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待っている人

2人目のヒロイン登場です。

「裏…ですね。」

「この建物には竈が一つあるだけ。扉も見えないから奥に部屋があるとは思えないな。…壁に塗り込まれた座敷牢なんて仕掛けも無さそうだし。」

「…外、ですかね?」


僕の返事は茶店の外に出る事だった。

玉は僕のシャツを握ったまま、おずおずと着いてくる。警戒はしてるけど、こっそり怖がっているあたりが玉らしいというか。


黄土色そのままの土壁を回して、下見板を貼っていない建物だ。また一つ、時代確定の材料が増えた。


「建物の周りは雑草が生えて手入れをしている様子はないですね。でも、すすきとかじゃ無くて、はこべや白詰草ばかりなので見通しが効いてます。」


1,000年に渡って聖域の草むしりをして来ただけあって、気にする場所が少し擦れてるのが可笑しい。

そういえばホームセンターの園芸コーナーで人が変わったのは、玉的な趣味や拘りだったのかしら。


裏に来た。

一応、周辺を警戒しているのだけれど、相変わらず黒と紺の中間色な岩壁だけ。生物の気配は感じない。

「何も無いですねぇ。」

「いや、待ちなさい。」

ゴトゴトという微かな物音はまだ聞こえている。

僕は目を閉じて、物音に意識を集中する。


「ここだ。」

茶店の裏壁の一箇所に触ってみる。

「殿?その辺は竈があった辺りです。竈に火でも入ってたのかなぁ。」

「玉。横に回って見てみなさい。変な間隔で柱が立っているから。」

「どれどれ?」


僕はさっき、店の中で柱の間隔を測っていた。その時に確認していた。中で見えている柱は全て一間間隔で入っていた。この建物が典型的な昔ながらの真壁工法なので、外壁も柱は剥き出しになっている。

裏まで回っているうち、玉が地面の雑草を気にしている時に気がついた。

一番裏に当たる部分だけ、半間で柱が入っている。

つまり、隠し空間がある可能性。

半ば冗談で言った座敷牢がありそうだ。


「何かありそうですねぇ。」

柱の違和感に気がついた玉がトコトコ戻ってくる。

わざわざ僕に重なり(触れないからね)壁に耳を当てる。

僕も真似をする。


「ーーーーー。」


「物音じゃなくて声、ですねぇ。

「なんて言っているのかわからないけど、女性だな。」

なんだろう。壁越しに猿轡を噛まされている様な、とにかくはっきりしないけど、女性それも少女ではなく大人に近い声の低さがある。

「どうしますか?」

「助けた方がいいんだろうなぁ。」

「でも、この壁壊せますかね。」


ふむ。

この壁の構造を考えてみよう。

ただの真壁工法ならば、下地に竹小舞を張り、その上に土壁を重ねた物だろう。

ハンマーの一つもあれば簡単に敗れそうだ。

ハンマーがあれば。

…はんまあ。


「玉?」

「なんでしょう。」

「ここは聖域だろうか?」

「違う…筈ですが。なんなんでしょうね。私が暮らしていたお社は、お社だから聖域になっていて、だから殿をお呼び下さった。でもなんか。なんかわからないけど、ここからは私の聖域ではなく、殿のお部屋の匂いを感じます。」

「匂い、ですか。」 

「匂いというのは不適切かな。あのですね、うーんと、感覚とでも言うのかな。ほら、私こんなんでも巫女ですから。…祭神の荼枳尼天様を殿に取られちゃいましたけど。」 

「巫女的な特殊な能力でもあるのかな?」

「わかりません。ただ、わかるんです。理由もへったくれもありませんけど、なんかわかるんです。」


成る程。超常能力の塊の僕からすると、玉を疑う必要はどこにも無い訳で。

要は、僕が玉を信じ切れるかどうか。それだけだろう。


今は亡き実家を思い出せ。

芝生が敷かれた庭の隅に置いてあった100人乗っても大丈夫な、親父が近所のホームセンターで購入して、自分で組み立てていた、あの赤い屋根で壁がクリーム色した物置を。

スペアキーも付けっぱなしのキーホルダーに繋がるちんまりとした鍵を回して中に入ろう。

シャベルやらホースやらが乱雑に仕舞われている中、足元がガラクタで歩き難い中、右奥を目指す。

そこには何故か、土嚢袋とブルーシートが畳んであった。

災害の少ない九州の、それもただの民家でこんな物邪魔だし、お金の無駄と思っていたのだけど。


「死んだ母さんがね。買っておきなさいって割と強引に買わされたんだ。自己主張とか滅多にしない家族第一の人だったから、そう言う時の母さんには逆らわなかったんだよ。」


親父が懐かしそうに説明してくれた。

庭に立つ親父の視線の先には、窓の向こうで微笑むお袋の遺影があった筈だ。  


その後、地震や豪雨に見舞われる事が増え、火山以外に天災の無い九州といえど安心な土地では無くなり、今では土嚢袋やブルーシートが役に立つ状況になっている。

あればお袋が持つ「浅葱の力」だったのだろうか。


僕の記憶では、そのブルーシートに立て掛ける様に、赤いヘッドと、50cmくらいの木の柄。

親父が田舎で何やら使って、そのまま持ち帰って来たスレッジハンマーがあった筈だ。

そうそう、当時の僕では振りかぶると、そのまま背中から落ちる程振り回されたアレだ。


「さすがに10年以上前の記憶だから、丁寧に思い出すのに苦労したよ。」

「出せたんですか!」

「玉の言う事が信用出来たからね。」

「………。殿って時々ズルいです。」

「?。何が?」

「わからないなら良いです!プンプン。」

何故か怒り始めた玉。なんで?


あぁまぁ玉はほっとく事にして。

「ほっとかれた…。」

年頃の女の子は本当によくわからない。


「今から壁を破るぞおおおぉ!中でもいる人は端っこに逃げとけよおおおぉ!」

向こう側にいるのかどうか、声が届いたかどうか。

せえの!!!

さすがは30も近くなると、子供の頃の様にハンマーに振り回される事もなく、一撃でボコリと拳骨大の穴があく。が、竹小舞が邪魔して中は伺えない。


「逃げてろよぉ!」


さすがに声は届いているだろう。

とにかくひたすら土壁をボコボコに破壊しまくる。竹小舞たって、要は縦に割った竹を組んで紐で結んだだけのもの。

「どりゃあー!」

スレッジハンマーなら一発で崩して終わり。

ものの5分も経たずに人1人通れる穴が空いた。

「楽しそうでしたね。」

「否定はしません。」


さて、いきなり首を突っ込んで首を刈られたら嫌だなとか無意識な躊躇を一瞬したわけですが。

「プペっプペっプペっ。」

「中から面白い鳴き声がしますね。」

その前に埃で上から下まで真っ白になった物体が出て来ました。


★ ★ ★



「助かりました。ありがとうございます。」

「………。」

「………。」

「ねぇ殿。雪だるまが喋ったの。」


確かにコント役者みたいに真っ白になってますが

髪の長い、声も若々しい女性だよ。

何よりも僕が困惑したのは女性の着ている物。

ご本人が必死に叩いて埃を払っているけれど、彼女が着ている物は、ブレザーとスカートだ。

白いシャツの胸元には緑色のスカーフが見えている。


制服じゃん。

ふくらはぎの肉付きからして中学生ではない。女子高生じゃん。

こんな所で何してんだこの娘。


「えぇっと。今いつですか?」

「令和3年の秋だけど。」

「れーわ?そんな年号あったっけ?」

「ねぇ殿。この人、何か変です。

あ、玉が引いてる。


「一つ確認しておこう。君は浅葱の者ではないのかな。」

「はい。」

「え?本当にそうなの?」

「私の名前は青木ですけど。お婆ちゃんが浅葱さんから嫁いで来たそうです。あなたも浅葱さんなんですか?」

「僕も浅葱姓ではないけどね。母の旧姓が浅葱だ。」


「もう一つ聞いていいかな?」

「あなたは私の命の恩人なので、何なりと。」

「君がいた日の日付けを教えて欲しい。」

「えぇと、ケータイ見てみますね。平成29年6月です。」

4年前から時をかけて来た少女だった。

ケータイはガラケーだし。


★ ★ ★


この場所が聖域と同じ環境と分かればこっちのもの。

タオルや食材を引き寄せると、とりあえず青木さんには身の回りを濡れタオルで拭いてもらう。

「この人、何か変です。」と言っていた玉がさっさと竈に火を起こしてお湯を沸かして、青木さんをひん剥き始めたので、僕は外に逃げます。


「わわわ、ちょっと待って。なんで私いきなり下着姿にさせられてるの?」

「いいから早く脱ぎやがれです。お湯で身体を拭いやがれです。服は玉が拭くので。あ、これは殿の言う所の交通事故駄洒落でした。それはともかく、けしからんおっぱいしやがってです。」

「ちっともけしからなくない!私はバストが小さい事がコンプレックスなのに。Aなんだよ!」

「それでも玉よりずっと大きいです。玉なんかじゅにあです!」


何故か仲良くおっぱい談義を始めてしまった2人の声が聞こえない様に、と。

縁台を抱えて少し茶店から離れよう。

青木さんと言ったっけ。

彼女は4年前からあそこに閉じ込められていたのだろうか。

その割に健康そうだし、1,000年間聖域を掃除していた玉の件も考えると、祠の時の流れ方に何かの法則性でもあるのだろうか。


まぁ腹が減っているかはともかく、軽食くらいは作ってあげようかな。



「うひゃあ。」

…何をしているんだか知らないけど。いくらなんでも、あんな漫画みたいな声を現実に上げる女子高生っているのかな。

彼女も残念な人なのかな?

「残念言うなぁ!」

「殿?“も“ってなんですか、もって。」

しまった。声に出てた。


小金持ちで異能持ちの「僕」と、「僕」に全依存している玉では、ご飯を作ってはふにゃふにゃしているだけですが、今後はこの残念ヒロインさんがストーリーを(無意識のうちに)展開してくれます。

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