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第92話 この世界から見える希望

 あいみはつい浩二という名前を出してしまった。



「ごめんごめん、ボケてた。浩二君はあいみの友達の話だったから、アルシアさんには関係無かったね。あっははは」


「???」



 アルシアは真由の正体という発想は無かったようだ。



「あっ! そうそう、今日のお出かけは、アルシアさんがこっちで生活出来るように、あいみの上司の和田司令官から補助が出ているんだ。幾らかお金を渡しておこうと思うんだけど、財布も鞄も無いよね?」


「持ってないわ」

「じゃあこれから買い物に行きましょう!」

「いいの?」

「今日のあいみの仕事でもあるから、気にしなくていいよ」



 あいみとアルシアは喫茶店を出て、まず鞄を見に行くことにした。アルシアもこの世界に少し慣れてきたのか、電車に乗る時のようにあいみにしがみ付くことはなくなっていた。



 そして、お店に到着した。このお店は壁側にあるラックに、お洒落な色とりどりの鞄が置いてあり、さらに中央側のガラスケースの中には財布も売られていた。


 アルシアの世界にもこういったお店はあるが、品揃えと質感は明らかに劣ってしまう。



「こんなに細かくてお洒落な鞄は、初めてみたわ。店主が『デザイン』したのかしら?」

「違うと思うよ。ここは直接メーカーから取り寄せているみたいだけどね。アルシアさんって、デザインした人にこだわるよね?」


「だって、こんな凄い『デザイン』は、私の世界にいないわ。私の仲間のミリちゃんよりも上だもの」

「仲間にそんな凄いデザイナーがいるんだ」



 お互い『デザイン』の意味を取り違えているが、会話のキャッチボールは出来ている。


 


 ――その後、鞄や財布だけでなく、服や生活に必要な物まで購入した。そのお蔭で、アルシアもこの世界に少しずつ慣れていった。


 さらに、後半になると気持ちに余裕が出てきたのか、アルシアの方から色々とあいみに質問するようになり、次第に笑顔を見せる事が多くなった。



 そして、時間にして15時ぐらいになると2人は帰る為、駅の方に向かって歩いていた。あいみもアルシアも両手に買い物袋を下げて、少しお疲れの様だ。


 すると、一人の歩道にコスメのチラシを持ったお店の制服を着た、20代前半ぐらいの女性の店員さんが、2人にチラシを見せて話かけてきた。



「ただ今、コスメの新商品の無料体験のキャンペーンを行っています。是非、ご利用下さい」

「アルシアさん、やってみない?」

「コスメってなに?」

「ひっひっひー、やってみた方が早いよ」



 あいみはそのチラシを受け取り、アルシアを引っ張るように店の中に入った。

 店内には白を基調とした明るいお店で、化粧品が綺麗に並べられており、中央に鏡が付いたテーブルと椅子が何席かあり、店員さんとお客さんが話をしながら、新商品を試していた。


 そして、一つ空席があり、そこにアルシアを座らせた。すると、すぐに女性の店員さんがやって来て、新商品の説明をし始めた。今回のキャンペーンの新商品は口紅のようだ。


 

「このリップはコーラルピンクで、ひと塗りするだけでエレガントな女性に仕上がります。では、お試しという事で塗らさせて頂きますね」


「ちょっと待って!」



 店員さんが、口紅を持って塗ろうとした時、あいみが割って入ってきた。



「どうせやるなら、スキンケアからファンデーション……あと、アイライナーとマスカラも一緒にしようよ」


「分かりました。用意しますので少々お待ちください」

「アルシアさん、今の間に化粧室で洗顔しておこう」

「えっ? え?」



 アルシアは店員との会話が全然理解出来ず、あいみの言われるままに化粧室に連れて行かれ、それから、またこの席に戻って来た。

 

 そして、アルシアは店員にされるがままにメイクアップされていった。



「アルシアさん、すごくお洒落で可愛い!」

「これが私なの? 前の時と印象が違う……でも、可愛い……」



 アルシアの世界には鏡が無いので、魔法で自分の分身を作り出して確認するしかないから、あんまり自分の姿を見る機会が少ない。だから「前の時」と比べてという表現になるのだ。


 化粧をした事で、アルシアは口紅とパチッとした目で、綺麗な大人の女性の印象に変わった。



「どう気に入った?」

「素敵だわ……それになんか楽しい」



 アルシアは、しばらくの間鏡を見ていた。



「こちらの商品はいかがだったでしょうか?」

「本人も気に入っているみたいだし、それ全部買います」 

「ありがとうございます。セットでお買い上げのお客様には、こちらの化粧品ポーチもプレゼントさせて頂きます」



 そして、化粧品を購入すると2人はお店を出て、再び駅に向かって歩いた。



「ねぇ、アルシアさん、袋から鞄出してみたらどうかな?」

「ここで?」

「うん、お財布とポーチと一緒に入れてさ」



 アルシアは、言われるままに紙袋から鞄を取り出しして、肩に掛けてみた。



「なんかもうすっかり、この世界の住人みたいだね」

「ふふふ、そうかな。でも、こんなに歩いたのは初めてだわ」

「えっ!? それはもっと運動した方が……」



 アルシアは少し笑みを浮かべて立ち止まった。



「ねぇ、あいみさん。今日のこれまでの出来事、全部含めても魔法は一切使ってないの?」

「もちろん。だって、この世界に魔法なんて無いもん」

「ほんと不思議……ポンタの言う通り『奇跡の世界』だね」

「そうかな? あいみからすれば魔法がある世界の方が、不思議だけど」



 今のアルシアの表情は、何か自信を取り戻したように力強くなっていた。

 それは魔力を失って絶望しか見い出せなかったのが、この世界の事を知って、希望を抱き始めたのかもしれない。




 ―ーこうして、2人のお出かけは終わり、組織に帰った。

 

 組織に戻ると、2人は和田司令官に報告するため、部屋に向かった。一応、このお出かけも組織の仕事の一環になる為だ。


 和田司令官は専用の個室を持っていて、通常はここで業務をこなし、指令センターともオンラインで繋がっている。また、この部屋で複数人が集まって仕事が出来るように端末も用意されている為、結構広くなっている。


 そして、あいみとアルシアはこの部屋にノックをして、中へ入った。すると、和田司令官はアルシアの姿を見ると、すぐに自ら駆け寄った。



「いやー、アルシア君、初めまして。この組織の司令官の和田だ。もう外に出れるようになったんだね。体調は大丈夫だったかな?」


「はい、大分良くなりました。感謝してます」

「はっはっはー、いいよいいよ。浩二君も向こうではお世話になっているわけだしな」

「浩二君?」

「あっ」


お読み頂き、ありがとうございます。


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