第77話 真由、怒り爆発!!フルパワーの一撃!!
俺は服の中に入って、暴れるリスと格闘していた。これでは拘束魔法を解く為の解析に集中する事が出来ない。
しかもアルシアに助けを求めても返事が無い。とにかくこのリスをなんとかしよう。
俺は床に転がりながら、リスを外に出そうとしばらく奮闘していると、遠くの方から花火みたいな音が数発鳴り、それに驚いたのかリスは部屋から逃げて行った。
何だ? 今のは? しかもまだ続いている。
夜の何も無い丘だから、音が良く響渡る。さらに俺でも分かる魔力の乱れを感じる。
「アルシア!! そこにいないのか!!?」
俺が呼びかけても全く反応が無い。
これだけ呼びかけても返事すらないという事は、アルシアはここにはいないと考えた方がいいだろう。
なんか不安になって来た……。
もしかして、敵襲があったかもしれない。
俺も一刻も早くこの拘束を解いて、加勢しに行った方がいいだろう。
しかし! この拘束魔法を解析するには、この魔力を感じ取り、分析する必要があるわけだが、アルシアの事が心配でなかなか集中出来ない。
こうしている間も、遠くの方からの音は鳴り止まない。
くそー! アルシアが敵と戦っているかもしれないのに、何も出来ないなんて……。
そして、これまでとは違う明らかに大きな爆発音が、反響を繰り返しながら鳴り響き、さらに強力な魔力を感じた。
「うわ!! なんだ今のは!!? やばい! これは尋常じゃないぞ!」
大きな爆発音の後、なんとなくだが拘束している魔力が弱くなっていくのを肌で感じた。もちろん、俺が解析をして、解除したわけではない。
「何だよこれ……。アルシア!!」
なんの冗談だ! アルシアが弱ってるとでも言いたいのか!?
こうなったら、力ずくで解いてアルシアの所に行こう!
俺がもがいていると、今度は拘束していた魔力が、解除された時のように一瞬で消えるのと違って、ゆっくりと消失していった。
「そんなー!! 拘束が勝手に解除されるという事は……アルシア!?」
拘束が完全に解けた俺は、一目散に外に出た。
外の様子は、先程の爆発音や魔力の乱れと比べると、異様な静けさだった。
さっきの音の聞こえ方を考えると、ここから少し離れた所にいるはずだ!
俺は周囲を見渡した。すると、見通しのいい何も無い丘ということもあって、数百メートル離れた場所から、人影らしきものが動いているのが見えた。
あそこに、誰かいるのか!?
俺はすぐにMPCで高速移動をして、現場に向かった。そして、その人影に近づくにつれ、その全貌が見えてきた。
男がいる!!
俺はある程度近づいた所でMPCを解除した。その男も突然、俺がやって来た事に少し驚いているようだ。
「あー、びっくりしたー! どっから現れた!? 魔力感知出来なかったぞー! ん? 女の子? お前は真由か!?」
「俺を知っているのか……お前は誰だ!? アルシアは!? アルシアはどこに行った!?」
「俺はガムイ。よろしくな! えーと、アルシアちゃんは、ふっふっふー、そこからじゃあ見えないかー」
ガムイは薄笑いを浮かべながらゆっくりと横にずれた。すると、その先にピクリとも動かず、倒れている人影が見えた。そう、アルシアだ。
「どうだい!? 見えたか? 残念ながらアルシアちゃんは、俺のデス魔法で死んだわ。ふっふっふー、助けに来るのが遅いぜ。いや、アルシアちゃんが命懸けで作った、逃げる時間を無駄にしたと言った方がいいかー」
「そ、そんな……アルシア……くっ」
「おーこわ。そんな怖い顔するなよー。可愛い顔が台無しだぞ。お前も同じようにデス魔法で葬ってやるから。本当ならもっと楽しみたいけど、時間が無いからなー」
俺はアルシアが重傷かもしれないが、死んだとは思っていない。希望的観測かもしれないが、まだ手当をすれば間に合うと心のどこかで思っていた。だから、それを阻むガムイという男が邪魔でしか無い。
俺はガムイを睨めつけながら、右拳を静かに握り、そして、一気に魔力を纏わせた。
「はっはっはー、この距離で魔動拳かよ! お前はアルシアちゃんと違って、ちゃんと授業で習った方がいいんじゃないかー」
魔動拳で戦うというよりは、つい感情が入ってしまい魔力が纏っただけだ。そして、魔力を纏わせたまま、ガムイの方に向かって歩いた。
「歩いて間合いを詰めるのかよー。本当に面白い子だ。でも、魔動拳は嫌いじゃあねーから乗かってやるよ!」
ガムイも拳に俺よりも強い魔力を纏わせ、お互いが向かい合う形で歩いた。
10メートル……8メートル……6メートル……。
ゆっくりと二人の距離は縮まって行く……。
相変わらずガムイは余裕なのか、薄笑いを浮かべていた。
俺はどんな表情をしているのだろう?
きっと、酷い顔になっているに違いない。ただ、邪魔なこいつをぶっ飛ばして、その先にいるアルシアを早く助けたい。
そして、3メートルぐらいまで近寄った時、俺は拳に纏っていた魔力を解除した。
MPCで一回のダッシュの射程範囲に入ったからだ。
「なに? 魔力を解除だと!?」
ガムイは俺の理解出来ない行動に戸惑っているようだ。そして……。
「えっ!? 消えた!?」
「邪魔だぁぁーー!!!!」
「なにー!!? こいつ魔力も無しでいつの間にー!?」
俺はMPCのダッシュで一気にガムイとの間合いを詰めた。それから俺は、MPCで拳にパワーと剛性を集中した。感情が高ぶったせいか、100パーセントに近いパワーだ。
ドゴォーン!!!
「ぐっはっ、く、な、なんだと!?」
俺の魔力を伴わない突然の接近に、戸惑うことしか出来ないガムイに、俺は渾身のパンチを喰らわせた。それからその直後に、今度は拳に一気に魔力を爆発させた。
「吹っ飛べ!!!!」
パァーーン!!!
「ぐわ!! そんな馬鹿なぁーー!!!!」
ガムイはその衝撃で遠くへ吹っ飛んでいき、暗闇へと消えた。俺はガムイのことは眼中に無かったから、その後どうなったかは知らない。
それよりもアルシアが心配で、一目散にアルシアの方に向かった。
「おい! アルシア!?」
アルシアに呼びかけたが、全く反応が無い。
さらに俺はアルシアの両肩を掴んで、揺すろうとしが、アルシアの胴から血が流れ出ているのが見え、思わず手が止まってしまった。
「何だよこれ……」
俺は肩に回そうとしていた手を、アルシアの口の方に持って行き、呼吸を確認した。
すると、弱弱しいながらも手のひらに、温かい風が当たるのを感じた。
「良かった!! 生きている!!」
俺は生きていると分かった瞬間、安堵のため息をついた。しかしそれはほんの束の間だった。
依然、アルシアは気を失ったままで、出血も止まらない。このまま放置すれば確実に死んでしまう。
しかし、俺にはどうする事も出来ない。
ここは日本と違って異世界。救急車を呼ぶことも出来なければ、病院もあるのかのかどうかも分からない。
この世界なら魔法でなんとかなるかもしれないが、俺には使えない。
「アルシア!!!!」
俺は手で出血している部分を抑えたが、それでもまだ止まらない。
どんどん衰弱していくアルシアに、何も出来ないことに焦りと恐怖心が芽生え始めた。
「アルシア!! お、俺は一体どうすれば……いいんだ!?」
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