第89話 アルシアと魔法少女
あいみのおかげで、アルシアは少し元気を取り戻したが、お出かけするには気が重かったようだ。しかし、はっきりと断らないのは、行ってみたい気持ちもあるのだろう。
「ご飯が食べれるようになったら、退院しても大丈夫みたいだし、行こよ」
「考えておく……のは、虫が良すぎるよね?」
「そんなこと気にしないで。明日また来るから、考えておいてね」
「ありがとう」
あいみは食器をカートに戻し、部屋を出て行った。そして、アルシアはポンタを膝の上に乗せ、優しく抱きかかえると、つぶやくように話しかけた。
「ねぇ、あいみさんと出掛けた方がいいのかな?」
「はい、元主の居た世界をアルシア様にも知って欲しいです」
「様はやめてよ」
アルシアは少し元気を取り戻したようだ。
やはり、あいみとのたわいもない話と、満腹感が気持ちを軽くしたのだろう。
――しかし、深夜になると……。
アルシアはポンタを抱いて就寝したが、まだガムイの恐怖が悪夢を見せるのか、うなされて飛び起きた。そう、ここに来てからアルシアは、あの時に感じた恐怖が蘇って、眠れていなかった。
今回はあいみとの会話で、少し元気を取り戻しても、やはり心の傷はそう簡単には消えてはくれなかったようだ。
「アルシア様、大丈夫ですか? また悪夢を見たのですか?」
「ハァーハァーハァー」
アルシアは上半身を起こし、胸に手を当てて、大量の寝汗をかきながら息を切らしていた。
そして、息が整ってくると、ポンタにゆっくりと話しかけた。
「ポンタ、寝るのが怖い……」
「アルシア様……」
ポンタは返す言葉が見つからなかった。
しばらくすると、アルシアはベッドの横に置いてあったテレビのリモコンを取り出し、テレビを付けた。ちょうどこの時間は、深夜アニメが放送されていて、夕食の時とは違う映像にアルシアは違和感を持った。
「ねぇ、これは何? 魔物人間?」
「いいえ、これはアニメというもので、何千枚の絵を使って動いているように見えるのです」
「これも、やっぱり魔法使わずに?」
「はい、魔法は使っておりません。ちなみにこのアニメは、吾輩の初代主の無垢朗様がよく見ていた『魔法少女ラムル』です。あっ」
ポンタはアニメを説明中に、魔法というキーワードを出してしまったことに気付いた。
「アルシア様、他の番組にしましょうか?」
「言いわよ、気を遣わなくても。どうせ私は、もう二度と……」
「……アルシア様」
ポンタはカリバーとの会話で、アルシアに魔法がらみの話をしない方がいいと言われた事を思い出したようだが、時すでに遅かった。
だが、アルシアはそれ以上何も言わず、テレビを見ていた。
今見ている内容は、主人公の女子高生ラムルが、学校に行って、友達と会話したりの日常が描かれていた。
アルシアは無表情で、ただひたすら黙って画面を見つめていた。
それから、アニメも後半に差し掛かると、ラムルは部屋で就寝しようとした時、突然魔法のようにフワッと、可愛い猫のような小動物が現れた。
そして、その猫のようなキャラクターは、ラムルに悪魔が街に出現したことを知らせた。
するとラムルは、両腕を上げて、腕輪をマッチをつけるように指でなぞると、魔法少女への変身が始まった。
アルシアはそのシーンになった瞬間に、眼つきが変わり、食い入るように画面を見た。
変身はキラキラと輝くモーションに、さっきまでパジャマだったラムルは、笑顔で魔法少女の可愛い姿へと変身していった。
「か、かわいい……」
「アルシア様?」
可愛い衣装を着た魔法少女ラムルに、アルシアは興奮した。ポンタは突然のアルシアの変わりようについていけてない感じであった。
魔法少女ラムルの格好は、ピンク色のふりふりのドレスと、短めのスカートにリボンが付いた靴を履き、ハートマークが入ったステッキを持っていた。
アルシアの世界では、魔法使いだからと言って変身するような習慣が無いので、可愛いだけでなく、変身する演出にも興奮したのかもしれない。
「輝いている……凄い……。ねぇ、ポンタこれ何? こんな可愛い恰好見たことがない」
「これは架空のお話ですけど、魔法の無い世界だからこそ、夢のように描けるのかもしれませんね」
その後も、アルシアはラムルが悪者と戦うシーンも、目を離さず見ていた。
しかし、ポンタはアニメよりも、アルシアがここまで食いついている様子を見ながら、考え事をしていた。
そして、何かを確信したかのように頷いた。
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