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占い師後輩「先輩が可哀想なので私が彼女になってあげます」



 なんとなく仙北さんが占いの結果として言っていたからカラオケボックスに入ったけど、こんな時間でも部屋が空いていて良かった。


 「……僕は本当に死んでしまうの?」

 

 店員さんがドリンクを届けに来てくれた後、僕は一曲も入れずに椅子に座って仙北さん言う。仙北さんは注文したメロンソーダを一口飲んだ後で言う。


 「昨日、私もそんな未来が信じられなかったので、五十回程占いを繰り返してみたんです」

 

 すっごい試行回数だなぁ。


 「でも何度占ってみても月無先輩は死にました」


 もう過去形になってるじゃん。これだけ的中率が凄い仙北さんがそう言うんだったら、本当に僕は明日死んでしまうのか……? 何度聞いてもとても信じられない。


 「私はこの未来を月無先輩にお伝えするべきかどうか悩みました。いくらミスターアンラッキーである月無先輩とはいえ、これは不運では済まされないことだと。

  本来占い師である私は月無先輩にその運命を回避するための方法を伝えるべきなのですが、どれだけ占っても見つからなかったんです……」


 確かにそれが避けられる運命だったなら事前に教えてもらった方が嬉しいかもしれない。何か方法があったかもしれないし、僕は仙北さんにすごく感謝していただろう。

 所詮占いなんて非科学的かもしれないし、僕も普段から占いを信じ込むタイプではないから、仙北さんの話を素直に受け入れることが出来ない。でもさっきの新垣さんという後輩の子の話や、電車の運転見合わせを目の当たりにして、多分それが避けられない運命だということを僕は悟った。

 

 明日、か。いや、いくらなんでも急過ぎるよ。今すぐ身辺整理に取り掛かれる程僕は冷静じゃないし、今日の夜はきっと眠れない。

 項垂れる僕を前にして、仙北さんはスクッと立ち上がると僕の手を掴んで言った。

 

 「落ち込まないでください、月無先輩。最後ぐらいは私が一緒にいてあげましょう」


 仙北さんが何を言っているのかよくわからなかったけど、彼女は真剣な眼差しで僕のことを見ていた。


 「ど、どういうこと?」

 「私が月無先輩の彼女になります」

 「……えっ?」

 「今日から私が彼女だと思ってください」


 ……僕もいつかは誰かと付き合ってみたいなぁと思っていた。初恋の人なんてのもいたけど、恋愛に奥手な僕は自分から告白する勇気なんてなかったし、僕の周りにいる女の子は皆ミスターアンラッキーと呼ばれる僕を面白がっているだけだ。本当に心配してくれているのは福来さんぐらいだっただろう。

 そんな僕に、とうとう幸運が……!?

 いや待て、と僕は冷静になった。

 

 「えっと、僕は嬉しいけど仙北さんは本当にそれで良いの? 別に僕はそういうのを代償とかに求めてないよ。自分が死んでしまう未来を占われたからって仙北さんを恨むようなことはないし」


 確かに仙北さんみたいな可愛い後輩と付き合えるなら付き合ってみたい。でも仙北さんが自責の念を持って僕の相手をするというのは違うと思う。

 しかし仙北さんは僕の手をさらにギュッと力強く握って言う。


 「違います。私はただ純粋に、これまで多くの不運に見舞われてきた月無先輩に、最後ぐらいは幸せでいてほしいんです」


 仙北さんの泣きそうな表情を目の当たりにした僕は、もう彼女の願いを断る気なんてなかった。


 「……ありがとう、仙北さん。短い付き合いになっちゃうかもしれないけど」

 「はい。月無先輩を最後まで見届けます」


 なんか本当に僕が明日死んじゃう流れになってるけど、本当に死んじゃうのかな僕は。逆に今が幸せだから死んでしまいそうだ。


 さて、ミスターアンラッキーと呼ばれ続けてきた僕へ神様から最後のご褒美なのか、僕はどういうわけか仙北さんと付き合えることになった。すると仙北さんは僕の手を離して両手を大きく広げ、笑顔で声高らかに言う。


 「さぁ、この狭い部屋で私をお好きなようにしてください!」

 「え?」

 「カラオケボックスは騒がしいので、どんな情事をしてもバレることはないでしょう! さぁお好きにどうぞ!」


 いや情事って、何を言ってるんだろうこの子は。最近は楽器の練習だったり飲み会とか仕事で使う人もいるらしいけど、情事は違うと思う。この子には占いでそんな未来が見えていたのだろうか?


 「えっと……とりあえず何か歌おうか」


 いきなり情事を始める度胸なんて僕にはないため、早速自分の十八番を入れようとする。が、僕が入れる前に既に僕の十八番が流れ始めていた。


 「あれ? もしかして仙北さんがこの曲を歌うの?」

 「いえ、月無先輩が歌うと思ったので」

 「……どうして僕の十八番を知ってるの?」

 「占いで見たので」


 そう言って仙北さんはニッコリと微笑んだ。

 ……ますます僕が死ぬ未来が明確に見え始めたなぁ。


 さて、ミスターアンラッキーこと僕の十八番なのだが、失恋の悲しみを綴ったとてもじっとりとした歌謡曲だ。とても形式上とはいえ付き合っている彼女の前で歌う曲じゃないね、こんな曲。

 でも数々の不運に見舞われてきた僕の持ち歌は全部そうなのだ。どれを歌っても盛り上がらないのは違いない。

 でも、僕は全力で歌ってやる!



 「うぅぅ……とても、とても悲しい曲ですぅ……!」


 すごい泣いてるじゃんこの子。意外と感情表現豊かなんだなぁ、仙北さんって。


 「うーん、点数は全国平均と一緒ぐらいだね」

 「とても平均的で良いと思います」

 「いや、そんな無理に褒めなくてもいいよ」


 僕もたまにカラオケには来るけどそんなに上手くもないしそんなに下手でもない、点数で言うと大体全国平均と一緒だ。それでいて悲しい曲ばっかり歌ってるんだよなぁ僕は。


 「さて、次は私の番ですね。月無先輩がリクエストしてくだされば何でも歌いますよ」

 「え、僕がリクエストするの?」

 「はい。お好きな曲をどうぞ」


 そんなシステムがあるとは思わなんだ。僕の持ち歌自体は悲しい曲ばっかりだけど、音楽自体は色んなものを聞く。僕自身は歌えないけど明るいアイドルの曲とかが好きだ。

 でも……仙北さんって絶対アイドルの曲とか歌わなさそうなんだけど。


 「僕が最近好きなのはネバネバシスターズの『ネバ♡ネバーランド』なんだけど……」


 一応僕が好きな曲ということで口にはしてみたが、仙北さんはあまりそういう世界を知らなさそうだと思って他の曲を考えようとした時、仙北さんはマイクを握って立ち上がった。


 「わかりました。月無先輩のリクエストとあらば完璧に歌い上げてみせましょう」

 「え、仙北さんってこれ歌えるの!?」

 「はい。満点を狙います」


 知ってるかどうかさえ怪しかったのに、この曲って歌うのはかなり難易度が高いと有名だ。

 そしてパワフルなイントロと同時に──仙北さんは人が変わったかのような、それこそアイドルのような笑顔を浮かべて歌い始める。


 ──その姿は圧巻だった。Aメロからリズムを取るのが難しいはずなのに仙北さんは完璧で、オクラとヤマイモとモロヘイヤへの愛を語るセリフパートもまるで自分の歌のようにノリノリだ。



 「ふぅ、余裕でしたね」


 ……すごい。歌いきったぞ、仙北さん。

 いや、なんでこんな電波寄りな曲を完璧に歌えるの仙北さん。そして点数が表示され──。


 「ひゃ、百点!?」

 「こんなものですね。当然の結果です」

 

 こんな難易度の高い曲で百点を叩き出しただと!? なんだか凄すぎて僕のテンションは瀑上がりだ。


 「す、凄いよ仙北さん!」

 「いえ、それほどじゃありません。

  あと、月無先輩。せっかくお付き合いを始めたのですから私のことは名字ではなく名前で、恋鐘とお呼びください」

 「あ、ごめん……恋鐘さん」

 「さんもいらないです」

 「……恋鐘ちゃん?」

 「はい、クロ先輩」


 向こうも名前で呼んできてため、思わず僕はドキッとした。学校にいる知り合いの後輩の子達はアンラッキー先輩としか呼んでくれないから感動してしまう。


 その後も仙北さん……いや恋鐘ちゃんリサイタルは続き、僕のリクエストに答えて何曲も歌い、そして全て満点を取り続けるという彼女の超人っぷりを目の当たりにしたところで僕達はカラオケボックスを後にした。

 だが、まだまだ恋鐘ちゃんとのデートは続く。僕と恋鐘ちゃんに残された時間は、あと一日しかないのだから。



 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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