第84話 もう終わりにしよう
この世界には目覚まし時計が無いから、日差しが顔に照らされる事で目が覚める。
俺は寝袋から起き上がり、そして寝袋を片付けて朝の準備をする。ここだけ見れば、特に珍しいことも無い普通の日常だ。
しかし、ここ最近はミルネやミリちゃん、アルシアまで一緒に寝て、起きる時はミリちゃんやミルネに苦労させれた。
でも今日は、それが無い……。
いつの間にか、一緒に寝たりする方が俺の日常になっていたかもしれない。だから今はとても寂しい気持ちになる。
なんか元の世界に帰りたくなって来た。
この旅も、ダンロッパの闇から救う為に、ベルリア学園に協力を取り付けようと始めたものの、一体どうなるか分からないし、アルシアもあんな状態だし、俺はどうすればいいのか分からない。
でも、ミルネとミリちゃんはまだここに居てくれる。
いつものように会話が出来なくても、まだ繋がりが持てているような気がして嬉しい。
俺はジュレの用意だけをして、ミルネとミリちゃんを起こさず、2人が目を覚ますまで何もしなかった。
そして、昼前ぐらいになるとようやく2人は、目覚めて寝袋から出て来た。その様子は寝起きという事もあるかもしれないが、いつもと比べれば明らかに元気が無い。
俺が原因だから、なんて言葉を掛けていいのか分からない。とりあえず、ジュレを渡すと時に「おはよう」っと挨拶をしてみることにした。
結局、挨拶は出来たが、その後が続かず俺は逃げるようにここに戻って来た。決してあの2人は怒っているわけでは無いし、見放しているわけでも無さそうだ。
ただ、俺もそうだけど距離感というか、どう接していいのか分からないだけかもしれない。
しばらく俺は何もせず、答えが見つからない難問を考えていた。
でも、あの2人は俺の事をまだ隊長として慕ってくれているなら、このまま何もしないというのは良く無いよな? もしまだこの任務が生きているのなら、俺が行動しないといつまでもあの2人は、ここで待機する事になる。
よし、俺がしっかりしないと!
決意を固めた俺は、2人のいる岩陰の所まで行き、次の行動を示す事にした。すると2人は俺が近づくのを察知したのか、俺の方を見ながらゆっくりと立ち上がった。
「まぁ、あのー、い、いつまでもここに居てもしょうがないから、ベルリア学園に向けて出発しようと思うんだけど……」
「うん、分かった」
返事をしてくれたのはミルネだった。ミリちゃんはミルネの後ろに隠れるようにしていた。その様子は、お子様が恥ずかしがって親の後ろに隠れているみたいで可愛かったが、まだ俺にはそれを堪能する余裕なんて無い。
でも良かった。まだ俺についてくれるみたいだ。
今まで当たり前のようにやっていたのに、今はこんなに大変だとは……。
ようやく俺達はこの岩陰から出発した。ミルネとミリちゃんと特に会話をすることも無く、俺が先頭で、少し距離を置いて2人がついて来るという感じだった。一応先導しているが正直、道が全然分からない。
この岩陰に来たのは、俺が『禁じ手』を使って、魔王軍のオーガとゴブリンから逃げた結果であって、あの時の記憶が全く無い以上、どうやって小屋まで戻ればいいのか分からない。
今も適当に歩いているけど、辺りは森で生い茂っていて、獣道があればいい方だ。
しばらく歩いていると、オーガの死骸があちらこちらに転がっているのを発見した。よく見ると、どれも何か鋭い爪のようなもので引き裂かれた。
これって、この間の小屋を襲ったオーガじゃないのか? しかもこの殺られ方……もしかしてこの辺りにヤバい魔物がいるんじゃないのか? 一応、警戒した方がいいな。
「2人とも、魔物がいるかもしれないから注意して」
「うん」
前ならもっと会話があったのに、今はミルネの返事一つで終わるんだよな。
―――そして、この状況で2人と会話も無く、森に彷徨ったまま3日が経過した夕食時である。
深い森の中、大樹が一本立っていて、地面に枝分かれした根っこの間で野営することになり、枝を挟んで2つに分かれた。枝の間でもスペースは十分で、2人との距離は近い。しかし、枝を挟むので壁みたいになっている。
そして、別々の寝袋の上でジュレを食べながら、ある事を考えていた。
流石に意思疎通出来てない上、迷子……いや遭難しているこの状況に危機感を覚えてしまう。もうこの討伐隊で遂行するのは不可能のように思えていた。
このまま続ければ、強い魔物に襲われるか、ジュレが尽きて飢え死にするかしかない。
やはりちゃんと話し合いをした方がいいだろう。最悪リタイヤしてこの討伐隊の解散も、止むを得ない。
どちらにしても、今のままで仮にベルリア学園に到着出来ても、味方になってくれるとは限らないし、もしダンロッパに根回しされていたら、最悪の場合戦闘になるかもしれない。そうなれば、こんな状況で乗り切るのは無理だろう。
ここはもう決断しないといけない。
登山でも、危険と感じたら下山するように、この活動もここまでにした方がいい。
「ちょ、ちょっと話がっ」
「ごめん、もう寝るね」
何かを察したようにミルネは、ミリちゃんと寝袋の中に入った。
うっ、話すら出来ないのかよ!
もう駄目だ! これ以上続けるのはもう限界だし、この世界にもう俺の居場所は無い。
もっと早く打ち明けていれば良かったのかな……。
……。
残念だけど、明日もう一度謝って、この旅を終わりにしよう。
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