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第73話 アルシアの夢

 俺の失言から2人で一緒に寝る事になってしまったが、俺だけのせいじゃないよな?

 アルシアも満更でもないような気がする。


 アルシアは頬を赤くさせて、俺を見つめている。多分、俺も同じように赤くなっているのが想像つく。

 

 ミルネやミリちゃんなら速攻で俺を抱き枕にして、ただ子どもみたいにじゃれているような感じになるが、アルシアは違う。

 少し照れている様子でも大人の雰囲気があり、改めて女の子として認識してしまうのだ。


 うーん、何か話さないと変な空気になりそうだ。

 すると、突然アルシアの手が、やや震えながら俺の髪の方まで伸びて来て、3回程優しく撫でた。



「え!? 何? どうしたの?」

「キャッ! え? あ、ごめんなさい。埃がついていたから」

「そ、そうなのか、ありがとう」



 俺が声を掛けると、急に我に帰るように手を引っ込めた。そもそも、こんな薄暗い状況でよく埃が見えたよな……ははは。


 頼むよアルシア、お前まであっち側に行ってしまったら、誰が俺を助けてくれるんだ!?

 

 ……。


 真面目な話、アルシアは出会った時から助けてくれてるよな。あの時、ダンロッパの刺客の中にアルシアが居なかったら、俺はきっとあのAランクの女子か、魔物のアジリに殺されていただろう。


 しかし、そのせいでアルシアはSランクも危ぶまれ、ダンロッパから恨みを買ってしまった。それから、所属していた討伐隊ロイヤルクラウンを辞めて、俺が隊長のラビットちゃんのメンバーになってくれたわけだが……。


 アルシアも自分が正しいと思っての行動だと思うけど……。

 でも、実際活動してみてラビットちゃんは、ふざけてると思ってないだろうか?

 アルシアの決意を無下にしていないだろうか?



「なぁ、アルシア、ちょっといいか?」

「あ、うん、なに?」



 俺が改まって聞いたせいか、少し動揺したように見えたが、すぐに落ち着きを取り戻し、まじまじと俺を見つめた。それはそれで今度は、俺が緊張してしまうんだが。



「いや、あの、俺の討伐隊メンバーになって後悔してないのかな? っと思って」

「なんでそんな事聞くの?」

「だって、うちの討伐隊ときたら……」

「ふふふ」



 アルシアは突然、何かを思い出したかのように笑い出した。その意外な反応に俺は驚いた。もっと真剣に反応してくると思っていたから。



「真由、私もこんな楽しい討伐隊は初めてよ。確かにもっと真剣にならないといけない時もあるけど、私は好きよ」



 俺はその言葉を聞いて、胸のつかえが取れたような気がした。もしかしたら、俺に気を使っているかもしれないが、嘘を言っているようには見えない。



「そう言ってくれて、ありがとう。でも、アルシアって何で討伐隊になったの?」

「魔王軍から人々を守る為よ」



 確かミルネも同じ事を言っていたな。でも、俺はダンロッパからの闇を粛正するまでで、魔王討伐まで考えていない。



「俺、魔王軍討伐まで考えて無かったけど……ははは」

「それは最終目標よ。まずはネスタリア学園、ベルリア学園がお互い協力することから始めないとね」



 うーん、そう考えれば俺が今からベルリア学園に協力を求めようとする事は、アルシアの考えにも一致することになるのか。

 でも、この2つの学園が組むなんて、ダンロッパが居る限り不可能な気がするな。



「アルシアはいつから、魔王軍の討伐とか考えていたの?」

「うーんと、5歳ぐらいかな」

「5歳!?」



 そんな小さい時からそんな事考えていたのか!? 俺が5歳ぐらいの時なんて……何を考えてたかも覚えてない。



「私、魔力も普通だったし、才能もあるわけでも無かったから、魔法の勉強にはとても苦労したわ」

「え!? そうなの? 初めから優等生だったわけじゃないんだ」

「優等生かどうかは知らないけど、ここまで来るのに大変だったわ。周りも、頑張っても『Bランク止まりだ』ってよく言われたし」


「それがSランク候補までいったんだから、凄いよな」

「……」



 アルシアはにこやかな笑顔で話してくれていたが、突然何かを思い出したのか、視線を落とした。



「どうしたの?」

「あ、いや、何でも無いわ。そう、だから『Bランク止まり』って言われて、余計に頑張ったわ。だから……え、えす、Sランク候補に……」

「あっ」



 薄暗くても顔が近いからよく分かる。アルシアの瞳に光るものが見えた。

 口では大丈夫と言っても、いくら正しい判断をしたと思っても、やっぱり、本音はSランクの魔法使いになりたかったんだろう。


 特にアルシアみたいに努力を重ねてきた者にとっては。

 だから、俺もその思いに答える覚悟を決めないといけない。



「ご、ごめんなさい、真由、私後悔なんてしてないのに……な、なんで涙が出るのかな」

「アルシア、聞いてくれ」

「な、なに?」



 俺はアルシアの肩に手を掛けた。



「Sランクの魔法使いになろうよ」

「……え?」

「どうせなるなら、ちゃんとしたSランクになろうよ」

「真由?」



 アルシアは目を大きく見開いて、言葉が出てこなかったのか、口を開けたままじっと俺を見た。



「このままだとSランクになれるかは、ダンロッパのお気に入り次第という事になってしまう。そんな基準でSランクになっても嬉しくないだろ? だから、討伐隊ラビットちゃんは、ベルリア学園と共闘して、ダンロッパの体制をぶっ壊し、実力でSランクになれるようにしたいんだ」


「……」

「だからまだ諦める必要は無いよ」

「……」



 アルシアは俺の話を真剣に聞いてくれた。少し驚いている表情から、その発想は無かったのだろう。

 そもそも、ラビットちゃんの始まりは追放されたようなもので、泥船でしか無かった。つまり、この船に乗るという事は、これまでのキャリアを捨てる事を意味する。


 だから、アルシアはラビットちゃんのメンバーになる決意をしたと同時に、Sランクになる夢を捨てる決意をしたに違いない。



「アルシアが納得出来るSランクになろう!」

「…….」

「俺はアルシアの想いに答えたい! いや、一緒に夢を叶えたい! だから、最後まで俺は付き合うよ!」


「……真由」



 アルシアは俺を抱き締め、俺の名前を何回も呼んで泣き崩れた。多分俺は、アルシアが胸の中に押し殺していた感情を引き出してしまったかもしれない。



「真由……真由」

「よしよし、せっかくSランク候補までいったんだから、Sランクになろうよ! よく考えたら、今諦める必要無いよ。アルシアなら絶対なれるよ!」


「真由……ありがとう」





 アルシアはもう一度俺を抱き締め、俺もアルシアが落ち着くまで胸を貸した。

 


「落ち着いた?」

「うん、ありがとう。真由に聞いて欲しいんだけど……聞いてくれる?」



 アルシアの表情は爽やかであった。



「いいよ、何の話?」

「私には憧れの魔法使いがいて、その人みたいになりたいと思っているの」

「そうなんだ。その魔法使いは誰なんだ?」

「無理と分かってるんだけど、笑わないで聞いてくれる?」



 多分、みんなが憧れる伝説の凄い魔法使いなんだろう。だから、この歳で本気で目指していると言ったら、笑われると思っているんだろうな。でも、この流れで笑うわけはない。



「笑うわけないだろ。アルシアの憧れの魔法使いなんだろう?」


 

 アルシアは照れてるのか、顔を赤くしながら答えた。



「大魔法使いカリバーさんのようになりたいの!」

「ぶふっ、それはあかーん! はははっはっはっは!!」



 まさかここで、ネトゲ廃人の名前が出るとは!? 一瞬、カリバーとアルシアがゲームしている姿を想像してしまった。これは別の意味で笑ってしまうわ。


 ……。


 あ、やばい思いっきり笑ってしまった。せっかくのいい雰囲気が台無しだ!!



「もーーーう! やっぱり笑った!!」

「この笑いは違うんだよ! どう、うーん、どう説明したらいいんだろう」

「無理と思っているんでしょう! 分かってるわよ! でも、そんなに大笑いしなくてもいいのに!」


「いやー、本当にこれは違うんだよ! 説明したら色々と禁則事項が……」



 どう説明したらいいんだよ! カリバーの事は秘密だし。

 アルシアの顔が今まで一番赤くなっているぞ! 



「もういいわ! えい!」

「え? なに? か、身体が!」



 アルシアは俺に何か魔法を掛けた。でも、今までの経験ですぐに何の魔法か分かった。

 

 これは拘束魔法!!

 

 俺の両手首は後ろに回され、手首、胴体、脚を完全に拘束された。これはミリちゃんの時より酷いぞ!

 しかもぎちぎちだ! 完全に動けない! 



「あのー、アルシアさん、これはどういう事ですか?」


お読み頂き、ありがとうございます。


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