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第97話 武道家テレシー岡田

 組織に入る為には、厳重な警備に守られた専用のエレベーターで地下に向かう。

 そして、いくつかの通路歩くと、和田司令官が管轄するエリアがあり、そこの中心部に部屋がある。

 

 アルシアとあいみは、和田司令官に相談する為、部屋に入った。



「「失礼します」」



 2人が挨拶して入ると、和田司令官はパソコンをいじりながら顔を上げた。



「おお、アルシア君、その服よく似合うね」

「はい、ありがとうございます」



 和田司令官は仕事をしている時は、凛としているが、アルシアの前では柔らかくなる。



「和田司令官、アルシアの事なんですが――」



 あいみは和田司令官に、アルシアがもっとこの世界の事を知りたいことと、ここでお手伝いしたいことを相談した。すると、司令官はすぐに快諾し、あいみの助言もあって、まずは基礎体力をつける事から始める事になった。


 これまでアルシアは、日常までも魔力に頼っていたので、体力はあまり無い。

 でも、これがアルシアの世界では普通で、体力よりも魔力の方が大事だからだ。


 そして、テレシー岡田という武術家が、講師として組織に常駐しているということで、アルシアはそこで面倒をみてもらうことになった。



 こうして今日から、武術を学び、終わった後は、あいみと一緒に帰宅するという流れになった。


 アルシアは和田司令官に言われた場所をあいみに教えてもらい、一人で向かった。

 

 するとそこは道場で、道着やジャージを着た人が10人程居て、練習に励んでいた。そして、その中の講師と思われる人が、アルシアの姿を見つけると、すぐに駆け寄って来た。



「ねぇー、あなた、アルシアちゃんなの? 和田ちゃんから聞いているわよ」

「あっ、はい。今日からお世話になりますアルシアです。よろしくお願いします」

「あら~、変わった名前ねぇ。あたいはテレシー岡田よ。よろしくねぇ」



 テレシー岡田の見た目は筋肉質で、お洒落なおじ様という感じでとてもダンディーだ。でも、話し方はお姉で、アルシアも見た目とのギャップで動揺した。


 するとテレシー岡田は、アルシアの背中を押すように、道場へ連れて行き、手をパンパン叩きながらみんなに練習の中断させた。



「みんなー注目よ。今日から新しいメンバーが増えるわ。アルシアちゃんよ。みんな仲良くするのよ」

「ア、アルシアです。よろしくお願いします」



 アルシアが挨拶をすると、みんなは拍手をして歓迎した。そして、各自に練習に戻り、テレシー岡田はアルシアに待つように指示すると、一旦道場を出た。


 周りが練習を再開する中、何もする事が無いアルシアは、落ち着かない様子でテレシー岡田が帰って来るのを待っていた。


 すると、テレシー岡田は道着を手に持って、道場に現れた。



「その格好じゃあ、動きにくいからこれに着替えましょうねぇ」

「あの、これは?」



 アルシアは見た事も無い道着に、これが着る物なのかさえ分からなかった。



「道着、着た事なぁーい? シャツの上から羽織るだけでいいのよ。更衣室は道場の隣だからねぇ」

「は、はい」



 アルシアは道着を受け取ると、道場を出て隣の更衣室に入った。



「なんか変なの。これでいいのかしら」



 見たことも無い道着に、戸惑いながらもなんとか着れたが、帯の締め方が分からず、締めずに再び道場に戻って、テレシー岡田に聞くことにした。


 すると、テレシー岡田はアルシアに説明しながら帯を結んだ。



「よし、これでいいわねぇ。今日は準備運動した後に筋トレするわよ」

「準備運動? 筋トレ?」

「ラジオ体操でも何でもいいわよ。筋トレの内容は後で説明するわ。あたいはちょっと、他の子の面倒みてくるわね」



 テレシー岡田は、他の門下生に指導をする為、その場を離れた。しかし、アルシアはラジオ体操がどんなものか分からず、茫然と立ち尽くした。

 アルシアの世界では、実技はほぼ魔法なので準備運動する概念すら無い。


 でも、このまま何もしないのは不味いと思ったのか、手足を伸ばしたり、身体を曲げたり、傍から見ればぎこちないが、アルシアなりに身体をほぐしてみた。


 そして、しばらくするとテレシー岡田が、苦笑いしながら戻って来た。



「アルシアちゃん、もう少し頑張ろうねぇ」

「はい、すみません」



 アルシアは魔法使いとして、幼い頃からの努力で、Sランク候補になった実力者であったから、テレシー岡田に言われたことは、悔しく感じたかもしれない。



「筋トレは、そうねぇ、まずは壁から壁までのランニングを往復10回と腕立て、腹筋、背筋、スクワットを10本ずつを3セットやってみようか」


「10回!!」



 アルシアはあまりにもハード過ぎる内容に、思わず声を上げてしまった。



「これぐらいは平気よねぇ。さぁ、頑張りましょうねぇ」

「は、はい……」



 アルシアは少し不安げな表情で、走り出した。恐らく、絶対に達成出来ない内容だから、ゴールが見えないのであろう。

 

 それでも、一生懸命に走ったけれど、ペースは早歩きぐらいだった。



「アルシアちゃん、もっとペース上げようねぇ」

「はぁー、はぁー、ん、はい」


 

 テレシー岡田の指導が入ると、アルシアもペースを上げようとするが、10往復する前に息が上がって、逆にペースが落ちてしまい、立ち止まってしまった。

 その様子を見た一部の門下生は「おい、マジかよ」という陰口や、笑う者もいた。



「アルシアちゃん、ランニングはもういいわよ。腕立てしましょうねぇ」



 アルシアは指示通りに腕立てを開始するが、ランニングの疲労もあって、一回やっただけで息が上がり、腕も震えてそれ以上出来なかった。そのせいで周囲からは冷ややかな視線が向けられ、アルシア自身も分かっているようだ。


 ここに来る門下生は、初めからそこそこ体力がある人なので、余計にそうさせてしまう。しかも、テレシー岡田は、アルシアの事情を聞かされていないようで、アルシアには厳しいプランを立ててしまっている。



 ――そして、17時になり、トレーニングは終了した。アルシアの体力で、終了の時間まで続けていた事は、本来なら評価されるべきなのだが、そういうわけにはならなかった。

 むしろ、想像以上に出来なかったアルシアに、テレシー岡田は掛ける言葉が見つからず、無難な対応になってしまった。


 アルシアは挨拶を済ませると、道場を去り、あいみのいる部署まで戻ろうとした時、あいみの方から迎えに来た。



「アルシア、お疲れさま。どうだった?」

「……お疲れさま」



 アルシアの様子を見れば、誰が見ても一目瞭然だった。



「まぁ、初日だし、この世界にまだ慣れてないわけだし、大変だったでしょう?」

「うん……」

「魔法の無い世界なんだから、仕方ないよ。今日はもう帰ろう」

「うん……真由も……魔法使えなくてこんな苦労していたのかなぁ……」



 その後も、あいみがたわいもない話をするが、アルシアは上の空であまり会話にならないまま、あいみの家に帰宅した。

 

 アルシアは、初めてこの世界の洗礼を受けたのだろう。

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