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新しい祠

デート?回です。

ほんの少しですが、玉ちゃん安寧ご機嫌の回です。

「この先ってどうなっているんでしょうか?」


昨日、ちゃんとしたスニーカー(衝撃吸収剤入りと、大昔からあるバッシュの原点機能性なしファッションオンリーハイカットの2足)を買ってあげたのに、外出には玄関の土間の隅に置きっぱなしにしていたクロックス(僕のなので、当然ブカブカ)を愛用し始める玉なので、両手に靴下を持ったままで気軽に足を小川から出して、数百メートル先の崖に興味を示した。


公園の北端に、もう廃道同然になった崖上から降りてくるアスファルト道が残っていて(多分公園管理の重機搬入の為だけに使用しているのだろう)、その坂の

角度もなかなか。


昨日(昨日なんだなアレ)の国分寺前の坂ほどでは無いにせよ、どっちにしても自転車で登るには骨が折れる角度だ。


★ ★ ★


ペタペタペタペタ。


地面は良く手入れされた芝生なのだけど、濡れた足でクロックス履いてる玉の足元からは間抜けな音がする。

「私は殿の3歩後ろを静々と着いて行く、清楚な巫女でございます。」

とか、言ってた気もするけど、自分の興味を満たす為ならそんな事すっかり忘れて僕の3歩前をオノマトペを口遊みながら歩いていたりする。


公園の東端は標高20mくらいの台地がほぼ垂直に落ちて、様々な広葉樹林が殆ど斜めに生い茂っていた。

季節的に色づくには早いけれど、秋の気配が濃厚になっている感じがする。


崖の下、数mにわたり隙間が空いていて、そこからは透き通った地下水が音もなく流れ出していた。

湧水地は柵で囲まれ、地元自治体が大切に管理している様子がうかがえる。


「わ、蟹居ますよ蟹。」

玉が地面をワサワサ歩いていたクリーム色の蟹を捕まえて見せてくれる。

「沢蟹だね。ここは本当に水が綺麗なんだなぁ。」 

「食べられるのかなぁ。」

「多分保護されてますから、食べちゃ駄目です。逃してあげなさい。」

「はーい。」


頭上を見上げると、ヘリポートを備えたなんだか大きな建物があるんだけど。

こんな開発地の外れに残った小さな自然も逞しく生きているんだね。


「あ、ほら。イモリが浮かんでます。」

「食べるなよ。」

「食べませんて。さっきのお蕎麦でお腹いっぱいですから。」

お腹空いてたら食べそうだな。


湧水の様子を見て満足したのか、公園の外周(つまり崖下)に沿ってつけられている遊歩道を、またオノマトペを口遊みながら歩き始めた玉を追って、歩き始めようとしたその時、僕はいつものあの感覚を味わった。


「玉。待ちなさい。」

その得体の知れない何かを、本業神職・副業つまみ食い魔女な彼女も察したらしい。

顔色を変えて、僕の背後に回り込んだ。

「なんですか、これ。私の意思が捩じ曲げられています。」

「これが僕の能力の一つ。時間と空間の澱みを感知したんだよ。誰かが僕に、僕らに来て欲しいんだ。僕はそうして昨日玉に会った。」  

「誰かが助けを求めているって事ですか?」

「そうとも限らない。あの聖域をずっと掃除し続けてくれていた玉とは違って、怨み恨みが長年かけて捻くれた場所になる事もある。」

「そんな場所に当たったらどうするんですか?」

「逃げる。」

「へ?」

「僕は別に神職じゃないから、戦う力なんか無いよ。」

「…ここは格好付ける場面じゃないんですか?もれなく玉が殿に惚れるチャンスですよ。」

「玉に惚れらでもなぁ。」

「失礼な。巫女さんですよ。黒髪ですよ。歳下ですよ。世の男性がた垂涎の私ですよ。」

「エッチな事出来ない女の子にどんな価値が有ると?あと男の夢、手作りご飯が食べられないし。」

「…すいません。割と凹みました。」

「というか、玉はこの現代に来てまだ24時間くらいなのに、何やら余計な知識だけは恐ろしい量を吸収してますねぇ。」

「殿以外の方とお話しする時に、ボロが出ない様にしてるだけですよ。」

こういうところから、玉の地頭の良さが感じられる。


「それで、殿はどうなさるんですか?」

「ん?行くよ。」

「行くの?危ないかも知れないのに?戦う力もお持ちにならないのに?」

「僕はそうやって、玉に逢えたからね。」

「あ……。」


というかね、僕は「浅葱の力」がさっぱり解明出来てないのがなんとも困っているんだよ。

手掛かりになるのなら、多少の危険は覚悟しているんだ。


「今までの例だと、僕は一時的にこの時間帯から消えるけれど、また直ぐに戻ってくる。だから玉はここで待っていなさい。」

「お断りします。」

「はい?」

「玉の居場所は常に殿のお側です。お忘れになりましたか?玉が部屋から出れるのも殿の能力の余禄です。この時間から一瞬でも殿が居なくなる事で、玉の存在だって確定出来ません。玉はいつも不安定なんです。だったら、いつも玉は殿のお側が良いです。」


全くこの娘は。

同じ不安定ならば平和で安全なここに居なさいと言っているのに、そう言う覚悟を決められちゃうと、また僕の逃げ道が無くなるじゃないか。


★ ★ ★


祠、と僕は言う。

意味なんか無い。祠と言うのならば普通は宗教的性格があるはずだけど、今までの経験上宗教性の有無も、そもそもの共通点も殆ど見出せ無いから。

とある有名RPGゲーム的な意味で、僕は祠と言っているだけだ。 

ただし、唯一その先は「現代では無い」事だけは一致している。

祠で出逢った玉が平安時代の人間だった様に。


左に曲がれ。

左は崖だ。

でも、僕の中の何かが左に曲がれと言う。

この声を無視して、自分が本当に行きたい方に曲がった事もあった。

その時の経験では、その場に直ぐに戻っても二度と方向指示の声が聞こえる事は無かった。

そして、何故か僕は猛烈な後悔に苛まれた。

だから僕は左に曲がる。

あの後悔の裏に、何か取り返しの付かない事件があったのかも知れないから。


玉も黙って付いてきた。

僕の上着の裾を掴みながら。


やがて僕らの前に洞穴が現れる。

昨日の祠もそうだったけれど、目の前の崖は赤土で典型的な関東ローム層なのに、洞穴そのものは岩盤なんだよね。例え平場の中空に空いた祠でも、岩盤に穿たれた洞窟、洞穴。


その中に僕らはゆっくり入って行った。


★ ★ ★


中はいつも大体同じ。

短いトンネル部分を抜けると、僅かな空間が広がり、天井が抜けて空が見える。

その空間には、毎回色々な物がある。

昨日みたいに神社があったり、ただの池があったり。

或いは見事な杉の大木が一本聳えていたり。


今回見た物、あった物は。

…茶店だった。 

何これ?簾が架かり、その裏には縁台が置かれて、

大して広くも無い店内は土間で統一されている、


壁には丸窓が穿たれ、杉板で少しばかりの軒をつけてある。

しかしこの、気持ちが不安定になるこの店はなんなんだろう。

あ、わかった。

僕は柱と柱の間に立ち、両手を広げてみた。

次に隣の壁で同じように手を広げる。

間違いない。


「あの、殿は何の体操してるんですか?早くここを調べた方が良いと思うんですけど。」

「ん。柱の間隔がね、微妙では無い間隔で違うんだ。」

「はぁ。」

「柱の間隔って言うのは中世から定められている。じゃないと、大工さんによって変わったり隣村行ったら変わったりしたら、畳屋が困るでしょ。」

「はぁまぁわかります。」

「それと、建物には税がかかります。税金取るのにその基準が変わったらお役人が困るでしょ。」

「お役人の心配してたんですか?」

「建物の構造からわかる事もあるって事です。」


例えば寺社仏閣ならば、古くから大陸尺を使っていたから(構造上わざと一定にしてない建物も多々あるけど)、この茶店は柱の間隔がバラバラだ。

というか滅茶苦茶だ。継ぎの様子を見ると、素人仕事には見えない。けれど一間がバラバラな事を考えると。

確か長さの全国的な統一は、戦国時代以降の徴税の為だったと思う。秀吉の太閤検地あたりからじゃないかな。

とすると、あくまでもこの茶店から推し量るに、この祠は16世紀以前の可能性がある。


ただこの茶店、時代劇に出てくる様な「わざとらしさ」があるんだよなぁ。

東海道丸子宿にあるとろろ汁屋って言われても通じるし、面白プラモデルをお手本にしましたって感じもする。デザイナーのコンセプト臭がプンプンする。



などと益体もない事をダラダラと考え続いていたら。

裏から物音がする事に気がついた。

次回、もう1人のヒロイン(女子高生)登場です。

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