第82話 打ち明ける
再びこちらの世界に戻って来た。
ミリちゃんは前回程魔力を使わなかったせいか、一人でも歩けるぐらいの魔力が残っているようで、到着するや否や俺の傍まで来て、沈黙したまま手を握った。
そして、ミルネも不安そうに俺の方を見つめていた。2人ともアルシアの事が心配なんだろう。
「ミルネもミリちゃんも聞いて、アルシアはもう大丈夫だよ。怪我は治ったみたいだ」
「マユリン、それ本当?」
「ああ」
「はぁー、良かった……でもマユリン、どうやったの?」
2人とも安堵の溜め息をついたようだ。しかし、一番の心配事が無くなると、次は色々と疑問に思っていた事が思い起こされる。俺はその疑問にちゃんと答えようと思う。
「2人にちゃんと説明するから、聞いてくれるか? 俺のいた世界の事と……俺自身の事」
「真由ちゃんのいた世界?」
「そう、さっきのテレポート先の事だよ」
2人ともいつものような悪ふざけする様子も無く、真剣に俺の話を聞いてくれているようだ。
「実は俺、この世界の人間では無く、異世界からやって来たんだ」
俺の唐突な発言に2人とも目が点になっているのがよく分かる。俺もここに来る前までは、異世界の存在なんて信じていなかったから、そうなるのは当然の反応だろう。
「俺の世界では魔法使いなんていないし、そもそも魔法なんて存在しない。しかし、とある魔法使いが俺の世界に来たことで、この世界を初めて知る事が出来た。そして、俺はここを調査しに派遣されたんだ」
「魔法が存在しない? 魔力無しでどうやって生きるの?」
ミルネが引っかかったのは、俺がどうのこうのというより、魔法が存在しない世界の方だった。確かに魔法が全てのこの世界なら、気になるかもしれないが、俺がここに来る経緯や目的には興味ないのかな?
「魔法が使えない代わりに、俺の世界では『科学』というものがあるんだ。分かりやすく言えば、素材を魔法でデザインしなくても、素材だけで完成させると言った感じかな」
「マユリン、よく分からないよ」
「真由ちゃん、説明下手」
「うっ……。ま、まぁ、簡単に言えば、この世界が魔法なら、俺の世界は科学で発展して来たということかな。だから、アルシアの魔力が無くても、医学というもので怪我を治す事が出来るんだよ」
科学の事はいくら説明をしても、理解させるのは難しい。だから、実験出来る機会があればその都度、見せる方がいいだろう。
「よく分からないけど、分かったよマユリン」
「なんか矛盾した言い方だけど、意図は分かる」
「真由ちゃんの世界なら、アルシアちゃんの魔力も復活出来るの?」
「それは……」
ミリちゃんの疑問に俺は動揺した。だってその言い方だと魔力の復活は不可能だと言っているようなものだから。もちろん、医学で魔力を復活する事は無い。
「マユリン、魔力が無かったら怪我も治らないし、仮に治ってもゼロになった魔力は、もう二度と復活しないよ」
「つまりそれって……アルシアはもう二度と魔法を使えないっていう事?」
「……うん」
俺はガムイの言った事を思い出した。そして、あいつが言っていた『デス魔法』の事を今理解した。
重症を負わせた状態でこの魔法を受ければ、この世界では助かる方法は無い。だから、ミリちゃんはただ苦しみながら死を待つだけのアルシアに、手を下そうとしたんだろう。
しかし、医学でアルシアを助ける事は出来た。でも、その反面これから先、二度と魔法を使えないという事だよな。人一倍に頑張ってSランク候補までなれたのに、今は魔法使いですら無い。
一体それはアルシアにとって、どんな気持ちになんだろう? 想像するだけで耐えがたい。
「ごめん、俺の世界でも魔力を復活させる事は出来ない。そもそも魔法なんて無いから」
「マユリンが謝ることないよ。アル姉の怪我を治しただけでも凄いよ」
「真由ちゃん、アルシアちゃんに会いたい」
「もう少し落ち着いたら、みんなで会いに行こう」
とは言ってみたものの、今頃アルシアはこの事実を知って悲しんでいるんじゃないのか? そんな時に俺らが会いに行ったら、無理に頑張りそうな気がする。
特に魔法が使える人間が会いに行けば余計に気にするかもしれない。
でも俺の世界は、魔法が使えないアルシアの方が普通なのだから、少しでも俺の世界に馴染んでくれれる方が、逆に救われるかもしれない。
だから今すぐに会いに行くよりも、少し時間を置いた方がいいかもしれない。
それにアルシアの傍にはポンタもいるし、俺の仲間もいるはずだから、頼りにしていいと思う。
しかし、俺にはずっと先送りにしていた問題が残っている。そう、この美少女真由の中は、浩二という男だって言う事を。
この問題で間違いなくこれまでの信頼関係を壊してしまう。特に2人とも俺を可愛がっていたし、寝る時も一緒だった。それに裸も見てしまったわけだし、ショックを受けるのは想像がつく。
でも、いつかは言わないといけないし、この先も、もやもやしたまま過ごすのも嫌だ。アルシアがあんな事になった以上、これから先は危険な旅になるだろう。
仲間に命を預ける事になるかもしれないのに、嘘をつき続けるのは耐えられない。
「もう一つ言わないといけない事があるんだけど、聞いてくれるか?」
「マユリン自身のことだったよね?」
「えーと」
やっぱり、気が引けてしまう。でも、言うんだ俺!
「うん……実は俺……この男みたいな喋り方通り……男なんだ……」
俺の発言はかなり衝撃的だと思うが、2人の反応は薄かった。というより、本気にしていない感じだ。
「きゃっははは、こんな可愛いマユリンが男!? こんな時に冗談はやめてよ」
「真由ちゃんは、女の子」
そういう反応が普通だろう。しかし、これは冗談ではない。
「こんな時に冗談なんて言わないよ。本当なんだ。この世界に来る前にさっき説明した『科学』というものと、魔法が組み合わさった薬を飲まされたせいで、女の子になってしまったんだ。」
「……」
流石にここまで真面目に説明すると、2人は反応は先ほどのようにはならず、だんだん険しい表情に変わっていった。
「だから俺の本当の名前は真由じゃなくて、浩二と言うんだ……」
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