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焼肉

章題通り、焼肉を食べるだけの回です。

一個しかない水晶玉。

別に何処かに落ちて転がって行った訳でない。

僕が聞いた音は、「かちん」だけ。

ボトっとか、ゴロゴロとか、そんな物音は聞いてない。うちの床間はそこだけ板張りになっているし、水晶は持っているだけで腕が疲れてくる重さだ。床に落ちたならばそれなりの音がして、然るべきだろう。


僕は一つの確信を持って水晶玉を覗き込んだ。



案の定、一つの水晶玉の中に、お社と茶店が並んでいた。



★ ★ ★


肉が食いたいなぁ。

ニンニクを芽と一緒に、鉄板でガッツリ炒めた肉が。

豚でも牛でも、脂身がたっぷり付いている肉が食いたい。鷄だったら、サブイボがたっぷり浮かんだ皮付きで。

大体、僕の好みの一つに鶏皮があったし。


「もしもし?」


フライパンと違って鉄板で焼くと同じ肉でも風味が違うんだよなぁ。

あれ、どうしてだろう。熱伝導効率の違いか、空気に触れる面積が増えるからなのか。


「とーのー?」


野菜もたっぷり焼くのだ。

玉葱、ピーマン、アスパラガス、とうもろこし。

トマトは焼くと美味しいんだよなぁ。あと焼く野菜ならば茄子を忘れてはいけない。


「でやっ!」

「わぁ。」

玉に飛び蹴りされた。それもわざわざ座布団を間に挟むという器用な事されて。


「なんですか?玉?」

「少しは構って。」

「はい?」

「さっきから殿は考え事してて私に構ってくれません。」

昼寝したふりしてたからでしょ。」

「…殿、なんか玉に隠してますね。」

「うん。」

「隠している事を隠そうともしませんでした。」

「僕が隠している事は床間に行けばわかります。」

「それは隠しているとは言わないんじゃ…。」

すててててと玉が歩いて行くのを見送ると、さて鉄板プレートの準備をば。

「なんじゃこりゃああああ!」

「玉?ご近所に迷惑でしょ。あと、雨戸閉めといて。」

「はーい。」

素直でいい娘だ。



★ ★ ★


ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく。

「…玉?少しは野菜も食べなさい。」

「食べてますよ。椎茸とぴぃまん。これ味付けは塩だけですよねぇ。たれとかつけないのに、なんでこんなに美味しいのぱくぱくぱくぱく。茄子って焼くだけでこんなに美味しいですぱくぱくぱくぱく。」


ぱくぱく言いながらぱくぱく食べる人初めて見ました。だけどその通り。

肉はどうせA5とか東京なんとかのブランド肉を食べてもわからないから、適当に取り寄せましたが(それだけで冷蔵庫に適当に入ってるからね)野菜は色々調べて、これだ!というものを取り寄せました。玉が。


さっきテレビで見ていた野菜特集(ローティーンな少女が見る番組とは思えないけど)で興味を持ったものをメモして僕に渡してきた訳ですよ。


ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく。

じゅうじゅうじゅうじゅう。

ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく。


なんだろう。この無意味な労働。

焼くそばから焼くそばから、玉に食べられてしまう。


あぁ、僕の好きな脂身が。鶏皮が。

「こんな脂っこいもの、殿には不健康です。ぱくぱくぱくぱく。」 

「いや、成長期の玉の身体の方が心配なんだけど。」

「大丈夫です。1,000年経っても玉は成長しませんでした。」


何その悲しい告白。


「でも!玉は佳奈さんに負ける訳にはいかないんです!」

「何2人して争ってるの?」

「主におっぱいの大きさで。」 


何やってんの?この2人。


「佳奈さんは4年経ってるけど、私は1日しか経ってません。ズルいです。佳奈さんズルい。」

「今さっき話した事と猛烈に矛盾してますが。」

「女の意地です!ぱくぱくぱくぱく。」

意味がわからない。

「…本音は?」

「ご飯が美味しいので、お腹いっぱい食べたいです。」

色気なんだか、食い気なんだか。

「大丈夫です。殿の分は私が焼きます。」


★ ★ ★


満腹になった玉は、隣の部屋で絨毯に埋もれています。


「ぐるじいでず。」


僕は結局、1人焼肉になりましたとさ。じゅうじゅう。茄子には麺つゆを垂らします。

ニンニクは湯掻いたらバター焼きで、芽はタレ焼きで。

あ、冷蔵庫に恵比寿ビールが冷えてる。

偉いぞ浅葱の力。


★ ★ ★



「これはどういう状態なんでしょうか。」

風呂から上がったピンクのパジャマ着てるまん丸巫女は元の少女に縮むと、和室から水晶玉を運んで来た。

「僕は玉の身体の仕組みが知りたい。」

「いやん。」

次に丸くなった時は、爪楊枝でお尻を刺してみよう。

「色気のない話でした。」


玉が水晶玉を覗く。改めて、お社と茶店が入っている事を確認して溜息をついた。 

「殿が平静でしたから、玉も落ち着いて驚きましたけど。もしかしたら菅原さんちまて走って驚いたかも知れません。」

「菅原さんはさっき、黒いラベルのビールのロング缶6本セットを抱えてニコニコしてたから、邪魔しちゃいけませんよ。」

「菅原さんもグビ姐でしたか。」

「大人は大変なんです。お酒くらい自由に飲ませなさい。」

「殿はあまり呑みませんね。」

「無職なので大変じゃないから。」

「働け。」 


午後は殆ど絨毯のに真ん中で寝転がっていたペチャパイ巫女がやっと退いて風呂に入っている間に、ソファセットを6時間ぶりに定位置に戻せた。やれやれ。


僕に右から相対する形に座椅子を置く事で定位置を決めた玉が、僕が戻したガラステーブルに頬っぺたをつける姿で、水晶を眺めている。


「この件について、殿に、何かお考えってありますか?」

「ん?無いよ。」

「昼間から何か考えてたじゃないですか。」

「水晶玉以外の事ね。」

「普通は、この不可思議な水晶玉を考えませんかね。」

「そもそも水晶玉の存在自体が非物理的なんですから、あり得ない力が働いたというしか無いじゃないですか。そしてそのあり得ない力を僕は知っています。」

「…浅葱の力…。」

「だね。」

じゅるるるる。新茶を一口。


「それが水晶なんですか?」

「わかりません。」

「は?」

「浅葱の力と言いながら、僕がしてきたのは無目的な時間旅行。旅先で誰か知り合いに会った事も助けた事も有りません。

「祠は別ですよ。祠自体も浅葱の力とどう関連があるのかはわかりません。

「ただ、僕には祠に入る力があったというだけです。そして誰かに会った事はありますが、“玉の様に“誰かと縁が出来た事も、水晶玉として形になる事も初めてなんです。

「だから、多分何かが始まった事だけは事実なんでしょう。でも、その先は何が待つか分かりません。玉と青木さんが今後関係してくるかも分かりません。だから、僕は決めました。」

「はい。」

「何も決めない事をです。」

「…ダメ人間を宣言された気がします。」


★ ★ ★


玉はホットミルクを作ってます。レンジで。

「ミルクパンというものが我が家にありますよ。」

「玉は死にたくありません。」


どういう返事だ。あと死ねるのか?

蜂蜜と砂糖、どっちにしようかなぁなどと、もうすぐ就寝だぞと色々ツッコミたくなる言葉をぶつぶつ言っているけど、言わぬが仏って奴だね。それなりに学習してます。


目の前のテーブルには、玉が置いて行ったままの水晶玉。僕はなんとも無しに手に取ってみた。

2つの水晶が合わさったけど、密度や重さは変わっていないという事なのかな。

まるで、重なっていても手が繋げない、僕と玉みたいだ。


重なる。次元なのか時間なのか。

時間軸が違うから僕と玉は手が繋げない。

でも、玉と青木さんは手を繋げる。

その違いはなんだろう。

性差もある。ゲームみたいに好感度が関係しているのか。いや、いくら玉がコミュニケーションが高いとはいえ、下着屋や薬局の店員さんよりも僕の好感度が低いとは思えないでしょ。玉には告白もされてるし。

それに僕らは家族だから。


好感度。家族。う、う?

あれ?わかっちゃったかも。


そう言う事なのか。


ぴーぴーぴー。

「できたぁ。」


飛び跳ねてホットミルクの完成を祝う少女は、鍋掴みをはめてレンジの中のものを取り出している。

耐熱カップは熱いので、お盆にホットミルクを乗せてヨタヨタ帰ってくる見た目中学生な巫女に言います。


「少し行ってくるけど、一緒に来るか?」

「玉はいつだって殿と一緒ですよ。」

健気な事を言ってくれるな。

「このミルクを飲み終わってからならば。」

玉はいつでも玉だった。

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