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線香花火

続いて玉さん回想書き足し回です。

日枝神社。

鳥居の額にそう書かれています。

周りを見回すと、果樹園を営む農家さんばかりなので、この村の鎮守様ですね。多分。


夜のどらいぶで殿が連れて来て下さったところです。

お車を少し離れた有料駐車場に停めて、がちゃごちゃ荷物を抱えて到着です。 


目の前の道路は夜なのに車がひっきりなしに通ります。

自転車もです。

歩いてる人も途切れません。

ばすって言う大きな車の停留所になっているそうですよ。


「この辺の鎮守社だし、古くからの集会所になっていたのかもね。」

「なるほど。」

やっぱし。


殿は歴史に関する知識が豊富な方です。

殿とお散歩をしていて、道幅に立つ古い道祖神様に玉が興味を持つと、あれこれ眺めてその道祖神様の歴史的な背景を推測してくれます。

付近の地名や字名からも、ここが昔(と言っても、玉が生きていた時代よりずっと後ですが)何が建っていたのか、例えば小さなお城とかですね。或いは、どんな地形だったのか、お考えを教えてくれます。

それは玉にとっては、いずれ捨てなくちゃいけない知識になるかも知れませんが、絶対に忘れたく無い知識です。


「んじゃ、ちょいと離れてくれるかな?」

「はい。」


殿はお手持ちの鞄から水晶玉を取り出します。

「よっこらせっと。」

殿が水晶玉を掲げると、ぷにょんって感じで空気感としか言いようの無い「圧」が通り過ぎました。

そうすると、あら不思議。

日枝神社の社殿と、荼枳尼天様のお社が重なって見えてます。

そして、外を走っている筈の車の音も、人の足音も話し声も聞こえなくなりました。

でも、何かの虫、興梠か何かでしょうか、じぃじぃって鳴き声だけ薄く聞こえますね。


「聖域を具現化してみた。変に出し過ぎると現実世界に定着してしまう可能性があるけど、数時間程度なら問題ないだろう。」

「……今更、殿が何をなさろうと、玉は驚きませんけどね。」

ただ呆れるだけです。


持って来たばけつに、ぺっとぼとるのお水をじゃばじゃば入れましょう。花火は火を使うので、消火用です。


じゃばじゃば。


「えぇと。音は外に漏れないと思うけど、近所の家の窓が明るいからな。近所迷惑にならない花火は、と。」

玉が選んだ花火せっとは、売り場で一番安かった奴です。

小さなてれびで見た様な、大きな花火が空でぱぱんばんぱん!どぉんどぉんな物でも、長い棒から火花がしゅうしゅう出る物でもなく、殿が選んで下さった物は、深緑のこよりを捻った物です。


「玉、上の方を持ってて。」

「はい。」


ちゃっかまんって細長い火打石をかちっと鳴らすと、先っぽから小さな火が出ました。

なるほど、これは便利ですね。


花火の先っぽに小さな火の玉が出来ます。

その火の玉から、小さな彼岸花の様な火花がぱちぱち咲きました。


「綺麗…。」

「あまりぐりっちゃら動かすと、花火落ちちゃうぞ。」


殿、遅いです。

殿に見せようと思って花火をひょいと持ち上げたら落ちちゃいました。


「それじゃ、もう1本。一緒に点けてどちらの花火が長持ちするか競争だ。」

「むむ、負けられませんね。」

「よし行くぞ。いっせのせ。」

「うふふ。綺麗ですね。」



この時、玉は改めて想いました。

改めて気が付きました。


玉は殿をお慕いしています。


玉にはお父さんの思い出がありません。

いつも忙しそうに朝から晩まで働いている姿は覚えていますが。

きちんとお話し出来る前に戦で亡くなってしまいました。

それに、お友達も女の子ばかりでしたから、男性とお話しすることもありませんでした。

だから殿が初めて親しくして頂いている殿方なのです。


最初は、殿に捨てられない様にはしゃいでいました。

暗い女の子よりは明るい女の子の方がいいと思ったから。


でも直ぐに気が付きました。

玉が実はずっと怯えている事を。

玉が実はずっと泣いている事を。

それを殿が気が付いている事を。


他の殿方は存じ上げませんが、うちの殿は優しくて暖かくて、何よりも尊敬出来る方だという事を。


あぁ、殿と手を繋ぎたいなぁ。

殿に頭を撫で撫でして欲しいなあ。

殿と触れ合いたいなぁ。


でも今の玉では殿に触る事が出来ません。 

だから、せめて近寄りましょう。

一緒に並んで、この小さな花火を一緒に見ましょう。

例えそれだけでも、今の玉にはこの上なく幸せなのです。


「ね、殿。あのお空にどぉんどぉんって打ち上がる花火も見たいです。」

「あれは夏の行事だしなぁ。」

「来年になっちゃいますか…。」

「玉は来年まで僕の家に居るのかい?」

「あぁそっか。出来ればお母さんに逢って早く玉の家に帰らないとです。」

「あぁそっか。今年の夏に僕が玉を連れていけば良いのか。この辺なら、江戸川や手賀沼で花火大会があった筈だ。」

「本当ですか?」

「あぁ、後で家に帰ってから調べよう。」

「うふふ、約束ですよ、殿。そして線香花火は玉が勝ちました。」

「これ、繊細なんだよ。花火の出来も、花火を楽しむ人の所作も。」

「まだちょっと花火残ってますから、2回戦行きましょう。」

「はいはい。」



玉さんは素直な女の子ですが、世間知らずで自分の事もまだ理解出来ていない女の子です。


「玉はこの夜に、殿への気持ちが整理出来て固まったんですよ。なのに殿目線でしか書いてくれないのでりくえすとしたんです。ぷんぷんです。」


はいはい。 

2回分の書き足し回と、本編の続きを本日まとめてアップしました。

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