占い師後輩「凄腕占い師の私が言うんだから絶対に当たります。なので先輩は明日死にます」
「明日、貴方は不運にも頭に野球ボールが当たって死にます」
突然僕の前に現れた、水晶玉を持った謎の後輩の女の子からの宣告に僕は戸惑い、靴箱の前で硬直していた。
えっと……今まであらゆる不運な出来事も耐え抜いてきたミスターアンラッキーの僕が、明日とうとう死んじゃうの? しかも、野球ボールが頭に当たって?
死ぬのはもう不運を飛び越えてると思うんだけど……。
「あの……えっと、まず君は誰? 一年生の子だよね?」
「申し遅れました。私は一年一組の仙北恋鐘です。趣味は占い、今までに数百人を占ってきましたが、私の占いの的中率は百パーセントです」
うん。僕の死が確定されちゃった。明日とうとう僕は不運過ぎて死んでしまうんだね。
え、いや、本当に冗談とかなしに言ってるのこの子は?
「それで、僕は明日死ぬって占いに出たの?」
「はい。明日、月無先輩はこめかみに硬式の野球ボールが直撃して死んでしまいます」
「いや、そんな何度も言わなくてもいいけど、どうしてそんな占い結果が出たの……?」
「それは道すがらお話しますので、まずは私と一緒に帰りましょう、月無先輩」
「う、うん」
何だかもうすっかり向こうのペースだけど、僕は突然恐ろしい予言を言い放った仙北さんの話を聞くために一緒に帰ることにした。
学校から最寄りの駅までは歩いて十五分程だ。二人で並んで歩道を歩くが、仙北さんは下校中も手に水晶玉を持っている。
「以前からミスターアンラッキーこと月無先輩の噂はお聞きしていました。道を歩いているだけで車に轢かれたり、立っているだけで鳥から糞を落とされたり、座っているだけでボールが飛んでくると」
人から聞いてみると、改めて散々な毎日を送っているなぁ僕は。
「他にも荷崩れを起こしたトラックから落ちた鉄パイプが直撃しただとか、子どもが乗った三輪車に轢かれたみたいな噂も聞いたのですが、それは本当ですか?」
「僕が轢かれたのは子どもが乗ったベビーカーだね」
「……どうやって轢かれるんですか、ベビーカーに」
「僕がボーッとしてただけだよ」
轢かれたってのは大げさだけど、交差点で信号待ちをしていたら後ろから追突されただけだね。親御さんに凄く謝られたけど赤ちゃんが無事で良かった。
ちなみにトラックから落ちてきた鉄パイプは僕のスネに直撃したけど大した怪我ではなかった。
「そんなミスターアンラッキーこと月無先輩の不運っぷりは私も占い師として前から興味を持っていました。私は今までに数百人もの人達から占いを頼まれて色々とお話を聞いてきましたが、月無先輩ほど不運な人は他にいません。
なので、私が月無先輩の未来を占って不運な出来事を予知することが出来たら、少しでも月無先輩に襲いかかる不幸を減らせるのではないかと思ったんです」
……すごく良い子じゃん、仙北さん。不運な出来事ばっかりの僕の負担を少しでも減らすためだなんて、なんで一度も会ったことのない僕のためにそこまでしてくれたんだろう。
「そしてこの間、月無先輩の未来を占ってみたんです。すると明日の放課後、廊下の窓ガラスを突き破って飛んできた野球ボールが、たまたまそこを歩いていた月無先輩のこめかみに直撃し、先輩が死んでしまう未来が見えたんです」
仙北さんは本当に良い子のはずなのに、どうしてそんな結果を見てしまったんだろう。僕がそれを知らなかったら、明日死ぬ直前まで平和に過ごしていたと思うよ。
「でも、占いってそういう危機を回避するために何か助言をするものじゃないの?」
「はい。占いと予言は違います。しかしどれだけ占っても……月無先輩が明日死んでしまう未来しか見えませんでした」
僕は仙北さんの堂々とした佇まいと物言いに圧倒されていたが、そもそもこの子が占い師としてそこまで信頼できる人なのかを僕は知らない。本人は的中率百パーセントなんて言っていたけど自称の可能性だってある。
「えっと……仙北さんの占いって的中率百パーセントって言ってたけど、今までにどんなことを当ててきたの?」
「例えば私の友人の恋の行方だとか、明日の天気だとか、妹のテストの結果だとか、父親の会社の株価の上げ下げ等ですね」
占いのスケールの振り幅が凄い。恋愛相談は占いのネタとしてベタっぽいけど株価って占いで見れるものなのかな。
「あ、恋鐘ちゃーん!」
歩道を歩いていた僕と仙北さんの後ろから、一人の女子生徒が走ってきた。どうやら仙北さんの同級生のようだ。
「どうかしましたか、新垣さん」
「この前恋鐘ちゃんに占ってもらったでしょ? んで恋鐘ちゃんが言ってた通りの場所と時間とセリフで告白したら、あの星野先輩と付き合えることになったの!」
星野って僕の同級生にいたなぁ。確か友達とバンドを組んでいて歌とギターがとても上手い人だ。星野さんってすごくモテるけど、そういえばまだ彼女はいないんだっけ。
「私の力でお助けできたなら何よりです」
「うん、ありがとう恋鐘ちゃん! 私はこれから星野先輩とデートだけど、恋鐘ちゃんのアドバイスがあれば何も怖くないよ! じゃーねー!」
新垣という後輩の女の子は仙北さんに手を振って元気よく走り去っていった。
……話を聞いている限り、新垣さんから恋愛相談を受けた仙北さんは、的確なアドバイスをして恋を成就させたってこと?
それだと仙北さんの占いにますます信憑性が出てきちゃうんだけど?
「まだ私の占いを信じられないというご様子ですね」
「まぁ、まだ半信半疑っていうか、ぶっちゃけ信じたくないっていうか」
「ではちょっと占ってみましょう」
すると仙北さんはムムムと念じながら水晶玉を優しく撫で始めた。おぉ、なんだか本当に占い師みたいだ。僕は本物の占い師を見たことがないけども。
「……見えました!」
僕視点では水晶玉には何ら変化は見えず、周囲の景色が映っているだけだった。
「この後、駅に辿り着いた途端に駅への落雷による停電の影響で電車が止まってしまいます」
「えっ」
「運行再開まで私達に移動手段はありません。そこで私と月無先輩は近くのカラオケで時間を潰すことにします」
「いや、それは僕の気分次第かもしれないけど」
「いえいえ、これは私からのアドバイスですよ、フフ……」
確かに電車って人身事故だけじゃなくて車両故障とか線路内立ち入りとか色んな原因で止まることがあるけど、そんな停電とかピンポイントで占いが当たるものかなぁ。
そんなことを考えていると、ようやく僕達は最寄り駅に到着した。様々な商業施設が立ち並ぶ駅前は多くの人で賑わっていて、コンコースを抜けて改札に向かおうとすると、改札の周辺に人だかりが出来ていた。
『お客様にお知らせいたします……』
え?
『ただいま◯◯駅周辺での落雷による停電の影響で電車の運行を見合わせております。運転再開時刻は──』
◯◯駅は僕の家の最寄り駅だ。確か側に変電所とかあった気がする。これは運転再開までかなり時間がかかりそうだ。
他に乗り換えられる電車もないし、バスに乗って遠回りで帰ることも出来るけど、多分人が溢れかえっていることだろう。ここは少し時間を潰す方が得策かもしれない。
「えっと……仙北さん」
「はい、どうかしましたか?」
「……カラオケ、行く?」
「はい。まだまだお話したいことはたくさんありますので」
仙北さんはニコッと微笑んで、水晶玉を持ったまま僕についてきた。
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