上でソーセージの上半分に切れ目を入れたら完成、肉汁が腸詰の切れ目の中でジュクジュク言っているのが見えるなぁ
7.僕はいつもの粒マスタード、味覚がお子様な玉さんには、醤油とケチャップも用意して、と。
その間、玉は糠味噌を掻き回していました。
朝漬けたばかりの胡瓜が、多少浅めだとはいえ良く漬かっているらしく
「玉の糠床は順調に(コリコリ)育ってますね(むしゃむしゃ)。」
つまみ食いのオノマトペが途中から「むしゃむしゃ」になったのは気になるなぁ。
「これがそおせえじかぁ。いただきますです。」
さっきウインナーとソーセージの違いを教えてくれた時は、ちゃんと片仮名で発音出来てなのになぁ。
「ご馳走様です。」
はや。
「お代わりです。」
…僕のお皿からお代わりを取ってくかなぁ。堂々と。
「殿は自分の分を焼きなさい。」
「…ソーセージの材料は“四つ脚“ですけど、大丈夫なんだ。」
「殿のお料理ですよ!脚が4本あろうが8本あろうが、美味しいに決まってます。信じてます。愛してます。」
さりげなく告白してくる玉はどうでもいいとして。
「さりげなくなく、ガッツリ告白したのに軽く流されました。」
8本脚の生き物ねぇ。
素揚げにして食べる人もいるそうだけど。
じゅーじゅー。
「けちゃっぷ味も美味しいですね。」
じゅーじゅー。
「このますたあども美味しいですね。」
じゅーじゅー。
…僕は何本焼いたらいいのかな?
★ ★ ★
「ウヒィ。」
また例によってどすこいと化した玉はほっといて
「また、殿にほっとかれました。」
せめて後片付けくらいはして欲しいなぁ。
まぁ、そろそろ湯沸かし器のお湯が気持ち良くなる季節だけど。つけ置き洗いする食器の泡切れも気持ちいいけど。…炭はどうしたらいいんだろう。
「玉は太り過ぎて、お皿に手が届きませんから。」
ドリフのお相撲コントですか?
肉襦袢じゃなくて、本物のお肉ですか?
「見ますか?脱ぎましょうか?」
「デブ玉は見たくありません。」
「見ろよ。」
どんな脱ぎたがり巫女だ。
さて、お昼が終わって午後は二つばかりやらねばならない事がある。別にそんなに肩に力を入れる程では無いのだけど。
先ずは茶店に茶器を揃えないとね。
タブレットを手に取ると、
「茶釜」
を検索する。ふむふむ、通販サイトで5万円も出せば簡易なワンセット手に入りそうだ。
あ、本当に分福茶釜を模した茶釜が売っている。
可愛い。
「そうです。玉は可愛いのです。」
「早くどすこい状態から元に戻りなさい。」
風炉釜・五徳。言い出したらキリが無いのだけど、先ずはこの2点で形はつくね。
今の、どこかの金物屋(なんかもう懐かしい響きだね)で買った笛付きの薬缶を釜に掛けている状態の茶店の絵は美しくない。大体、普段は湯沸かしポットがメインなんだから、すっかり使わなくなった薬缶をそのまま聖域に運んで行った訳で。
出来れば、南部鉄で全部揃えてみようかね。
別に買わなくとも念ずれば手に入るし。
そしてもう一つ。
僕は、今度は水晶を手に取る。
以前にあの茶店の作りから、大体の建築時期を推測した事があった。
それを“確定“させたい。
水晶玉を両手で抱え込む様に包み、目を閉じる。
イメージしろ。
おそらくは鎌倉初期。という事は、この辺は千葉常胤支配下の、どちらかと言えば田舎町、かな。
いやいや、木更津から北上して来た古代東海道が目の前の崖下を通っていた筈だ。
そしてこの街は国府がある(あった)街だ。
国分寺に見学に行った帰り、僕は玉と出逢えた。
つまり、当時としては街道筋、それも国府があり、地名からして「市」が立っていた。そんな街。
万葉集に名を残す、当時からの名刹も残る古い、そんな街。
玉が慌てて僕のシャツの裾を掴んで来た。
何故なら、僕の手の中にある水晶玉が光り輝き始めているからだ。目を閉じていても、その輝きは瞼を通して伝わってくる。
久しぶりの長時間移動。
僕と玉は、およそ800年の旅に出た。
とはいえ、玉にとって一番大切な殿の動向には隙なく注目している女の子が玉さんなので、「僕」が動き出すといち早く反応する女の子なんです。




