第80話 真由、禁じ手発動!
俺も今日は色々と疲れたし、このまま布団を掛けて寝ようかな……。
ガサガサガサ
ん? なんだ今の音? それに外から魔力を多数感じるぞ。
俺はゆっくりとミルネとミリちゃんを、お互いにもたれ合うようにしてその場を離れ、ドアの方に向かった。そして、少しだけドアを開けて外の様子を伺った。
「げっ! 魔王軍!?」
一度魔王軍に遭遇した事があるから、すぐに分かった。ゴブリンとオーガが5体程見えたが、恐らくこの小屋を包囲しようとしているんだろう。
だから、実際にはもっといるかもしれない。
ど、どうしよう! なんで魔王軍がここに来るんだよ!?
いや、あり得るか。アルシアが放った魔力を感知したか?
それとも、魔王軍領域から高速移動したミルネ達の魔力を感知された可能性もある。それでここまで追って来たんじゃないか?
しまった! うかつだった!
これだけ大きな魔力を発生させた場所から、一刻も早く離れるべきだった。
これは不味いぞ。俺一人なら、幹部がいなければ何とかなるかもしれないが、この2人を守りながらだと流石に無理がある。
ガタッ
また物音がすると思えば、今度は一気に周りが明るくなった。
「やばい! あいつら火をつけやがった!! 炙り出すつもりか!?」
ここは逃げた方が良さそうだ。
俺はアルシアの荷物と自分の荷物を取った。アルシアの荷物の入った鞄はデザインでかなり小さくなっていたので、俺の鞄の中に放り込んだ。そして、その鞄をミリちゃんに背負わせておんぶした。
さらに布団カバーを外し、それでミリちゃんと俺を固定して、俺の両手が自由になったから、さらにミルネをお姫様抱っこで持ち上げ、首からシーツで固定し、右手だけでも自由にした。
「こ、これは重い!!」
流石にこの真由の身体で、この2人はきつい。でも、弱音を吐く余裕は無い! もたもたしていたらすぐに火の手が回るだろう。
もうばれているなら、堂々とドアから一気に出て行くか! あいつらは魔力感知でここを嗅ぎつけたはずだから、魔力を使わずに視界から消えれば、なんとか逃げ切れるかもしれない。
「よし!! 行くぞ!!」
俺はドアを蹴破って、一気に逃げようと全力で走った。しかし、2人分抱えては思うように走れず、魔王軍をまくのは無理があった。
ここはMPCで一気にダッシュして逃げるしかない!
「あ!!!」
俺はMPCでダッシュしようとした時、重大な欠点を思い出した。MPCは身体中のパワーと剛性を一カ所に集中させることで、大きな力を瞬発的に発揮する。
それ故に一度集中すると他の部分は脆弱になってしまう。だから、今回それをするとダッシュは上手く行くが、ミルネを支えきれなく落としてしまう。
ミリちゃんだって固定しているとは言え、バランスを崩して転倒するかもしれない。
しかし、俺が躊躇しているとゴブリンが棒を振り回し、後ろから追って来た。
「もう追いついて来やがったか! 棒に魔力が纏ってそうだ」
俺は一旦立ち止まり、振り向きざまに屈んで、ゴブリンの攻撃をかわし、足でゴブリンを引っ掛けるように払った。するとゴブリンはバランスを崩し転倒した。
よし、とりあえずゴブリンはこれで対処するか。でも、早くこの見通しの良い丘から脱出しないと体力がいくらあっても無理だぞ。
だから、また戻る形になるけど、ガムイと戦ったあの辺は、結構背の高い草木が広がっていたから、あそこまで逃げればなんとかなるかもしれない。距離は数百メートルだ。
しかし、そう簡単に上手く行かせてくれないのが世の常。特にこの世界は俺に対して厳しい。
今度はゴブリンと違って、2メートル以上の体格のオーガが、オラオラと言わんばかりに迫って来た。
流石にこのサイズはゴブリンみたいにはいかない! どうする!?
何も策が思いつかないうちに後ろに視線を向けると、オーガが拳を振り上げて、今にも叩き潰しそうだった。
やばい!! このままだとミリちゃんに攻撃が当たってしまう!
俺は咄嗟に振り返り、後ろに下がりながらオーガの攻撃を確実に回避出来るよう備えた。しかし、俺の読みとは違って、振り落すのではなく、薙ぎ払うように横から仕掛けてきた。
げっ!! このままだとミルネに当たってしまう!!
俺は反射的にミルネを持ち上げて、オーガの猛烈迫りくる拳を回避することに成功した。
しかし!! オーガの薙ぎ払う、魔力が纏う拳は思った以上に射程距離があり、ミルネは万歳するように持ち上げてかわせても、俺まで回避するのは無理だった。まさにお手上げだ。
「うごぉぉ!! こ、これはきつい!」
オーガの攻撃を喰らった俺はよろめき、倒れそうになったが、前に倒れればミルネを地面に落としてしまうし、後ろはミリちゃんがいる。
つまりやられる事も、逃げる事も、戦う事も出来ない絶体絶命!!
この2人を起こすという手もあるが、一度眠ってしまったミルネを起こすのは簡単では無いし、ミリちゃんの場合は、寝ぼけて何をされるか分からない。
いや、それ以前にこの二人は魔力切れだから、なるべく休ませてあげたい。
やっぱり俺が何とかするしかない。
でも、この状況を打破する方法が一つだけある。
MPCシステムの禁じ手だ。
この技は身体の負担が大きく、失敗すれば理性も吹っ飛んでしまうかもしれないが、交感神経をMPCで瞬発的に活性化させアドレナリンを一気に出す方法がある。
言わばより強力な『火事場の馬鹿力』だ。
これならガムイと戦った場所まで行けば、背の高い草木が広がっていたから、そこまで逃げればなんとかなるだろう。あいつらは魔力で嗅ぎつけてくるから、視界から消えれば追って来れないはずだ。
あとは俺がどこまで持つかだ。
俺はオーガの攻撃を喰らったあと、よろめきながら後ずさりして、一旦屈んでミルネを持ったまま地面近くまで降ろした。これを発動する瞬間、身体全体が脆弱になってしまうからだ。
すると、この部隊の指揮官と思われる者が前に出て来た。
「もしかして、ミリは魔力切れですか? フフフ、これはチャンスだ!! ここでミリを仕留めれば魔王様は喜ばれるぞ!!」
あいつはオーガよりも強そうだ。もうやるしかない!!
「さぁ! ミリを仕留めなさい!!」
指揮官の合図と共に、オーガが一斉に俺の方に襲い掛かった。
「禁じ手発動!」
どんどんアドレナリンが分泌されるのが分かる。湧いてくる高揚感、疲労感も痛みも無くなり、体力が無限であるかのようにみなぎる力は、気持ちが大きくなり妙な自信が出る。
だから余計なことを仕出かしそうになるから、俺はひたすら暗示するかのように逃げる事だけを自分に言い聞かせたが……。
「はっはっはー!! お前ら邪魔するなら全員死ねー!!」
もう俺の理性は吹っ飛んでしまった。
「な、何ですか!? 何が起きた!? 次々とオーガがやられていく! ヤバい!! うわああー!!」
グシャ
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