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おからビスケット

相変わらず食べてばかりです。

「あちちちち。」   

「別に急かしやしないから、ゆっくり飲みなさい。おやつは食べる?」

「食べたいけど、寝る前ですよね。あ、でもお出掛けするんだっけ。んーと。食べまーす。」


一瞬、ほんの一瞬躊躇を見せた玉だけど、昼間ほえほえ言っていたお煎餅を思い出したのだろう。

直ぐ堕ちた。


ーおからビスケットー


おからと小麦粉で打った生地に、細かく砕いたドライフルーツとマカダミアナッツを練り込みます。ブランデーにじゃぶじゃぶ浸けて、ブランデーがヒタヒタに生地に吸収されたらオーブンで焼きます。

おからビスケットは大抵硬いお菓子だけど、アルコールをオーブンの熱で飛ばしたブランデーの柔らかさが残って、ビスケットもちょうどいい柔らかさになります。

オーブンから出したビスケットにパウダーシュガーをサラサラかけたら出来上がり。



さっきの事。

いやさね。焼肉の下処理をしてた時、豆腐の事を考えていたのさ。

豆腐ステーキも良いし、明日の朝ご飯の味噌汁はどうしようとか、ね。

そしたら、豆腐と一緒におからが大量に取れたんだ。

産地は冷蔵庫の上から2番目の棚。

おからって豆腐の粕みたいなものでしょ。

僕が知っているのは、「卯の花」くらいだし。


思いついた事がある。一つ確認してみようか。

「おーい、玉さんや。」

「はんへふか?」

さっきまで焼肉BBQをぱくぱく言いながらぱくぱく食べていたぱくぱく巫女さんは、西郷どん化して隣の部屋で丸まっている。

「玉はおからが好きかぁ?」

「たくさん食べました。」

うん?

「玉の時代はみんなそうですよ。だから、白いお米を食べさせてくれる殿が、玉は大好きなんです。」

1,000年前の巫女さんを餌付けたとか、国麻呂さんが聞いたら何て言うのやら。


そして、今のやり取りで仮説が一つ立った。

食材が無限に湧き出てくるって言うのは、僕の「浅葱の力」で確定させられるとして、玉が来てからはその食材が増えた。

2人分だから当然だし、それは僕によるコントロールだと思っていた。

けど、「おから」はそもそも考えてもいない。

大体、僕の貧弱な食体験では食べた事が殆どない。たまに居酒屋のお通しや幕の内弁当の隅っこで見かけた程度だろう。好きも嫌いもない。そのくらい食べない料理で、豆腐を作る副産物として豆乳と一緒に出来るもの。子供の頃、近所にあった豆腐屋では捨てていたって事だけ。


なのに、これだけおからが冷蔵庫に入っていると言う事は、僕以外の誰かがおからを欲しがった。

僕以外の誰かとは、当然玉の事だろう。

しかし思い出せ。あの時、玉はテレビで見て食べたくなった野菜を産地ごとメモを取って僕に渡している。

だけど、おからは関係ない。食べたいとは一言も言ってないし、そもそもおからと言った事すらない筈だ。


…これだけおからおから考えた事は、生まれて初めてだなぁ。


結論。先送り。

いや、一応考えはまとまっているのだけど、正面切って真面目に答えるには少し恥ずかしい。


★ ★ ★



おからビスケットと練乳入りホットミルク(太るぞ)を平らげた玉は僕を見上げる。

僕がソファに座って、玉は座椅子に座っているので、必然的に2人はそうなる。

なんとなく玉の顔を見下ろす。

玉は顔を赤くして下を向く。

可愛い。可愛いけど、今はやる事がある。


「あ、せっかく玉が照れたんだから、殿も照れ返すべきでしょ!」

「勝手に新しい日本語を作らないの。」

すっかり慣れた軽口をかわしながら、僕はテーブルの上の水晶玉を手に取った。


「ゴクリ。何が始まるのでしょうか。」

「実験だよ。実験。」


僕は水晶玉の中に手を突っ込んだ。

するすると、中に吸い込まれていく。

慌てて玉が後に着いてきた。

変な日本語だけど、描写に何一つ間違えはない。

僕と玉は、水晶玉の中に吸い込まれて行った。

正確を記そう。

吸い込まれたのではなく、僕の意志で僕と玉は水晶玉の中に入って行った。


見覚えのある場所だ。

片方は、僕の出した掃除道具で玉が掃除していたら、崩れかけていた建物が勝手に新築同然になった、荼枳尼天を祀る神社。

もう片方には、青木さんが閉じ込められていた茶店。

僕がスレッジハンマーで壊した壁は、何故か元通りになっていた。

「玉の、玉のお社です!帰って来ました!帰って来れました!」

ん?

「玉はここに帰って来たかったの?」

「んーと、そうですねぇ。」

お社の中を覗きながら、頭をコリコリ描きながらの玉に質問を返された。

「殿が昔暮らされていたお屋敷って、今どうなって増す?」

「妹夫婦にあげて、建て替えも済んで、もう無いよ。」

「もし、その昔から暮らしていたお屋敷に、ほんの少しの間でも戻れるとしたら、どうしますか?」

「…あぁ、そう言う事ね。」 

あそこは僕と、僕の妹と、僕の両親の思い出が残る大切なこと場所だった。だから妹は、自分の子供が出来るギリギリまで古い家に住んでいたし、取り壊す時は、わざわざ僕に連絡をくれた。お互いに大人になっても、子供の頃からの思い出が詰まった家は出来る事ならばずっと維持していたい。でも、人にも物にも寿命がある。でも。

「水晶玉に仕舞われた聖域は、いつも、いつまでもここにある。持ち歩ける。」

「あとね。」

玉がとんでもない爆弾を爆発させた。

「お母さん。いつの間にか玉のそばに居なくなったお母さん。お母さんに逢える。」

お母さん?死別じゃなかったの?


★ ★ ★


「玉のお母さんはある日突然居なくなったんです。だから玉はお母さんの後を継いで巫女様になったんです。」

ええと。これは始末に困る案件では?

「とりあえず泣かないから大丈夫ですよ。お母さんが居なくなった時にいっぱい泣きました。泣いて泣いて、涙が全然出なくなるまで泣きました。そして玉はお母さんの真似を始めました。多分、玉は泣きすぎて泣きかたを忘れちゃいました。」

「………。」

「でも、殿にはバレちゃってました。玉が泣いてるのを。多分、可奈さんにもバレてます。」 

本当に、勘のいい、頭のいい子だよ。

「だから玉は笑います。変な事も意地汚い事もエッチな事もいっぱい言います。だって、だって。殿がまた玉が泣けるようにしてくれる事を玉は知っていますから。ね?」

「ね?じゃねぇよ!」


「んで、何始める気ですか?」

湿っぽくさせるだけさせて、本人は境内の掃除を始めたよ。

「ここは玉の聖域だから、竹箒くらい出せるのですよ。」

「僕が準備した様な気もするけど。」

「殿のものは、玉のものですから。」

「それで、玉のものは?」

「当然、玉のものです。」

にっこり微笑むうちのジャイアン。

「あのな。」

がっくり肩を落とす僕だけど、今の会話は僕の考えを補強する材料になった。


「あぁもう!茶店の方の雑草を抜かないと、お社の方まで侵入されちゃいます。殿、除草剤ください。」

「買った事も持った事もないから無理だよ。一回外に出て買いに行かないと。」

「殿が役に立ちません。」

わぁ怖い。って言うか、神社の境内には除草剤を撒いて良いのかしらね。

「玉はパジャマ姿で何を始め様と言うんですか?」

「え?」

改めて自分の服装を見直してキョロキョロしている。

「あと、裸足。帰ったらまたお風呂に入りなさい。」

「…殿?なんでサンダルを履いているんですか?」

「準備してましたから。」

「聞いてません!」

「言ってません。」


ギャーギャー抗議している玉をほったらかして。

「ほったらかされました。」

僕は茶店の方にやって来た。

真壁作りの茶店をスマホで撮影する。

この店、僕の狙いが正しければ…。


そして、それは正しかった。


でも少しずつ物語は進んで行きます。

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