第99話 魔法少女の衣装
テレシー岡田の下で、アルシアの特訓が始まってから、一週間が経過した。
アルシアの体力はみるみる上がり、最初に課せられたランニング、腕立て、腹筋、背筋、スクワットの3セットも難なくクリア出来るようになった。
しかもそれだけに留まらず、テレシー岡田が開発した『テレシー流喧嘩殺法』の練習も取り組んでいる。テレシー岡田は、アルシアに指示を出しても、何とか答えようとする姿勢と、すぐに達成してくるので教え甲斐があり、どんどん指導に熱が入った。
もともとアルシアは、努力家でSランク候補になるぐらいの実力者だから、こっちの世界でも発揮するのは必然的な事かもしれない。
一方その頃、アルシアの魔法少女計画を立案していた無垢朗とカリバーは、無垢朗に研究室で、魔法少女の衣装を品定めをしていた。
その衣装は、白とピンクを基調とした、スカートふりふりの可愛いものであった。
「無垢朗君、ついに出来たんだね。なかなか可愛いと思うよ」
「うーん、アルシアちゃんなら、ふりふりじゃなくて、しゅっとしたミニスカートで、おへそが見えるような、ちょっとセクシーな方が似合うと思うんだ」
「確かにそうかもしれないね。ふりふりは真由君の方が似合いそうだね」
「そうだね、真由たん用も作っておくよ。でも、色が被るから真由たんは、水色がいいね。あと、それからステッキだね」
無垢朗は衣装と一緒に入っていた、ピンク色のハートマークが乗ったステッキを手に取った。
「このハートの2つの先端が、スタンガンのように放電して、さらに稲妻みたいに飛ばす事も出来るんだ」
「それは凄いよ。僕も欲しいぐらいだね」
「でも、僕がイメージする魔法少女とは、なんか違うんだよね。もっとファンタジーな感じが欲しいんだけど」
「なら一層のこと、ミリタリーにするかい? 最近、ハマっているんだよね」
「おいおい」
カリバーは、ダンジョン系のゲームもしてるが、最近はミリタリーのゲームにもハマっている。
「ねぇ、カリバー君、魔法少女の格好をして魔法が使えないのは、やっぱり嫌かな?」
「理想を言えばさっきのステッキに、魔力をプラスして、攻撃力を上げれば最高なんだけどね。少ない魔力で大きな効果が得られるからね」
「結局、魔力に辿り着いてしまうんだね……」
どうしようもないこの問題に辿り着いてしまうと、2人は溜息をついた。
そもそも可愛いからと言って、魔法少女にすれば、当然ながら魔法を連想させてしまう。当初は魔力を失ったアルシアの為に、何か別の形での手助けだったはずが、これでは矛盾してしまっている。
2人はその矛盾に気づかされてしまったのか、衣装をしばらく見つめていた。
そして、カリバーは腕を伸ばし、軽くストレッチをすると、無垢朗も釣られるように身体をほぐした。
「そう言えば、真由たん帰って来ないね。向こうは大変なのかな?」
無垢朗は話題を変えて、話しかけた。
「うーん、転移させる『テレポート』は相当魔力を消費するからね。気軽には来れないと思うよ」
「確かその魔法はSランクしか使えないんだよね? もしかして真由たんは、もう凄い魔法使いになったのかな」
「いや、それは無いと思うよ。この前のテレポートはミリちゃんという子がやっていたからね」
「ミ、ミリちゃんだとーー!!?」
ミリちゃんと言う単語聞いた瞬間、無垢朗のテンションが急激に上がった。
「ミリちゃんって、前に言っていた子だよね? カリバー君がちゃん付けで呼ぶくらいなら、もしかして凄い美少女なのかい!?」
「ちゃん付けしないと怒るからね。そうだ、僕の魔法の『ビジョン』で見るかい?」
「見れるのー!? そ、それは是非お願いします」
カリバーは、魔法の『ビジョン』を発動した。すると、プロジェクターから投影されたような映像で、立体的に、ミリちゃんの全体像が映し出されていた。
「うぉーーーーー!! なんだこの人知を超えた可愛さはー!!! はっ! これは、ヤバい!! ヤバ過ぎて僕のキャラが変わりそうだ」
「凄い反応だね。ミリちゃんは可愛いものが好きだから、真由君を気に入ったのかもしれないね」
「ミリたんと真由たん、あああああー!! いいなー!! いいなー!! あああー!! あっ! という事は、この前、眩しくて真由たんの声しか聞こえなかったけど、あの光の中に居たということだよね? ああー!! 一瞬でもここに来ていたのかー。 ミリたんに会いたい」
「あんまり魔力を使いたくないから、もう解除するよ」
「あ……」
カリバーが魔法を解除すると、無垢朗のテンションは急落した。そして、カリバーは何事も無かったかのように話を戻した。
「魔法少女の件、衣装を見せて、アルシア君に話してみたらどうかな?」
「そうだね、あいみ君に電話して、仕事の後にここに来てもらうよ」
無垢郎はスマホを取り出して、あいみに電話した。
「そのスマホって言うやつ、便利そうだね。僕も欲しいね。和田さんに言ったらくれるかな?」
「スマホゲームがしたいのかい?」
「おお! やっぱりスマホでもゲームが出来るんだね」
「やっぱり、ゲームなんだね」
こうして、カリバーはゲームをやり続け、無垢朗は自分の仕事をする為、部屋の奥の仕事部屋に戻った。
アルシアは、いつものようにテレシー岡田の下で稽古に励んでいる。仕事が終わる17時までは、あと3時間というところだ。
「さぁ、アルシアちゃん、遠慮なくあたいに拳を打ってきてね」
「はい!」
ちょうどこの時間までは、基礎体力をメインでトレーニングをして、最後に『テレシー流喧嘩殺法』を教わっている流れだ。
「いいよ、アルシアちゃん! 日を追うごとに良くなっているよ」
アルシアの拳を打込む姿は、まだプロのようなキレさはないが、ちゃんと型にはまった動きをしていた。こんな短期間でここまで上達出来たのも、単に努力だけでなくセンスもあったのだろう。
最初の頃に、あまりにも不甲斐ないせいで蔑んでいた門下生も、アルシアの一生懸命な姿に、応援するようになりアドバイスを送っていた。
そして、17時になるとテレシー岡田の終了の掛け声がかかり、解散になった。すると、テレシー岡田はアルシアに駆け寄り、声を掛けた。
「アルシアちゃん、ずっと身体を休まず酷使したでしょう。だから、明日はお休みでいいわよ」
「いいえ、早くみんなに追いつきたいので、明日も頑張ります」
「無理は駄目よ。休まないと身体を壊しちゃうから。明日はストレッチをして、あたい特製の『テレシードリンク』を飲むといいわ」
「分かりました。そうさせて頂きます」
アルシアは道場を出て、組織内の施設でシャワーを浴びて着替えた後、あいみのいる部署に向かうと、あいみはパソコンで何やらデーターを打込む作業をしていた。
「ごめん、アルシア。もうすぐ終わるから」
「うん、気にしないで」
あいみの仕事は事務職で、普通のサラリーマンと同じ時間帯で仕事をしている。
「お待たせ! 無垢郎さんがアルシアに見せたい物があるって言ってたから、研究室に行くけどいいかな?」
「見せたい物?」
「私も分からない」
そして、あいみとアルシアは無垢朗の研究室に向かった。
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