占い師後輩「これは私の占いでも見えませんでしたね……」
「次はどこへ行きましょうか、クロ先輩」
「えっと……恋鐘ちゃんはどこか行きたいところある?」
「ではゲームセンターに行きましょう」
恋鐘ちゃんのお望み通り、駅前にあるゲームセンターへと向かった。プライズコーナーだけでなくプリクラや音ゲーなど色んな種類の娯楽を楽しめる大きなところだ。ウチの学校の生徒もチラホラと見える。
「何か欲しい景品ある?」
「では……あのウサギのぬいぐるみが欲しいです」
恋鐘ちゃんが指差した先には、最近のキッズアニメに出てくるウサギモチーフのキャラのぬいぐるみが並んだ台があった。僕は早速コインを入れて挑戦する。
「ん~中々難しいね」
もう千円もつぎ込んだが、惜しいところまではいってもあと一歩のところで取ることが出来ない。良いところを見せられずに四苦八苦している僕の横で、恋鐘ちゃんは両手で持っている水晶玉にムムムと念じた後、カッと目を見開いて言った。
「クロ先輩。やっぱりそのぬいぐるみはやめましょう」
「え、でも後少しで取れそうだよ?」
「いえ、やめた方が良いです──」
すると、僕が操作していた台から突然ピーッ、ピーッと音が鳴り始めてクレーンが動かなくなってしまった。どうやら故障してしまったようだ。
うん、僕の不運っぷりがここでも発揮されたようだ。
「クロ先輩。あっちのサメのぬいぐるみにしましょう」
故障した台の修理を店員さんにお願いした後、恋鐘ちゃんにグイグイと制服の袖を引っ張られ、僕は可愛らしいサメのぬいぐるみの台に連れてこられていた。まぁ恋鐘ちゃんにねだられたので早速コインを入れて挑戦してみたが、やはり上手くいきそうにない。
「クロ先輩。もう少し右です」
するとボタンでクレーンを操作する僕の手に恋鐘ちゃんが手を重ねてきた。
「もう少し右……あ、行き過ぎです。もう少し左に」
「……あの、恋鐘ちゃん?」
「はい、なんでしょうか」
「もしかして占いで何か見えたの?」
「はて、なんのことでしょうか」
ここに来て恋鐘ちゃんはすっとぼけてきた。僕がさっきのウサギのぬいぐるみを取れない未来も見えていたのだろうか。
「もうちょっと手前に……そう、そこです!」
恋鐘ちゃんの掛け声に合わせてクレーンを下ろすと、サメのぬいぐるみは綺麗に持ち上げられ、そのまま吸い込まれるように穴に落ちていった。
「やった、やったよ恋鐘ちゃん!」
「流石ですね」
「……これも恋鐘ちゃんの占いで見えてた?」
「はて、なんのことでしょうか」
未来ってそんな便利に見えるものなのかなぁと思いつつ僕はサメのぬいぐるみを取り出した。結構デカいから抱きまくらなんかに良さそうだ。
「恋鐘ちゃん、これあげるよ」
「えっ、クロ先輩が取ったのに?」
「こういうのって彼女にプレゼントするものでしょ。ほら、似合うと思うから」
「ちょ、ちょっとぉ……」
恋鐘ちゃんは珍しく動揺してオロオロしながらもサメのぬいぐるみを受け取った。すると大事そうにギュッと握りしめて恋鐘ちゃんは笑っていた。
なんだ、年相応に可愛いところあるじゃん。
「これは占いでも見えませんでした……」
そんなこともあるんだ。
「クロ先輩が死んだ後、このサメをクロ先輩だと思って大事にします……」
そう言えば僕って明日死ぬんだったね。出来れば忘れていたいのにちょいちょい思い出させられる。
流石に僕の財布が先に死んでしまいそうだったからクレーンゲームはもうやめようかと僕が考えていると、恋鐘ちゃんは「ちょっと待っていてください」と僕がさっき挑戦して全然ダメだったウサギのぬいぐるみの台へと向かった。
そして一回分のコインを入れてクレーンを操作すると、まるで吸い取られるようにクレーンに掴まれたウサギのぬいぐるみはそのまま穴へと落ち、恋鐘ちゃんはたった一回でウサギのぬいぐるみをゲットしてみせた。
「え、すご……」
さっきのカラオケといい今回のクレーンゲームといい、恋鐘ちゃんってすごいユーティリティな才能持ってるのかな。僕の見せ所って不運なところしかないんだけど。
「これは私の妹の分です」
「それも占いで見えてたの?」
「はい。今日取ってくると妹に約束してきたので」
恋鐘ちゃんはウサギのぬいぐるみもリュックの中に入れると、今度は僕をプリクラコーナーへと連れてきた。プリクラなんて前に男友達とふざけて取った以来だ。
「どんなフレームが良いですか? 私はこのハートがたくさんあるものが良いと思いますがクロ先輩はどう思いますか?」
「……このハートの主張が激しいやつ?」
「はい。とてもラブラブに見えませんか?」
「恋鐘ちゃんがそれで良いなら良いけど……」
僕は控えめにピースサインだけだったけど、恋鐘ちゃんは僕がさっきあげたサメのぬいぐるみを抱きしめて僕の隣に立った。意外と枠が小さかったからかなり体を密着させて写真を撮ることになる。
撮影が終わると、その後は恋鐘ちゃんの手によって色々と書き加えられていったのだが……僕の頭の上に『ミスターアンラッキー』とか『不運』とか書いてる。完全に落書きじゃん。それになんか僕の目がすごいキラキラしてて怖いけど、恋鐘ちゃんが楽しそうならいいや。
「良いのが出来ましたね」
何とか僕の原形は留めてるけど随分とデコったなぁこれは。
「これでお互いの想い出にこのプリクラが刻み込まれましたね。クロ先輩はこれを胸に永眠してください。あ、遺影でも良いですよ」
遺影になってる僕の頭の上に『ミスターアンラッキー』とか『不運』とか書かれてたら不謹慎にも程があるでしょ。
僕達がゲーセンを出た頃には電車も運行を再開していたため、放課後デートを終えて駅へと向かった。恋鐘ちゃんの占いによると一番後ろの車両が空いているとのことだったのでホームの端で待っていると本当に席が空いていて、僕は恋鐘ちゃんと並んで座ることが出来た。
「今更ですが、クロ先輩のお家って門限はありますか?」
「ううん、無いよ。僕は一人暮らしだし」
「……クロ先輩って一人暮らしなんですか?」
僕の隣で恋鐘ちゃんは不思議そうにしていた。まぁ珍しいかもしれないね、それには諸事情あるんだけど。
「クロ先輩の最寄りって◯◯駅でしたよね?」
「うん、そうだよ」
「私の家の最寄り、その隣なんです。折角ですし私の家に寄っていきませんか?」
……交際を始めた初日からいきなり彼女の家に!?
いや違う、これは僕にとって最初で最後になってしまうのか……!?
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