第75話 アルシアに迫る危機!?
――――ここからは、小屋を出た後のアルシアに起きた話である。
アルシアは、大きく息を吸って気持ちを落ち着かせていた。
真由と本音で話せて、心の奥底に溜まっていた葛藤のようなものが取り除かれたせいか、アルシアの表情は清々しかった。
そして、ふとアルシアが周囲を見渡すと、魔力発光する草原とは別のふんわり赤く光るものを発見した。
「あれは何かしら? 魔力も感じる」
アルシアはその場で、パジャマから制服にデザインして、その赤く光る方に歩いて向かった。その赤い光までは300メートルぐらいで、道なり少し下った所にあり、その周囲は少し背の高い草木があった。
そして、アルシアがあと100メートルぐらいの所まで近づいた時、魔力発光する背の高い草木を貫く道に、人影が見えた。
「誰かいる!?」
真夜中にこんな場所で、赤い光を発している人間なんて普通はいない。アルシアは警戒して、その人影に近づいた。すると、赤い光がゆっくりと消え、一人の男が立っていた。
「あなたは誰? そこで何をしているの?」
アルシアが手を伸ばして、魔力で周囲を光で照らすと、そこにいたのは、金髪の長髪に無精髭で、がたいがよく、素行が悪そうな男性だった。
「あー! アルシアちゃんじゃないの! 生で見ると可愛いねー」
「私を知っている!? 誰!?」
アルシアはこの男を知らない。それなのになぜ自分の事を知っているのか、驚きを隠せなかったようだ。
「これは運命だなー。ちょうど会いに行こうと思ったら、アルシアちゃんの方から外に出てくるんだもんなー。ってことは、真由は小屋の中にいるな」
「真由の事まで……あなた一体誰なの!? 目的は!?」
真由の事も知っていた事に、この状況をただごとでは無いと思ったのか、アルシアは声を荒らげた。それでもこの男は全く動じることなく、マイペースで話し続けた。
「俺の名前はガムイって言うんだ。聞いた事無いか?」
「ガムイ……も、もしかしてあの……」
その名前を聞いて、どんな男かを思い出したアルシアは、血の気が引いた。
「アルシアちゃんなら、分かってくれると思ったよー。今日、会いに来た目的は、ダンロッパに頼まれてねー」
「ダ、ダンロッパさん?! ダンロッパさんが何を?」
「直球で言うとねー、アルシアちゃんと真由を殺せと」
「な、何ですって!」
アルシア一気に青ざめた。そして、これから起こる恐怖を考えたのか、身体までも震え出した。
「そんな怖がらなくても、アルシアちゃんにはチャンスがあるぜー。もう一回ダンロッパの元に帰って来るなら、俺はお前に手は出さない。その代り、真由を殺すのを手伝ってもらうぜ」
「そ、そんなこと……出来るわけないじゃない!!!」
恐怖に打ち砕かれそうになっていたアルシアだったけど、ガムイの理不尽な要求に目が覚めたのか、力強い声で否定した。
「おおー! いいねアルシアちゃん! 期待通りの反応だよ!」
「えっ?」
アルシアが要求を否定したのにもかかわらず、ガムイは逆にテンションを上げて喜んだ。アルシアはその意図が分からず、困惑した。
「俺はダンロッパの要求なんてどうでもいいんだよ。ただ、お前らみたいな可愛い女を……ぐっちゃぐちゃにして!! ぶっ殺せたら、それでいいんだよ!! へっへっへっへー」
ついにガムイが本性をあらわにし、獣のように豹変した。とても理性のある人間とは到底思えない顔だ。そして、アルシアの方に駆け足で向かって来た。
アルシアも対抗する為、明かりを照らしていた手を一旦握り、魔力を溜めた。そして、再びを手を広げ、魔動砲打った。
「魔動砲!! 魔動連破砲!!」
「魔動拳! はっはっはー、そんなに打っても当たらなねーよ」
ガムイはアルシアの放つ魔動砲を、拳に魔力を纏わせて、それを盾にして防いだ。
「な、なんでこの距離で防げるの!? まるで軌道が分かっているみたいだわ」
「はっはっはー、俺の優れた魔力感知で、相手が放つ一瞬の魔力の流れで、動きが分かるんだぜ!」
「なら、これでどう! 魔動砲!」
「おっと!」
アルシアは魔力の規模を小さくして、魔物アジリの時のように、スピート重視で魔動砲を放った。
しかし、ガムイは急にスピードを上げた魔動砲に思わず立ち止まったが、ぎりぎりでかわされてしまった。
「凄いね! アルシアちゃん! そんな事が出来るんだー。流石Sランク候補!」
「……」
ガムイは喋りながら、ゆっくりとしゃがみ込み、何故か地面を手で3回程撫でた。
「俺もSランクに憧れた時期があったなー。でも、総合魔法において、魔動砲だけが基準に満たなくてねー、そのせいでなれなかったんだよー。それ以外はSランクを凌駕していたのに、理不尽だよなー」
そして、今度はゆっくり立ち上がり、アルシアから一歩二歩下がり始めた。
「別に魔動砲が苦手でも、どうにでもなるのになー。これぐらいの距離でいいかな」
「何をする気?」
ガムイは5メートルぐらい離れた所で、立ち止まり。アルシアの方を、にやりとした顔で見た。
「でも、魔動砲なんてね、これで十分なんだよ。いくよ! 魔動砲!」
「きゃ!!」
ガムイは魔動砲の構えをせずに、何もない所から、魔動砲とは明らかに違う何かがアルシアの額に直撃をした。
すると、アルシアはめまいのように頭がふらつき膝を付つと、額から血が流れ出た。あまりの一瞬でアルシアも何が起きたのか分からない様子だった。
そして、流れ出る血を手で押さえ、ゆっくりと立ち上がり、押さえていた手が血まみれになっているのを見て、初めて攻撃された事を認識した。
「はっはっはー、血を見るとそそるねー」
「痛い.....なんで? どうして?」
「それは石だよ。石に魔動転化で魔力を纏わせ、魔動拳で魔力を反発させ飛ばしたんだよ。それを一瞬でやったから、捉えきれないだろ。これが俺の魔動砲さぁー。本番はこれからだぜ」
アルシアはこの絶望的な状況でも、奮い立たせて両手に魔力を纏い、ガムイの攻撃に備えた。
「この男をここで止めないと真由が……私が真由を絶対に守る!」
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