なんて事しやがる
「新卒を採用するのは本当に困るよ。必死に良い人材だと思って採用しても、現場から“使えない”とか“人事は何してんだ”とか言われまくりだからな。しかも、3割ほどは3年以内に辞めていくんだ」
学生時代からの親友と行きつけの居酒屋で二人きりで呑んでいる時、つい職場での不満を口にしたのが始まりだった。
「なんだ? おまえの会社、まだ圧迫面接とかやってるのか?」
「そんなことはしないさ。企業にはイメージが大事だからな」
彼は卒業後大手に就職したものの、6年後にあっさり辞めて起業したが、この不況にも関わらず、売り上げを伸ばし続けているそうだ。
「ま、そりゃそうだ。面接にくる学生ったって家族や親戚、友人がいるんだからネットにウワサを流されれば困る。あんなのは策として下の下だ。
一時期に流行った“ニューヨークにピアノの調律師は何人いますか”とかもやってないだろうな? あれも意味のない質問だってオチが着いたよな」
友人はイタいところを突いてくる。
「やったよ。今でもやってる。理由は意味不明なクレームを付けてくるお客が無くならないから、そういったことに対する柔軟な対応能力を見るためだ。だけど、その理由を説明してから自由に考えてくださいと言うようにしてからは問題は起きてない」
「ふーん。じゃあさ」
甘鯛の酒蒸しをつつきながら冷やの純米酒をひと口すすり、笑いながら顔を向ける。
「悪い案があるんだが、聞きたいか?」
彼のこの言い方は何か考えがあるんだろう。昔から、彼の発想は良しにつけ悪しにつけ独特なのは知っている。私はさも興味があるかのように続きをうながすと、上機嫌で彼は続ける。
「面接以外にグループワークはするのか?」
「するよ。面接ではほとんどの学生がマニュアル通りのテンプレしか話さない。結局は無意味な答えばかりだからな。課題を与えて自分たちで話し合いをさせるほうが能力を判断しやすい」
近江牛のタタキわさび醤油和えと、純米吟醸のぬる燗が五臓六腑にしみわたる。
「だよな。そうやって優秀そうな学生を選び出すんだ。だけど、選ぶお前たちが勘違いして罠にはまっている可能性もある。そもそも罠は仕掛けてないんだろ?」
「勘違い? 罠ってなんだ?」
「就活の評価がバッチリってやつを選んでいるつもりなのに現場から文句が出るんなら、おまえたちが学生にダマされているってことじゃないか。
つまり選ぶ側の奢りさ。無意識に“俺たちが選んでやっているんだ”って考えがあるのかも知れない。
今時の学生は頭がいいんだ。その心の隙をつく面接官受けする応対もバッチリ対策してるだろう。だったらちょっとはその化けの皮を剥がさないといけないだろう?」
酒がまわってきたのか、多少決めつけている感がありながらも、面白そうだったので、だんだん歯に絹を着せず饒舌になる彼の話をだまって聞いてみることにした。
「まずおまえの会社で、評判のいいお局様を何人か選んで面接会場の受付にする。そして受験者に白紙の名札を渡して“氏名のみご記入ください”と伝えて別の広い机で書かせるんだ。
評判いいお局ってのは、新入、古参含めて初対面で相手の性格を把握して、今後の仕事が円滑になるよう配慮する能力があるんだ。悪いが男にその能力を持つのは少ない。
ネット上に“女性蔑視してるオレカッコイイ”とか“まーん(笑)”なんて書きこむヤツなんて入社させたら目も当てられない。受付時に特にひどい奴らをチェックさせればいい。
そして、“名前しか書くな”って説明している名札に出身大学やほかの余計な情報を書きたがるなんて、ひとの話を聞かないヤツだし、上司の学歴をバカにして指示を聞かない自己顕示欲の強いヤツかもしれない。それ以外に話は聞いていても、書いているヤツを見て、周りに流される主体性を持たないヤツだと考えられる」
説明を終えて一息つき、また近江牛に箸をのばす彼の話を要約すると、“優秀な者を選ぶ”のではなく「問題のありそうなのを落とせ」そのためには、面接前の一番緊張しているあいだに「気づかないうちに性格が出てしまう場面を用意しろ」とのことだろう。
「しかし、性格が悪くても仕事は出来る者もいるけどな」
「そこはお前の会社のさじ加減でいいんじゃないか。あくまで本番は実際に仕事をさせてみることで、グループワークの内容次第だ。グータラや太鼓持ちはそこで見極めろ」
そうだなと思い焼酎に口をつけたが、少し冷めてしまっていた。
「それで、肝心のグループワークはどうするんだ?」
尋ねると、彼はまた饒舌をふるい始める。
「くじ引きで5人1組の班を作り、各班に1人面接官立ち会いのもと、今、お前の会社で本当に困っている問題の解決案を話し合わせ、何らかの結論を出させろ。ドシロウト案はまぐれでも的確な意見を出す。だから、面接官には一切口を出させるな。
それから、最初の30分は自己紹介の時間をとり、一旦休憩させて次の1時間を討論にまわせ」
「なぜかと言うと……」一息ついて、ウツボの唐揚げを注文しつつ、純米酒を猪口半分だけ口にする。
「うはっ、これ美味い! おまえちょっと食ってみろ」
キワモノを注文して美味ければ他人の皿に料理を乗せてくるあたり、彼は学生の時のノリを取り戻している。そこそこ酔っているのだろう。
気の置けない親友の行動に懐かしさと嬉しさを覚えながらも、少し躊躇しながら口へ運んだそれは、フライドチキンのうま味をより凝縮しながらもさっぱりした味わいで、思わず私も追加注文してしまった。
「最初はたがいにどこの誰か分らない。まあ、出身大学を書いている自己主張の強いヤツはもちろんだが、どうしても受かりたいヤツはイニシアチブを取りたがる。初めの30分はリーダー格の取り合い、どれだけ自己主張できるか、つまりは本気度が計れる。それとも他者をフォローするかの性格が分かる。
そして休憩後の1時間が始まる前にこう言ってやるんだ。
“提出された案によっては、班の5人全員の合格もあります”ってな。さっきまで競争相手だった人間がいきなり味方になるってことだ。それを理解できないヤツは相変わらず自己主張し、理解したヤツは班を円滑に運ぶよう配慮を始める」
確かにそうだ。企業とは結局、人と人との協力によって支え合うものだ。1人の傑出した能力は確かに凄いだろう。だけどそれが和を乱すものでは周囲から疎ましいものになりかねない。
「一緒に難問に立ち向かい、討論した5人の通知に“あなたがた班の話し合いは素晴らしかった。全員合格しました”と書かれていたら、辞退しづらいぞ。
その上、本当に全員同時入社なんてしてみろ『一生の友達』が完成だ。
意図的に連絡をとりやすい部署に配置してやれば、たがいを意識して簡単に辞められる訳ないだろう」
「なるほど。そりゃあいいかもな」
「だろう? もっと細かいことは社内で詰めればいい。社風ってものがあるんだからな。あと、コネ入社は知らん」
私は彼の提案を元に、より実現可能なものとなる企画書を仕上げて人事課の会議へ提出すると、新年度の採用試験がこれに基づいたものへと正式採用された。
「どうだった?」
いつもの居酒屋で彼が尋ねる。
「まあ、優秀な人材は確保できたよ。各部署からの文句も例年より少ない。だけど、期待していたほどの飛び抜けた人材はいなかったな」
「そりゃそうだろ。オールマイティな学生ってのは、そんなもんだ」
彼は分かっていたように笑いながら、純米酒を呑みつつ、炙りタコの刺身を注文する。
「人事部ではこれまでにない成功だとして好評だったぞ」
「世の中ってのは、おまえの会社のように優秀なやつらが集まって、しっかりしてくれるからちゃんと動くからな。
だが技術革新、イノベーションは時に世に言う奇人変人が起こしたりもする。それを受け入れられる公的施設や、金銭的に余裕のある研究施設に入れるのは、ほんの一握りしかいない。そしてそこからあぶれる変わり者の中には結構面白いやつらがいるんだが、俺の会社のようなところには、まだ入社希望者そのものが少ないため、面白いやつに出会えるチャンスが少ない」
刺身を一切れ小皿へ移し、わさびを乗せて口に運びながら、彼は自分のカバンの中へ手を伸ばす。
「だから社長には俺から礼を言っておくよ。来年もよろしくって」
カバンの中から、今年送られて来て不採用とした個性的な学生のエントリーシートの束を取り出して見せた。