玉ひとり
原本には無い書き足し回です。
気がついたら、玉は知らないお家の知らない部屋に居ました。
誰も居る気配は無いですね。
少し歩き回ってみましょう。
厨房があって、板の間敷きのお部屋があって、わ、こっちのお部屋には畳です。
玉は、お母さんと御領主様のお家にお仕事でお邪魔した時に見た事あります。
でもその時は、御領主様が謁見されるお部屋に一畳だけ御領主様のお座りになる場所として置かれていただけです。
でもこちらは、ひのふのみ、六畳ですね。
凄いです。長者様でしょうか。
こっちはなんでしょう。
なんか白い箱があります。
籠には男性物のお召し物?かな、多分洗濯物ですね。
うん。
こちらの部屋のタライに水が張ってあるし、こっちの透き通った台の上には、掌大の小さな箒があります。
でしたら、玉はお掃除とお洗濯をしましょう。
だってですね。
玉にはわかったんです。
このお屋敷は、さっきの殿方のお屋敷です。
殿方の匂いがします。
殿方の温かさがわかります。
そして。
ここは玉が長い間過ごしていた、神様の場所です。
なんだかさっぱりわからないけど、それだけは確かです。
そんな気配がするんです。
お洗濯をしました。
どうしよう。干す場所が有りません。
お屋敷は長屋になっていて、壁で区切られて領地を示している様ですが、両隣は洗濯物を干す棒や縄があって、実際に洗濯物が風でそよそよ揺れてます。
でもこちらのお庭は、何も有りません。
あれ?この籠なんでしょう。
「ぱっちん。」
へぇ、何かを挟む道具ですね。(後で洗濯挟みって教えて頂きました)
そうだ。
お庭の端っこが網になってます。
あそこに挟んじゃいましょう。
「わぁ。」
上り口に置いてあった履き物の大きい事。
そして。
なんて眺めの良い場所でしょう。
緩やかな風が心地よいですね。
「くすくすくす。」
なんか玉は笑いながら、お洗濯物を干し終えました。
干し終わったら、お掃除です。
お掃除と言っても塵一つ落ちてませんけど。
「ざっざっざっ。」
それでも小さな小さな箒で部屋のを履きました。
案の定塵も芥もありませんが、なんか気持ちいいですね。
でもちょっと腰が痛いです。
「とんとん。」
とんとん。腰を叩きます。
あ、帰ってこられた様ですよ。
扉がガチャガチャ言ってますから。
お出迎えしなければ。
えぇと。
にっこり笑って。
「お帰りなさいまし。」
★ ★ ★
翌朝。
殿はまだお休みになっていますが、玉は見つけました。
見つけましたよ。
「市川市ごみ収集日のお知らせ」
厨房の床に転がっていただけですけどね。
どうやら殿は引越して来たばかりで、まだ色々な事が片付いていない様です。
玄関に大きな袋が置きっぱなしなんです。
その内の一つが「燃えるごみ」の袋ですね。
寝所に置いてある、なんだか数字がごちゃごちゃ動く箱(後で聞いたら時計って言うんですって。今が何刻がわかる絡繰だそうです)に水曜日って書いてありました。
なので今日は燃えるごみの日。
ゴミ捨て場はお屋敷の敷地の入り口にあります。
このくらいなら殿から離れても大丈夫かな?
玉は殿やお部屋から離れると、身体の具合が悪くなってしまいます。
「ん?君は誰だ?このアパートの人か?」
なんか全身真っ黒な人に話しかけられました。
手に燃えるごみの袋を持っています。
「はい。昨日から菊地さんのお家でお世話になっています。名前は玉って言います。」
「菊地…あぁ隣の無職か。」
「です?」
ちょっと不信気に玉をじろじろ上から下まで見てるこの人は、後に玉と仲良しになるお隣の菅原さん。
仕方ないですね。
殿は玉と一緒に暮らすって、多分誰にも言って無いでしょうし。
玉がちょっとだけ困っていると、知らないお婆さんに話しかけられました。
「あら。貴女が玉ちゃんね。」
「あれ、大家さん。この娘ご存知なんですか?」
大家さん?どちら様でしょうか。
「昨日ね、菊地さんから連絡されたんですよ。姪を預かる事になったけど、問題ないかって?」
あ、そうでした。玉は殿の姪になったんでした。
「うちは独身専用ではないし、女子専用でもないからお好きにどうぞって言いましたよ。あと、うちの姪はこちらに知り合いがまだ1人もいないから、見かけたら声をかけてくださいって。姪っ子想いの優しい叔父さんね、菊地さんって。」
そういえば夕べ、何か棒に向かって殿がお話ししてました。
あれって、大家さんとお話ししてたんですね。
それに、玉の事を心配してくださいました。
殿はやっぱり優しい方です。
「昨日の今日であれだけど、何か困った事ない?なんでも相談に乗るわよ。」
「そうだな。ならば私も手を貸そうか。」
大家さんと菅原さんは優しいですね。
でも困った事ですか。
洗濯物干しは殿に相談すべき事ですし。ええと。
「あ、一個ありました。」
「なぁに?」
大家さんは女の子みたいですね。
首を傾げて玉の言葉を待ってくれています。
「お庭…。」
「庭?」
「うちのお庭はお隣さんと違って何もありません。」
そうなんです。
両隣は木や手入れされた草などで緑になっていますが、殿のお庭はただ土で茶色いだけです。
「あぁ、前に居た人がワーカーホリック気味の営業マンだったんだ。庭の手入れなんかしてる暇ないから人工芝をざっと敷いて終わりにしてたな。」
「あらまぁ、女性でしたよね。」
「朝早く出て行って夜遅く帰って来てた。休みの日は昼過ぎまで寝てた。身体壊すぞって注意してたよ。」
わぁかぁほりっくがなんなのか玉にはわかりませんけど、大変な暮らしをしていた人だったようですね。
うちの殿は、陽が昇ってきたのにまだ寝てますし。
「玉ちゃん。うちの部屋の庭は自由にしていい契約だから、自分で一から育てるの。」
「お庭を育てる、ですか?」
「出て行く時に現状復帰してくれればなんでもOK。池を作っても、お二階に迷惑をかけなければ木を植えてもいいわよ。…でも、これからの季節は冬枯れしちゃうから、植える緑は限られちゃうわね。」
「なるほど。」
殿のお家は、もうすぐ秋が終わろうとしてるんですね。
「お婆ちゃんの家に種があるし、そのお庭がどうなっているか、ちょっと見てみましょうか。」
「私の部屋の庭は、除草剤撒いてライトとオブジェを置いてあるだけだが、もし参考になるならいくらでも見てくれ。」
「はい!お願いしますね!」
こうして殿のお庭は、玉とお婆ちゃんの庭になるのでした。
それにしても、寝所のすぐ外でわいわい話してたのに、いつまでも寝てた殿も寝坊助さんですね。
さぁさぁ殿。
お庭を育てますよ。
冬でも緑でいっぱいにしますよ。
原本では、いつまで経っても話が進まないで、とにかくのんびり過ごしている2人の描写がまたしばらく続きます。
そのせいで矛盾などが後々ストーリー展開と生じてしまい、そこら辺は細かく修正することで気にならなくしてありますが、当のキャラクターが気に入らないみたいです。
今回は、玉が最初に言った我儘は「花火」を買ってもらう事でしたが、「その前にも玉は殿におねだりしています!」だそうなので、本人にそのおねだりの顛末を語ってもらいました。
そしたら肝心の花火が収まり切らなくなったので、次回も書き足し回です。




