表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/249

失業しました

アルファポリスにて完結済みのお話です。

当初の構想通りに綺麗に終わった、何も起こらないお話ですが、何故かヒロインの1人が作者に話しかけてくるんです。

まだ何かやりたい事話したい事があるのかと思い、こちらに再録することにしました。

基本的に簡単な文章の手直しくらいしかしませんが、もしかしたらキャラクターが暴走して、違う話になってしまうかもしれません。

もしお暇でしたら、お付き合いください。

「おはよう御座います。早速でございますが、皆様に申し上げます。」


その日、朝礼に立ったのは、僕の所属している経理課の長、中村次長ではなく、見た事の無い女性だった。

無造作に見えて毛先をきちんと整えているひっつめ髪、細くて白い素脚が目立つ短めのタイトスカートに、白いシンプルなブラウス。

多少キツめのかんばせを自覚しているのだろう、わざと銀縁の眼鏡をかけて、むしろワザとキツさを強調している様に見える。男避けかな?

そんな、「私は出来る女ですよ」感満開の女性だった。でも、時折一瞬見せる笑みは魅力的に思える。

僕よりも少し歳上かなぁ。

自分の失職を告げられながらも、なんとなく彼女の品定めをしている僕だった。

だって、正直現実感がカケラも無いんだもん。


少し髪が寂しい中村次長は、彼女の隣で複雑な顔を隠そうともしないで立っている。

そんな次長の顔をチラッと見ると、彼女は先を進めた。


「先日より、経済新聞等で報道されている通り、御社の取締役社長及び複数の役員に、公正取引規制違反が発覚しました。これによる株価低迷他、様々な複合的要因により、昨晩、取締役会長が業務の継続を断念しました。現在、御社は事実上倒産状態にあります。」


まぁね。やばいやばいとは社内でも噂レベルを超える公然の事実と化していたし、やはりそうなったか。


「当面、出社されても何もする事はありません。残務処理は、捜査終了後となります。また、皆様の属性は残念ながら、現在会社が保証するものではありません。保険証の利用については現状では制限はされておりませんが、これについても可能期間は不明になると言わざるを得ません。」


僕は、僕らは特に法に反する事なんかしてなかったんだけどなぁ。

まぁ、僕らはまだ若いから転職も容易だろうけど。一応ここは上場している(もうすぐ、上場していたになるね)会社だったから、みんなそれなりの大学を卒業していて、学歴や資格取得(昇進条件で、指定された国家資格をみんな持っているんだ)に問題はなく、それなりに買い手も付くだろう。

可哀想なのは、次長みたいに年配の人だよなぁ。家族もいらっしゃるし、住宅ローンとか学費とか、大変だろう。


彼女(最初に自己紹介して貰った気もするけど、聞いた側から忘れた。多分、うちと取引のある弁護士事務所か会計士事務所から送られて来たのだろうけど、僕が彼女とどうにかなる未来が有るとは思えないからね)に、現状説明と、大雑把な今後の予定を伝えた後、中村次長に変わった。


「みんな、済まない。」

んんー。次長の責任では無いしなぁ。次長は被害者だし、これから一番大変なのも間違いなく次長だし。

とは言うものの、次長を労う時間じゃない。

次長に同情出来る程、僕達は何様のものでも無い。


次長は、淡々と実務的な説明を伝える。

会社を閉める予定時期。

さっきの保険証のみならず、区役所・市役所との手続きについて。

出社の必要性の有無。

残務処理の必要人材。 

それに伴う通勤交通費。

等々。


で、僕は。

予め総務課のお姉さんが作ってくれていた書類を片手に、その日のうちにハローワークに行って、失業手当の申請をしてました。

本来ならきちんと失業してからの話だと思うけど、社会的に派手な報道がされているせいか、あらかじめ手配がされていたのか、申請を受け付けてくれた。

というか、総務課は先に動いていたのね。

貯金はそれなりに溜まってるし、僅かながらも退職金も出るらしいし。しばらくは生きられるだろう。

何よりもさっさと動かないとならない原因は、独身寮の閉鎖を伝えられたから。

なんでもリノベーションして、売却する計画らしい。

会社の上層部が「悪さ」を働く程度には、株価の程度の原因となった業績の悪化と、借入金の増加があった訳で。

因みにHPで公開されている有価証券報告書を覗き見ると「うわぁお」って言いたくなるくらいは、黒い三角形が年々沢山増えていた。

持株とか投資とかしてない僕には、初めて知った情報ばかり。まぁ、知ってたところで、イチ経理課員(部下無し係長)の僕に、出来る事など、何も無いのだけど。


とりあえずは住むところだ。

僕は既に両親とは死別している。実家(九州)は丸ノ内に就職した僕には無用の産物なので、実妹が結婚したのを機に、妹夫婦に贈与した。

義弟の親さんが、登記・納税関係をきちんとしてくれたので、僕は正直、何もしてない。

別に妹夫婦や親族と関係が悪いわけじゃないけど、関東に住んでいるのは僕だけなので、まぁなんとなく、僕一人でなんとかしようと思っている訳ですよ。


ハローワークと不動産屋を回って、独身寮に戻って来た。6畳ワンルーム、オール電化のこの部屋には、あまり荷物が無い。まぁね。

基本的に、娯楽(ゲームや書籍、動画)は全部PCやタブレットのデータやお気に入りにまとめてあるし、オシャレとか大して興味ないし。

替えと季節物スーツ数着の他は、ジーンズ1枚、シャツ数枚、あとコート。備え付けの小さなクローゼットのスペースが、これまた余る余る。

下着や靴下、スニーカーは金かけてるけど、そんなの大した額にはならないし。

就職して数年。仕事が面白かったり、友人曰く、僕が絶望的に鈍感なんだそうだなせいで、彼女と言うものが数年いなかったしね。(ぶっちゃけ、女っ気は風俗で充分満足してたし)


実はもう新しい部屋は決めている。

都心から離れた川向こうで、緑が多いところが良いなあと、小田急やTXの物件チラシをあれこれ見せて貰った結果、京成電車で東京を離れて直ぐ、台地の上の2Kで決定。内見すらしてない。


 

    “だって僕には要らないから“





それから2ヶ月後。

会社を正式にリストラされた僕は引越しを完了していました。

荷物は自分の軽ワゴン車で3回往復しただけで、引っ越し完了。お隣さん・ご近所さんに、馬鹿丁寧に引越し蕎麦を届けて、大家さんに挨拶して(無職だから2年分の家賃を前払いしたら驚いてた。私鉄駅徒歩15分坂の上築17年リノベーション済みアパート家賃7万円。敷金礼金併せて約200万円。これで10年近く勤めた退職金がなくなったという)、さてと。お茶を入れて一休み。

 

ハローワーク(板橋区)の方は、失業手当を貰う為にたまに仕事探しに行くふりしながら、何にも手続きしないまま。地元に移る素振りすらしない。僕は、僕のやりたい事をやる事にする。


僕がやりたい事と言うのはね。




しばらくは序章と言う事で、当たり前な会社員の普通な生活的な展開が続きますが、直ぐおかしな事になって行きますので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ