表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/202

第87話 あいみとアルシア

 あいみは、書類を持ってカリバーに仕事を手伝ってもらう為に来たようだ。

 そして、カリバーがポンタを抱っこしている姿に、呆れ顔になってしまった。



「へぇー、仲いいんだね」

「ちゃんと説明するよ。これはね――」

「そんなのいいから、あいみの仕事手伝ってー」

「うん、これはちゃんと説明したいね」



 あいみの興味はポンタを抱っこしている理由よりも、仕事を手伝ってもらう方があるみたいだ。

 そして、カリバーもその辺りは分かっているようで、説明する事もなく、慣れたような仕草で、あいみが持って来た書類を見た。



「今度はどこを修正するの?」

「ここ!」



 カリバーは、デザイン魔法で間違えた箇所を正しく修正をしていった。

 デザイン魔法は、形を色を変えたりすることが出来、変化前から大きさや、形が変化後に近い程、簡単でかつ少量の魔力で済む。


 文字の修正ぐらいは、カリバーにとって朝飯前だろう。



「ありがとうカリバー君!」

「じゃあ、僕はゲームに戻るよ」

「もーう、ゲームばっかじゃん!」

 

 

 あいみは構って欲しいのか、すぐにゲームに戻るカリバーに拗ねていた。

 そして、しばらくあいみもカリバーの傍に来て、一緒にゲーム画面を見ているとポンタが起き上がった。



「吾輩は、そろそろアルシア様の所に戻ります」

「ああ、もういいのかい? アルシア君の事頼むよ」

「カリバー様が来てくださると喜びますよ」

「……」



 カリバーの手の動きが止まった。

 そして、左手で頭を掻きながら複雑な表情を見せた。



「今のアルシア君は、僕みたいな魔法使いに会いたくないだろうね。僕も魔力を失って、二度と魔法が使えない状況になったら、精神が崩壊したかもしれないよ」


「カリバー様……」


「でも、この世界を知ってから、魔法だけが全てじゃないという事が分かったよ。魔法が無くても、十分に生活は出来るし、僕の世界よりバラエティーに富んだこっちの方が、楽しい人生が送れるかもしれないよ。だから、アルシア君もこの世界の事を知ってくれれば、きっと立ち直れると思うよ」


「吾輩もそう思います」



 ポンタはそう言い残すと、カリバーの懐を離れ、部屋のドアの方に向かって歩いた。その様子を見ていたあいみも、ゆっくりとカリバーの傍を離れようとした。



「あいみも、そろそろ仕事に戻るね」

「ああ、あいみ君も良かったら、アルシア君に話掛けてくれないかな? 歳も近いし女の子同士の方が話しやすいかもしれないよ」


「えーと……どうかな? 食事はあいみが持って行ってるけど、話せる感じじゃないし。それにあいみは……魔法の世界とか知らないし……何を話していいのか分からないよ」



 あいみも何かしてあげたい気持ちはあるようだが、いくら同世代の女の子でも異世界人で、心神耗弱の状態なら、話し掛けるハードルは高くなって当然だろう。

 しかし、カリバーはそんな事気にしていないようだ。



「逆に魔法の世界を知らないからいいんじゃないかな? あいみ君なら上手く出来るよ」

「そうかな……カリバー君がそう言うなら、話してみようかな……」



 あいみは満更でもない表情を浮かべながら、ゆっくりと一歩ずつ歩いてドアの方に向かった。



「あともう一つ大事な事があるよ!」


「えっ?! 何?」

「僕のことは、アルシア君には内緒だよ」



 少し呆れた表情であいみとポンタは部屋から出て行った。そして、あいみは仕事に戻り、ポンタはアルシアのいる部屋に戻った。


 ポンタは部屋に戻ると、アルシアは特に寝るわけでもなく、ベッドの上で塞ぎこんでいた。



「ただ今戻りました」


 

 ポンタは一声掛けると、ベッドの上にジャンプして、布団を抱きながら、目が虚ろなアルシアの傍に寄り添った。


 ここに来てから4日経つが、魔法が使えなくなったショックから、まだ全然立ち直れていなかった。起きている時は何をするわけでもなく、虚ろな目でぼーとしていたり、突然泣き出したりと不安定な状態であった。


 さらに、やっと就寝出来てもガムイから受けた苦痛のせいか、うなされては目を覚ます、という繰り返しで、その度にポンタが優しく声を掛けて慰めいた。


 しばらくの間、ポンタとアルシアは会話もすることもなく……と言うより、ポンタが話しかけてもアルシアの反応が薄いから、会話自体が成立しない状態だ。




 そんな状況の中、無常に時間だけが過ぎて行き、夕食の時になってしまった。この部屋は地下にあるから窓が無いので、時計を見ないと時間の経過が分からない。


 夕食は、毎回あいみがカートに乗せて持って来てるが、まだ一度もアルシアは食事に手をつけていない。点滴だけで、なんとかもっているような状態だ。 


 そして、今回もあいみがいつものように、夕食を乗せたカートを押してアルシアの部屋に入って来た。



「ア、アルシアさん、夕食持って来たよ。病院のだからあんまり美味しくないかもしれないけど、良かったら食べて」



そう言って、あいみは部屋に入ってベッドの横までカートを押して進んだが、相変わらずアルシアの反応は薄い。理解しているどころか、ちゃんと話を聞いているのかも怪しい。


 いつもなら、退出する時の挨拶の一言で済ませてしまうところだが、今回のあいみは部屋を出ようとせず、その場で足踏みした。


 アルシアの様子から気軽に話しかけられる雰囲気では無いが、かと言ってこのまま放っておくことが出来なかった。



「ア、アルシアさん、身体の調子はどう?」



 考えた挙句、無難は質問になってしまったようだが、会話の始まりは大体どうでもいいような事が多い。

 それでも、会話のキャッチボールが出来れば、もっと込み入った話が出来たりするが、その始まりが始まらないから厄介だ。



「じゃあ、テレビでも観る? まだこの世界の事を知らないでしょう?」



 これ以上会話しても無理だと察したあいみは、テレビを付けて、沈黙を破ろうとした。


 

「な、なに!?」



 突然の映像と音声に驚いたアルシアは、顔を上げた。



「これはテレビと言うの。魔法の世界には無いかな?」



 あいみの『魔法』という単語を聞くと、アルシアは急に冷静になり視線を落とした。

 


「悪いけど、魔法は止めてくれないかな?」

「魔法? あたし魔法なんて使えないけど……」



 普通なら魔力が感じられないと驚くところだが、今のアルシアは魔力を感じる事が出来ない。だから、普通にテレビが魔法だと思ったのだろう。あいみもその辺りの事情は知らないから戸惑った。



「もしかしてテレビのこと? これは魔法じゃあないよ」

「嘘よ! 魔力を失ったからって、私に気を使わないで!」



 アルシアは魔力を失ってしまったことを余程気にしていたのか、あいみにその不満をぶちまけるように声を荒らげた




お読み頂き、ありがとうございます。


気に入って頂ければ、ブックマークや↓の☆をクリックしてくれますと、モチベーションが上がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ