帰って行く人
残念ヒロインさん大暴れの回です。
以前(というか昨日の今頃)、玉が居た聖域で広げたキャンピング用品一式をセット。
縁台が有るのは楽だなぁ。
物、特に食材を置くスペースが取れる。
と言ってもまぁ、大した料理はしないのだけど。
取りいだしたるは、叉焼の塊。
前に会社の独身寮に住んでいた頃、寮の近所にあった小さなスーパー。冷凍食品やアイス菓子を置いてなかった割に、厨房があって手作りの惣菜が充実していた店。
売り場が狭いのに、野菜や精肉の種類が豊富で、その分市販品の菓子・飲料・調味料などが1年中毎回全く変わらない、妙に年寄りくさい定番品が少しだけ置いてある、便利なんだか不便なんだか、とりあえず街の商店街によくあるミニスーパー。
そんな店で、僕はよく店手作りのハムやベーコン(大手企業の市販品より、何故かちょっぴり安いけど日持ちしない)を買っていたのだけど、その売り場に並んで置いてあった叉焼だね、これ。表面の焼き加減の色に見覚えがある。
というか、そこの値札シールが付けっぱなし。
…1人で食べきれる大きさじゃないし、値段も比例していた状況なので買った事ない奴。
あれがスチロールパックごと、御出陣あそばれやがった。つうか、そんなに食べたかったのか?僕よ。
これを食べやすい一口サイズに薄切りして、網の上で軽く炙る。
レタスも細かく千切り、叉焼と同じ大きさに整えておく。これは食べた時に、一定の具材だけ口に吸い込まれてしまうのを防ぐため。
肉と野菜を一緒に食べる料理だから、これ。
同時にミニトマトやパプリカを彩りに加える。
ゆで卵をスライス。
お弁当でお馴染みの赤いウインナーは、塩でボイルして、歯応えの残るくらいの大きさにカット。
こちらはキャベツの芯に近い固め厚めの部分だけを切り揃えておく。
コッペパンとクロワッサンの表面が固くなるくらい微妙に網焼きして、叉焼セットをコッペパンに、赤いウインナーセットをクロワッサンに挟んで出来上がり。
飲み物には、ブラックコーヒー。
砂糖・ミルク・練乳・シナモンシュガーを用意してお好きな物で。
あと、冷たいミルク、オレンジジュース、ミネラルウォーターも並べて、とりあえずこれで出来上がりかな。
★ ★ ★
「わぁ。」
玉に制服(の表面を)水拭きされて、濡れタオルで顔と手足を拭った青木さんは、店から出てくるなり歓声を上げてくれた。
「玉?彼女の髪が濡れてるんですけど?」
「たらいにお湯を張ったら、自分から頭を突っ込みだし始めました。」
「髪は女の子の命ですから。」
その先の事は考えなかったのかな。手入れとか。
「やっぱり彼女も少しざ…
「んねんとか言わないで下さい。髪がガシガシとか嫌だっんです。」
「やっぱり今“も“って言った…。」
あ、玉にジト目で睨まれた。
「青木さんと同じ事を、玉の口から聞いた事ありました。」
「しまった。言った覚えがありました。ありまくりました。」
★ ★ ★
「お蕎麦でお腹いっぱいです。」
とかなんとか言ってた覚えがある玉も、とりあえず空腹も特に訴えてはいなかった青木さんも、うまうまごちゃごちゃと美味しそうに、適当な物を適当に挟みましたパンを完食してくれた。あぁ、玉はコーヒーは控えなさい。
「苦いし。要らない。」
もう飲んでやがった。
「あとゆで卵美味しい。」
呪われるとか言ってたのに。
★ ★ ★
「私は普通の高校生ですし、今でも何がなんだかわかりません。」
飯騒動が一息つくと、僕は彼女を質問攻めにする事にした。
「言葉攻め…。」
「違います。」
「玉はそこまで受け入れる覚悟はまだ無いなぁ。」
「おじさん達、普段から何してんですか?」
「この娘の冗談を間に受けないように。」
「ように。」
「はぁ。」
「土曜日に、お昼は帰りに好きなものを買って来なさいとお母さんに言われて2,000円貰いました。」
随分貰えるな。
「お婆ちゃんの具合が良くないからって田舎に行っちゃったので、明日のお昼までです。」
随分少ないな。
「外食したりコンビニでお弁当を買っていたら足りませんけど、ご飯を炊けば良いし、カップ麺とかなら普通に買い置きがあるし。」
「で、地元の駅からマミーマートに行こうとして。」
「何それ?」
「え?マミーマートを知らないんですか?」
両手で変な踊りを踊り始める女子高生。
「地元によくあるスーパーですよ。」
「君の地元ってどこですか?」
「えー?個人情報漏洩ですか?」
この娘、割と面倒くさいタイプかな?
「今、面倒くさいって思ったでしょ。」
「えすぱあかな?」
「なんかわかっちゃいました。おじさんは分かりやすい男の人ですね。女の子にはいい鴨にされてませんですか?」
身に覚えしかないですね。こら、玉もニヤニヤしながら頷かないの。
「私んちは、東武線沿線のどっかです。何線かも今は内緒。」
「因みに、ここに来る前にいた所からは、武蔵野線の高架が見えてました。」
「武蔵野線…高架ですか。」
「ついでに、ここは千葉県だから、東武線は野田線だけ。ここからだとかなり離れますね。」
「え?ここ千葉なんですか?私、埼玉生まれ埼玉育ちですよ?あ、しまった。埼玉の制服を調べたら学校バレちゃうなぁ。」
そんな暇な事しないけどね。
「天下の女子高生の制服をつまらないとか言うなぁ。」
だから面白いけど、面倒くさい娘だよ。
「だから面倒くさい思うなぁ。」
「思っても駄目なんだ。」
「駄目です!」
腰に手を当てて仁王立ちする女子高生、それもさっき会ったばかりの娘に説教をされる無職。
それも異世界で。
なかなか面白い画だと思うけど、話が先に進まないので強引に行こうか。
「君はどうしたいんだ?」
「と言うか、私がどうなっちゃたかを知りたいです。おじさんならばわかるんでしょ?」
「大体はね。でも君の考えを先に聞こうか。」
「マミーマートに行こうとして、いつも曲がる角を曲がったら暗闇だったんです。真っ暗闇でなんにも見えなくて、それでケータイで照らしてみたら、なんかの壁で囲まれたよくわからない場所。でも出口の無い場所なんです。その時にわかりました。何故だかわからないけど、わかったんです。ここは今じゃない。昔だ。って。」
「それで?普通はパニックになると思うんだけど。」
「落ち着いてましたねぇ。誰か助けてくれる事も知ってたので。わかるんじゃ無くて、知っていました。」
「それが、浅葱の力を持つ人だと。」
成る程ね。
それで大体の見当がついた。
「僕が知っている事を先ず教えよう。浅葱の力とは浅葱家の人間が、一種の隔世遺伝で発露する時間旅行能力だ。」
「………。」
「君は恐らく、その浅葱の力に飲み込まれた。僕はまだ浅葱本家に近かったので、浅葱の力の存在を知っていたし信じていたし、自分の発露には対処出来たし、その後も訓練を重ねる事により、ある程度のコントロールができる様になっている。」
「………。」
「でも君には出来なかった。今気がついたのだけど、君みたいに時間の果てに流されて帰れなくなった浅葱もいたんじゃないかな。」
「私は、私は帰ります。帰りたいです。」
「もう4年経っちゃったけどね。」
「っ………。」
「殿…。」
「わかってるよ。安心しなさい。幸いな事に君はいつから来てどこから来たのか、はっきりとわかっている。日付と時間、場所を指定してくれれば送り届けられる。」
「それで、場所を聞いてくれていたんですか。」
「まぁ、そういう役目も帯びているからね。君は多分遠い親戚だし。助ける事を躊躇う必要もないでしょ。」
「…ありがと。おじさ…、いやアニキ。」
「はい?」
「アニキはこの時間の人なんでしょ。」
「あぁまぁね。」
「だとしたら、私はこの時間22歳の筈。JDかOLかわかんないけど、私からしたらおじさんじゃなくてアニキの歳の差だもん。」
年頃のJKがJD言うな。
「むむむ。何故でしょう。玉の女レーダーが作動を始めました。」
「大丈夫よ。というか、玉ちゃんの歳だとアニキ犯罪だと思う。」
あぁそれね。
「玉、こっちにいらっしゃい。」
「なんですか。殿。」
とてとてペタペタ近寄って来る玉の頭を撫でようとして、当然からぶった。
「???なんで?私さっき玉ちゃんに触れたし触られたのに。」
「玉も現代の人間じゃないんだ。君と同じ様に、ここみたいな空間にいた。大体1,000年くらい。」
「です。」
にっこり笑う玉を青木さんは思いっきり抱きしめた。
「こんなに柔らかいのに。こんなにいい子なのに。」
「…玉は…。」
ゆっくりと、そっと、抱きしめられながら玉は青木さんの耳元で静かに言った。
「玉も殿に助けられました。まだ日も浅いですけど、美味しいご飯を沢山食べさせてくれて、色々な事を教えてくれて、優しい人に囲まれてます。殿は、あ、これ私が勝手に殿って呼んでます。殿は、玉の事を一番に考えてくれている事を、玉は知ってます。だからいつか玉を元の時代に、お母さんの所に帰してくれます。だから、それまでの間、玉は玉に出来るお世話をする事に決めました。気がついてますか?殿って、とっても暖かい。温もりの塊の人なんですよ。玉はいつか自分の時代に帰ります。帰れます。だからそれまでは、殿の暖かさをずっと味わっていきます。…殿を口説きたいなら、立派な女性になってくれないと、玉は怒りますよ。あとたった4年しか無いんですよ。」
「なんか最後、私がアニキに嫁入りさせられる勢いなんだけど。」
「あと、殿は処女をお相手した事ないそうですから、きちんと取っとく事をおすすめします。」
「いや、私も男性経験ないけど。というか彼氏をいた事もないけど。何故私がアニキとする事が前提なの?」
ついさっきまでは、玉の割と恥ずかしくも嬉しい本音を聞いてほろっと来かけてたのに。
頑張らないとって思ったのに。
なんで下ネタで締めるの?
君、神職でしょう。
★ ★ ★
場所は東武伊勢崎線の春日部。
時間と日付は、青木さんのケータイの時計から逆算する。
もう一つ。これは力の余禄ではあるけれど、その時間に現生した瞬間を見られない。
ここ重要。
「私んち北春日部だから。千葉まで行きやすいから。4年経ったら行くから、待っててね。玉ちゃん。殿。」
「早く帰ってお風呂に入りなさい。耳の裏が白いですよ。」
「…女の子の微妙な部分を見るなぁ。」
「いや、だったらポニテはやめなさい。」
「髪伸ばしてると痛むんです。あと濡れた髪を誤魔化してるんです。」
知らんがな。早よ買い物済まして帰れ。
「あと、ここ私の性感帯だから。変にタオルで優しく拭かれるより、糸瓜でゴシゴシしないと腰砕けになります。」
ますます知らんがな。
メアドを交換させられた。
「また私が時間に迷ったら助けて欲しいのです。」
女子高生とメアド交換とか、妹が知ったら何言い出すのやら。
最初の設定では「青木さん」は、無邪気な玉の姉貴分として、玉を導きながら恋敵として玉との関係に悩む割とシリアスな人になる筈でした。
なのに初手からはっちゃけ過ぎです。
その分、玉がシリアス分を背負う事になりました。




