第91話 アルシアの魔法少女計画と初めての世界
無垢朗はポンタの提案の話を聞く為、カリバーを起こした。突然起こされたカリバーは、寝ぼけてはいたが、事情が分かると目が覚めたようだ。
「朝からすみません。昨晩アルシア様の様子を見ていて、いい解決方法を発見しました」
「それはどういった方法だい?」
「魔法少女です」
「「えぇぇぇぇ--!!??」」
無垢朗とカリバーは、ポンタの発言に声を出して驚いた。しかし、ポンタはさらに話を続けた。
「昨日の夜に放送していた『魔法少女ラムル』を見て、変身シーンや、戦闘シーンにアルシア様は感動していました。だから、魔動三原則を再現するよりも、魔法少女ラムルのようになる方が喜ばれると吾輩は考えました」
「そのアニメなら僕も見たよ。可愛いよね。でも、僕は魔法使いじゃないから、どっちがいいかは判断出来ないよ。カリバー君ならどうだい?」
「僕も昨日見たけど……うーん、魔動三原則と言っても装置に頼るから完璧じゃないし、アルシア君なら自分の魔力でしたいだろうね。でも、アニメのような魔法少女は僕の世界には無いからね。だから、魔法少女に憧れているならアリだと思うよ」
無垢朗はしばらく考え込んだ。
「よし分かった。やってみよう。ある程度目処が立ったら、アルシアちゃんに意思確認した方がいいね」
「僕も協力するよ」
「ありがとうございます。きっとアルシア様もお喜びになるでしょう」
こうして、秘かにアルシアの魔法少女計画が進行していくのであった。
「とりあえず、昨日は徹夜だったから、僕は寝るよ」
「ではカリバー様、吾輩を抱いてお休みください」
「えっ、やっぱりそうなるんだね」
一方その頃、あいみとアルシアは組織の建物から外に出ていた。外に出ればそこはもう高層ビルが立ち並び、多くの人が歩道を往来し、車の交通量も多い所だ。
その魔法の世界にはあり得ない光景と騒音で、アルシアは足が竦んでしまい、あいみの手を握った。
「怖がらなくても大丈夫だよ。あいみがちゃんとエスコートするから」
「あ、ありがとう。もう何がなんだか、分からなくて。こんな『デザイン』見たことないし、どれだけの魔力が必要なのか想像出来ない」
「魔力なんて無いよ」
「嘘ー!?」
アルシアの世界では、原形となる『素材』までは作るが、それから先は魔法で完成させてしまう。しかも、『素材』は原始的なレベルなので、ほとんど木を切っただけどいう感じだ。
だから、素材の段階で魔法以上の完成度と規模に、驚くのも無理もない。
「ねぇ、こんな凄い建物、魔法でも不可能なのにどうやって建てたの?」
「うーん、それはね……」
あいみはどう説明していいのか分からず悩んだが、結局答えは出ず、一言でまとめた。
「そういう技術があるんだよ」
そして、あいみは萎縮してしまったアルシアをエスコートして、最寄の駅に到着した。
「アルシアさん、これから電車に乗るからね。これを使って」
あいみが手渡した物は、チャージ式のICカードだった。アルシアはそのカードを受け取ると、珍しそうに手に取りながら、色んな角度から見ていた。
「あいみさん、これ何?」
「これでお金を支払うためのカードだよ。昨日、用意したんだ」
「ここに魔力が溜まっているんだ」
「いやいや、魔力なんて無いから。一回、魔力から離れようか」
そして、自動改札機の前までやって来ると、あいみは立ち止まった。
「あいみが先にやってみるから、同じようにアルシアさんもやってみて」
あいみは手本をとなる為、先に改札機にカードを当て通り抜けた。アルシアから見れば、一連の行動が何をしているのか分からない様子だが、あいみの言われるままに同じように行動し、難なく改札機をクリアした。
「今ので、この駅の乗車記録されたんだよ」
「うーん、よく分からないわ」
そして、エスカレーター乗るのも一苦労し、なんとか駅のホームまでやって来た。アルシアにとって何もかもが、得体の知れない物だったに違いない。
その証拠にアルシアは、お化け屋敷に入っているように怯え、あいみの手を放さなかった。
それからしばらくすると、電車の到着を告げるアナウンスが流れた。
「電車来るけど、驚かないでね。大丈夫だから」
「まだ何かあるの? って、何か来る!? 魔物!?」
「いや、魔物なんていないから。これからこれに乗るからね」
アルシアは、あいみの背中にしがみ付いて目を閉じた。あまりにも情報量が多すぎて少しパニックになっているようだ。
「アルシアさん、あんまりくっつかれると恥ずかしいよ」
ここまでアルシアにくっつかれると、あいみも周囲の目を気にしてしまって、恥ずかしいようだが、そんなことお構いなくアルシアは、終始あいみにしがみ付いた。
そして、なんとか目的の駅に着いたが、アルシアは大分疲れきった様子だ。
「あいみさん、ごめんなさい。ちょっと休憩したい……」
「着いたばっかりだけど……病み上がりで、初めての所だし仕方ないよね。どっかの喫茶店に入ろう」
あいみは、アルシアの手を取りながら、駅近くにある一般的な喫茶店に入った。店内は平日ということもあって、お客さんは少なかった。
「あいみはコーヒーを頼むけど、アルシアさんはどうする?」
「コーヒーが何か分からないけど、あいみさんと同じにするわ」
2人はコーヒーを注文して、しばらくすると、お洒落なコーヒーカップに菓子を添えて店員さんが持って来た。
あいみは普通に飲んだが、アルシアはこの黒い液体に抵抗を感じたようだ。
「ねぇ、あいみさん、これ本当に飲んで大丈夫なの?」
「大丈夫って、あいみもう飲んだし。アルシアさんの世界にはコーヒーは無いんだ。じゃあ最初は苦いかもね。熱いしゆっくり飲んで」
アルシアは恐る恐る、コーヒーカップを口元へ近づけて、息を吸い込むようにゆっくりと飲んだ。
「ちょっと苦い……」
「砂糖とミルクを入れると飲みやすくなるよ」
「砂糖とミルク?」
「あいみが入れてあげる」
あいみが飲みやすくする為に、砂糖とミルクを少量で入れてあげると……。
「あれ? 美味しくなった!? これくせになりそう」
「少量で美味しく飲めるなら、アルシアさん結構大人の舌だね」
「そうなの?」
暫し2人はコーヒーを満喫し、マッタリした時間を過ごした。そして、あいみは突然何かを思い出したように話しかけた。
「そう言えば、浩二君は元気にやってた?」
「浩二君?」
「あっ」
すっかり気を緩めていたあいみは、真由の正体は秘密であった事を忘れてしまっていた。
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