第76話 私……守れなかった……
アルシアは額から血を流しながらも、両手に魔力を纏い、魔動拳でガムイの攻撃を防く構えを見せた。
「おお! アルシアちゃん、俺の攻撃を防いでみるか? よーく見ろよ」
相変わらずガムイは、余裕なのか挑発的に態度をみせる一方、アルシアの方は真剣な態度で挑んでいる。
「じゃあ、そろそろ打つよー。準備は出来たかい?」
「ふざけないで!!」
「おーこわ」
するとガムイは、突然左手を伸ばして魔動砲を打つ構えを見せた。
「え? 魔動砲?」
「はっはっはー、魔動砲は出来ないと思ったか? 苦手と言っても、Sランク基準に届かないだけさー。でもな!」
そう言うとガムイは、魔動砲をアルシアに向かって打ち放った。ガムイが打った魔動砲は、明らかにに規模も、スピードもアルシアに劣るものであった。
「こんなもの!」
アルシアは、ガムイの魔動砲を魔動拳で殴るようにして、かき消した。しかし!
「ぎゃああ!」
ガムイの攻撃をかき消したはずなのにアルシアは、悲痛な叫びを上げ、そのまま倒れ込んでしまった。
「はい、全弾命中! アルシアちゃんのその声、最高だね」
「な、なにが……起きたの……」
地面に仰向けに倒れ込んだアルシアの脚、胴、頬の数カ所から、血が滲み出していた。
「はい、また石でしたー。魔動砲を打った直後に飛ばしてやったんだよー。痛そうだねー、たまらないねー」
アルシアはゆっくり立ち上がり、再び魔力を纏わせたが、今度は右手の拳だけだった。そして、左手を伸ばして、魔動砲を打つ構えを見せた。
「ほーう、反撃するつもりか」
「ファイアー!」
アルシアの左手から、炎が噴き出した。しかし、それは一瞬だけで、その間に魔法による高速移動でアルシアは一気にガムイに接近し、魔動拳を打込んだ。
「いいね、アルシアちゃん。でも!」
ガムイはアルシアの魔動拳を、高速移動で避けた。
アルシアは避けられようとも次々に魔動拳を打込み、間合いが生じると魔動砲を打って、連続攻撃を辞めなかった。
「なんで一発も当たらないの!? これが優れた魔力感知なの!?」
「はっはっはー! そうだよ! 俺には分かるんだよ。でもよ、アルシアちゃんみたいな教科書通りの攻撃パターンでは、そんな事しなくても分かっちゃうけどね」
「……」
ガムイはわざとなのか、いちいちアルシアを逆立てるような発言をして、楽しんでいるようだ。アルシアにとって痛い所を突かれた形になる。
「ほうー、言い返せないということは、自覚はあるんだなー。じゃあ、教えてやるよ。教科書に書いていない専属魔法団殺人魔法の戦い方を!」
ガムイはそう言うと、魔動拳の構えでアルシアに迫った。アルシアも対応する構えを見せたが……。
「ぐはっ!」
「何も魔力を纏わせるのは拳だけじゃないんだよー。膝に纏えばこういう事も出来る」
ガムイは拳で打つように見せて、膝に魔力を纏い、アルシアの胴に強烈な膝蹴りを喰らわした。流石のアルシアも膝を付き、お腹を手で押さえ、かなり苦しんでいるようだ。
「そしてー、肘に纏えば!」
「ぎゃあ!」
今度はガムイの肘に魔力が纏い、肘落としでアルシアの背中に当て地面に叩き落とした。
「ちょっとは理解出来たかー。学園じゃあ、教えてくれないだろう? ルールを決めた学園同士の戦いとか、魔物討伐には必要無いからなー。一度人間と殺し合いをすれば、アルシアちゃんも理解出来ると思うよ。はっはっはー」
アルシアは地面に這いつくばり起き上がろうとするが、苦しみもだえ、立ち上がることが出来ず、ガムイの話を聞くところでは無かった。
「もう戦うのは無理そうだなー。もっと弱らせて、楽しんじゃおかな。はっはっはー」
ガムイは容赦無く一方的に、もうまともに戦えないアルシアを痛めつけた。この地獄のような時間がアルシアの戦意を失わせた。
「もう動けないだろー。これからもっとぐちゃぐちゃして、楽しんでから殺してあげるよ。いや待てよ、真由と一緒に楽しむというのもありだな」
「真由っ」
アルシアは真由という名前を聞いて、青ざめた。
「うん、そうしよう! アルシアちゃんを殺す前に真由をここに連れて、2人一緒に殺してやろう! はっはっはー! それがいい!」
青ざめていたアルシアも、真由が危険に晒されてしまうと思ったのか、戦意を取り戻し、もう一度立ち上がろうとした。
「真由は……私が……守る……ぐはっ」
「なに? まだ動けるのかよ!」
もう動けるような身体ではないのに、アルシアは血反吐を吐きながら、ゆっくりと立ち上がり、魔動砲を打つ構えを見せた。
そして、手のひらに魔力を溜めていき、これまでにない強い光を発した。
「おいおい、嘘だろ!? まだそんな魔力が残っていたのかよ!」
「真由の所には行かせない!」
アルシアの魔力はさらに高まっていく。そして。
「最大魔力!! 魔動砲!!」
「無駄なことを」
アルシアは魔動砲をガムイを直接狙わず、ガムイの足元の地面に向けて放った。
「なんだー!?」
バァーン!!
魔動砲が地面に直撃したことで、雷鳴が轟くような爆発音とともに周囲は吹き飛び、砂埃と煙が立ち込めた。しかし、その爆発した場所はガムイの所より、少しずれていた。
「ふぅ、凄い魔力だ。今のは危なかった。今のは教科書に載っていない行動だったなー」
「ぐあぁぁ」
「あーあ、思わず魔動拳で致命傷を与えてしまったよー。もっと楽しむつもりだったのに」
アルシアの腹部から大量の血が噴き出し、ガムイの言葉通り誰が見ても致命傷だった。
そして、崩れるようにアルシアは地面に倒れた。
「しょうがない、真由で我慢するしかないか.....。まぁ、幼いがかなりの美少女だし、そこそこは楽しめるかー」
ガムイが真由のいる小屋に向かおうとした時!
「さ、させない……」
「ん?」
弱弱しい声を出しながら、ガムイの脚を掴んだ。
「まだ意識があるとはなー、たまげたよー。そんなに真由が大事なのか? 」
「わ、私が……守らないと……」
「もう勝機は無いのにー、粘るねー、意地というやつか?」
「……」
「……いや待てよ。今の強力な魔力でミリちゃん達に感づかせた? もしかして、危険を知らせる為にやったのかー!? だったら、ここに来る可能性があるじゃないのー。流石に魔力をほぼ全消費するテレポートで来る馬鹿な真似はしないだろうし、魔王軍領域から高速移動するのはリスクがあるから、すぐには来ないか……いや、緊急なら高速移動はする可能性はあるな」
ガムイは暫く立ち止まり、そして妙案が思い付いたのか、薄笑いを浮かべた。
「いいことを思い付いた。どうせさっきの魔力でバレたのなら、俺もとっておきの魔法を使おうじゃないか。デス魔法で葬ってやろう。はっはっはー、止めはアルシアちゃんのお仲間に任せよう」
「……」
「ふっふっふ、もう喋れないか。この魔法は意外に簡単なんだぜ。止めを刺さないお前らには関係ないだろうが」
ガムイは魔力を使って、アルシアを胸ぐらを掴むようにして持ち上げた。ぐったりしたアルシアは、もう声も上がられず、恐怖からか、悔しかったのか目から涙が零れ落ちていた。
「Sランクになって、魔王軍から人々を守る為に努力をしてきたみたいだけど、無駄だったなー」
そう言い残すとガムイは、アルシアをさらに数メートル浮かせ、魔力を溜め始めた。どす黒い澱んだ光を出した。
「デス魔法!!」
どす黒い澱んだ光は一気に、アルシアの方に放たれ、さらに貫いた。
「ぎゃああぁぁぁ!!!」
そして、そのどす黒い澱んだ光が通り抜けると、地面に落下した。
「ごめん真由……私……守れなかった……」
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