第93話 最高の選択肢を
和田司令官は上機嫌で話していたが、油断して浩二の名前を出してしまった。
あいみも司令官も、真由として一緒にいたのは、ほんの数日でしかなかったせいで、真由よりも浩二が普通なのだ。
「いやいや何でもない。はっはっはー」
「和田さーん」
あいみは焦った表情で、和田司令官の腕を両手で軽く掴むと、察したのか和田司令官は急遽話題を変えた。
アルシアの方は、また浩二の名前が出てきても、まだ理解はしていないように見えるが、少し複雑な表情をしている。
「アルシア君、今日は外に出たみたいだけど、この世界はどうだった? 気に入ってくれたか?」
「あ、はい、驚き過ぎて疲れました。お金まで出して頂いて、ありがとうございました」
アルシアは深く一礼した。
「いいんだよ。今度働いて返してくれたら」
「はい、分かりました。必ず返します」
「いやいや、冗談だからね。今日はゆっくりと休んでくれ」
和田司令官は冗談のつもりだったが、アルシアは本気でそうしようと思っているぐらい、丁寧に返事をしていた。
――そして、その頃、無垢朗の研究室では、無垢朗とカリバーとポンタの3人は、一台のパソコンを取り囲みながら、何やら話し込んでいた。
「魔法少女だったら、この衣装がいいよ」
「アルシア君ならこっちが似合うと思うよ」
「吾輩はそれですね」
3人はネットで魔法少女の画像を検索して、アルシアの衣装を考えていたが、皆の好みが色から服のタイプまで異なっていた。
「みんな好みが割れたね」
無垢朗が頭を掻きながら苦笑した。
「アルシア様がお決めになられた方が、いい気がしますが」
「それはもっともだね。そもそも、魔法少女になりたいかどうかだけど」
「そうでしたね」
無垢朗とポンタの会話のを黙って聞いていたカリバーは、静かに口を開いた。
「でも、そうやってアルシア君に選ばせて上げられる選択肢を、用意する事に意味があるんじゃないかな?」
「確かにそうだね。なら、最高の選択肢を用意しないとね」
「最高の選択肢と言ったら、魔力を取り戻すことになるけど、流石にそれは無理なんじゃないかな?」
「一応、僕は魔力を取り戻す方法も考えているよ。でも、見当すらつかないけどね」
ゼロから魔力を復活させるのは、カリバーは不可能だと諦めているが、無垢朗は疑似的に魔動三原則を再現する道具を製作する一方で、魔力の復活の方法も考えていた。
そして、その後も3人は魔法少女のモデルとなる画像を検索して、話し合いは続いた。
それからしばらく経つと、研究室にドアをノックしてあいみとアルシアが入って来た。
その瞬間に、カリバーは魔法で消えるように奥の部屋に移動した。その咄嗟の俊敏さは、流石Sランクと言ったところだ。
無垢朗も別に悪い事をしているわけでもないが、咄嗟にパソコンの画面をゲームに変えた。
「無垢朗さん、アルシアさんにスタミナドリンクを飲ませてあげたいんだけど、一本ちょうだい」
「それなら奥の部屋に……いや、僕が取って来るよ」
「ありがとう」
無垢朗は奥の部屋にカリバーが居る事を思い出し、慌てて取りに行った。
そして、戻ってくるとあいみの方に近寄り、小声で話しかけた。
(カリバー君もいるんだから、気を付けてくれよ)
(あ、ごめん)
そう言うと無垢朗は、スタミナドリンクを手渡した。アルシアはそのドリンクが何なのか理解していないような様子で、一応受け取った感じだ。
「アルシアちゃんとは、初めましてになるね。僕はこの組織の研究員の戸田無垢朗っと言うんだ。君を全力でサポートするように、和田司令官から言われているから、いつでも頼ってくれていいんだよ。そのドリンクは、疲労回復の効果があるから飲んでくれよ」
「あ、はい、お世話になります。えーと、私はアルシアです」
アルシアは自己紹介でどもってしまった。というのもアルシアの世界では、名前を紹介する時に「Aランクの――」とか「○○討伐隊の――」「魔法生産部の――」等の属性を頭に付けて、紹介するのが普通だ。
でも、今は何もない。
「ねぇ、アルシアさんは病棟に戻るんだよね? まだ部屋は用意されていないんだよね?」
あいみは無垢朗にそう問いかけると。
「もう退院許可は出ているけど、まだ用意されてないね。ご飯が食べれるようになったのは昨日の今日だし」
「だったら、あいみの家に泊めてもいいよね? アルシアさんもどうかな?」
「うん、あいみさんがいいなら、私も行ってみたいなぁ」
「和田司令官の許可が出ればいいと思うよ」
「吾輩はここにいます」
――こうして、あいみとアルシアは再び和田司令官の部屋に戻り、許可を貰いに行った。すると、二つ返事で許可が下り、さらに、あいみにアルシアが日本で生活出来るようにサポートするように命じられた。
そして、無垢朗の研究室には、あいみとアルシアが出て行った後、カリバーが奥の部屋から戻って来た。
「やれやれ、行ったみたいだね。無垢朗君、さっきの時に魔法少女の話をすれば良かったんじゃない?」
「どうせならね、衣装と攻撃が出来るステッキを作ってからの方が、喜ぶんじゃないかと思って」
「という事は魔法少女なら出来そうっという事だよね?」
「まぁーね」
そう言うと、カリバーはゆっくりと座りゲームを再開させると、無垢朗も奥の部屋に戻った。そして、ポンタは……。
「では、吾輩を抱いてゲームをして下さい」
「え、また……」
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