第95話 ガールズトーク
シャワーから上がってきた2人はまったりとソファーに掛けていたが、あいみの失言により、急遽『恋バナ』する流れになった。
「ねぇ、アルシアさん、急に顔が赤くなっているけど、やっぱり気になる人いるの?」
「そ、そんなことないわ。さっきのお湯のせいかしら。ははは」
アルシアは何か誤魔化そうとしているようだが、顔に出てしまっているのが明白だった。
「いや、絶対いるでしょう! 顔に書いているよ」
「もーう、あいみさんたら、からかわないで」
アルシアは少し拗ねた感じで返事をしたが、逆にその態度が余計にあいみの興味を引いた。
「ねぇ、どんな人なの?」
「うーん」
「アルシアさんが話してくれたら、あいみも話すから、ね? お願い!」
「うーん、それなら……。その前にさん付けはもうやめない?」
「そうだね。あいみの事も呼び捨てでいいから」
アルシアは、さん付けに話題が逸れた事で、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「私ね……年下の……」
「おお! 年下の?」
「お……」
「お?」
アルシアは深く息を吸い込んだ。
「お、女の子が好きに……なってしまったみたいなの」
「えーーーーーーー!!」
あまりにも衝撃的な発言にあいみは、思わず大きな声で驚いた。そして、落ち着きを取り戻しつつあったアルシアは、一気に顔色が真っ赤に染まっていった。
「そんなに驚かないでよ。やっぱりこっちの世界でも、変かな……」
「ごめん、ごめん、いきなり過ぎて驚いた。うん、まぁ、最近なら別に変って事はないと思うよ」
「私も恋愛の相手は男性だと思っていたわ。けど、その女の子だけは特別な、何ていうか……男性みたいな頼れる感じがして……」
「えっ!? それってもしかして……」
あいみは何か大事な事を思い出したかのように冷静になった。
「その女の子って、真由の事?」
「あいみさっ、あいみも知っている人だよね。真由って、最初は不思議な女の子と思っていたの。見た目は可愛いのに、無茶な事をするし、私より年上みたいに頼もしい女の子だったわ。だから余計に可愛く思えて……。でも、いざと言う時は身体を張って助けてくれたし、私が抱え込んでいた悩みも、真剣に向き合ってくれて……」
「そうなんだ……」
あいみは、好きな女の子が真由だった事に驚いたが、アルシアが惚気るように真由の事を語り出したので、段々と頷くだけになった。
「多分、その時に好きになったと思う。だから時々、真由が男だったらいいなっと思う事があるわ。いや、でも、真由は抱きしめたくなるぐらい可愛いし、うん、女の子でも私頑張れると思う。うん」
「何をだぁ?」
「だから、真由は女の子だけど、それでも私は好きでいられるという事」
「はっはっはー、そんな事気にしなくても真由は男だよ。あっ」
「え?」
つい、ボケに対するツッコミのようにあいみは、反射的に言ってしまった。それに対して、惚気ていたアルシアも流石に聞き捨てならないようだ。
「ねぇ、あいみさん、真由が男ってどういう事?」
「アルシア、怖いからさん付けはやめて」
「確か、浩二君って言ったっけ? あいみも和田司令官も、真由のことをそう間違えていた。私、表には出さなかったけど、結構気になっていたんだから。本当の事を教えて」
ここまで言われると、あいみもこれ以上隠す事が出来なくなって観念したのか、ため息を漏らした。
「分かった全部話すよ。真由の正体は、21歳で浩二君という名前の男の子。あいみの先輩でもあるわけで……」
「やっぱり、男の子なんだ~。しかも年上~」
「嬉しそうだね。しかも疑わないんだー」
「でも、どうして可愛い女の子になってしまったの?」
「それはあいみ達のせいで……でも、一番の原因は無垢朗君とカリ……いや、何でも無い。とにかくあんまり詳しく言えないけど、浩二君は巻き込まれただけで、何も悪くないから。なんか騙してしまった事を、浩二君に代わってあいみが謝る。ごめんなさい」
あいみは頭を下げた。
「いいのよ。あいみ、頭を上げて」
「でも、さっき魔水浴の話していたけど、裸とか見られてない?」
「見られてたけど、それは私の方からっ、ふっ、あはははー」
アルシアは喋っている最中に、突然思い出し笑いが止まらなくなった。
「あはははー、そうだったのー、あはははー」
「アルシア、どうしたの?」
「あはははー、ごめんごめん。魔水浴の時のことを思い出してしまって」
アルシアは目に涙を浮かべて、腹の底から笑っていた。恐らく、この世界に来てから、ここまで笑ったのは初めてだろう。
「はぁー、ふぅー。あのね、魔水浴の時に女の子4人で一緒に入るつもりだったのに、真由だけが拒んで一人で入ったのよ。あの時は『なんでだろう?』っと思ったけど、そういう事だったのね。ふふふ」
「無垢朗さんじゃなくて良かったよ。あれ? でもそれならどうして見られたの?」
「あと2人の女の子、ミルネとミリちゃん達が、真由の行動を不審に思って、一人で入っているところに突撃して、拘束魔法を掛けて問いただそうとしたの」
「あははっはー、何それ! 楽しそう! あいみもその場に居たかったー」
あいみは腹を抱えて笑うが、アルシアと笑いのツボは違った。
「楽しそう? そんな事言ったら駄目よ」
「あはは、だって、あの先輩がお人形さんみたいに可愛くなったから、悪戯したくなるよ。そうだ! 先輩が男だった時の写真見る?」
「写真?」
あいみはそう言うと、寝室の方に移動して、ベッドの下の収納スペースからアルバムを取り出し、アルシアの元へ行った。
そして、そこから何枚かページを捲り、組織のメンバーで花見をした時に撮った浩二だけが写っている写真を取り出し、アルシアに見せた。
「はい、これが浩二君だよ。真由から想像つかないでしょう」
「はっ……か、格好いい……」
アルシアは両手で写真を持って、顔赤くししながら、視線をそらさず、真向から見つめていた。
「先輩、モテるから早くした方がいいよ。この前、彼女の誕生日に突然組織の呼び出されて、そのまま一週間潜入捜査したせいで、ぎくしゃくして別れたみたいだから、今は居ないはずだし」
「うーん、浩二君もいいな~」
アルシアの視線は相変わらず、写真に写る浩二をずっと見つめていた。
「その写真上げるよ」
「えっ! いいの?」
「その代り、真由が男だった話は内緒にしておいてね。先輩の事だから、いつか自分から打ち明けるかもしれないし」
「分かったわ。約束するね。今度はあいみさんの話を聞かせて欲しいわ」
「うん、ちょっと恥ずかしいけど、教えてあげる」
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